「メタはまだメタバースを諦めていない」CTOインタビューでわかる生成AI登場後の「3つの矢」戦略

マーク・ザッカーバーグ

Metaのマーク・ザッカーバーグCEO。

撮影:西田宗千佳

メタ(Meta、旧Facebook)は9月27日(現地時間)、年次開発者会議「Meta Connect 2023」を、米カリフォルニア州・メンローパークにあるMeta本社で開催した。

Meta ConnectはメタバースやVR(バーチャルリアリティー)に関する開発者イベント、という印象だったが、今回は新しいVRヘッドセットである「Meta Quest 3」が発表されただけにとどまらない。

生成AIを活用した2つの製品「Meta AI」と「Ray-Ban | Meta Smart Glasses Collection」が発表された。

現地取材で得られた、メタのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)CEOや、Andrew Bosworth(アンドリュー・ボスワース)CTOの言葉から、メタの「メタバース×AI」戦略をひもといてみよう。

「手が届くMR」をアピール、アップルを牽制

Meta Connectの3本柱

2023年のMeta Connectは「MR」「AI」「スマートグラス」が三本柱。

撮影:西田宗千佳

ザッカーバーグCEOは発表の冒頭で、今日発表する製品が3つの領域に渡るものであると宣言した。「Mixed Reality(MR、複合現実)」と「AI」「スマートグラス」だ。

「MRは、物理的な世界にデジタル・オブジェクトを持ち込むことを可能にする。AIの進歩は、さまざまなことを達成するのに役立つさまざまなAPIやペルソナ(コンピュータが操るキャラクター)を作ることができる。

そしてスマートグラスは、最終的にこれらすべてを、一日中かけていられる形にまとめることを可能にする」

ザッカーバーグCEOはそう説明する。ただ、そのあとにこうも付け加える。

「今までにないものを発表することでイノベーションを起こすこともある。

だが時には、素晴らしいが超高価なものを、誰にでも手が届くように、あるいは無料で提供できるようにすることで、イノベーションを起こすこともできる」(ザッカーバーグCEO)

そういう「誰にでも手が届く」ものとして最初に発表されたのが「Meta Quest 3」だ(詳しくは既報を参照) 。

Meta Quest 3

Meta Quest 3。日本でも10月10日に発売。

撮影:西田宗千佳

アップルは6月に、同じようにMR技術を使った「Apple Vision Pro」を発表した。品質ではQuest 3より優れているが、価格は3500ドル(約52万3000円)と499ドル(日本版価格7万4800円)で大きく違う。

ザッカーバーグCEOが「誰にでも手が届くもの」という点を強調するのはそのためだ。

ただ、Vision Proに敵わないとはいえ、「今手に入る、手に届く価格の製品」としては、圧倒的に優れたMR性能を持っている。

開発者にはMRアプリケーションの提供を促し、差別化点として進化させていく予定だ。

アンドリュー・ボスワースCTO

Metaのアンドリュー・ボスワースCTO。

撮影:西田宗千佳

一方、メタは2022年、Quest 3と同じくMR機能を持った「Meta Quest Pro」を発売している。当初は22万6800円と高く、2023年3月には15万9500円へと値下げをしており、苦戦が伝えられていた。

ただ、Quest 3はProよりMR品質もグラフィック品質も高く、価格はさらに低い。そのため、不満を持つユーザーもいそうだ。今後の「Proライン」をどうするのか?

筆者の質問に、ボスワースCTOはこう回答した。

「アイトラッキング機能など、Proにしかない機能はある。それらの機能を使って最適化されたアプリケーションは大きな差別化要因だ。

また、我々は多数のヘッドセットを開発中で、その中にはプロ向けのものも、コンシューマ市場向けのものがあり、十分なタイミングが来れば発売するつもりだ。

ただし今は、Quest 3にもQuest Proにも、やるべきことはたくさん残されている」(ボスワースCTO)

AIを「数十億人」に届けるMeta AI

もう1つの軸が「Meta AI」だ。 発表に際し、ザッカーバーグCEOはこうコメントしている。

「2023年はAIにとって素晴らしい年だ。しかし、これは本当に始まりに過ぎない。

というのも、業界全体を見渡してみれば、ほとんどの人はまだ、LLM(大規模言語モデル)やAIの進歩を体験するチャンスに恵まれていないからだ。

そこで今日は、最先端のAIを何十億人もの人々が使うアプリに導入するために取り組んだことについて話したい」(ザッカーバーグCEO)

確かに、生成AIを熱心に使っている人はまだ少ない。日常の道具になり、誰もが日々使っている、とは言えない。

そこで導入されるのが「Meta AI」だ。

Meta AI

人々が日常的に使うメッセージングサービスにチャットAIを統合。

撮影:西田宗千佳

これは、「Facebook Messenger」や「WhatsApp「Instagram」といったメタが提供する日常的なメッセージングアプリの中に生成AIをキャラクターとして組み込むものだ。

それぞれのキャラクターには、大坂なおみやパリス・ヒルトンなどの有名人が起用されているが、話す内容はメタ開発の生成AI「Llama 2」をベースに作られた「キャラクターAI」になる。

キャラクター

Meta AIはキャラクターとチャットで対話するAI。

撮影:西田宗千佳

大坂なおみ選手

大坂なおみ選手は「The Manga MasterのTAMIKA」として登場。

撮影:西田宗千佳

彼らに、献立やダイエットをするときの注意にファッションのアイデア、果てはテーブルトークRPGのゲームマスターまで、テキストで対話できる内容ならなんでも話しかけ、情報を得ることができる。

ザッカーバーグCEO

壇上でザッカーバーグCEOは、Meta AIとチャットしゲームを楽しんだ。

撮影:西田宗千佳

また同時に、「Emu」という画像生成AIも発表された。高速に動作し、メッセンジャーなどの中から画像やステッカーを生成できる。

Emu

Metaの画像生成AI「Emu」。

撮影:西田宗千佳

キャラクター化したAIやかんたんに使える画像生成AIを使い、メタのサービスを使う累計数十億人の人々の「日常」に入り込むのが彼らの作戦だ。

この手法には2つの疑問がある。

アンジェラ・ファン氏

AI担当のリサーチ・サイエンティストであるアンジェラ・ファン氏。

撮影:西田宗千佳

1つは多言語展開についてだ。現状、Meta AIは英語でテストが開始されるという段階で、他の言語についての予定は言及されていない。

多言語対応については、AI担当のリサーチ・サイエンティストであるアンジェラ・ファン(Angela Fan)氏が次のように語る。彼女はAIを使った翻訳に関する世界的な権威の1人である。

「もちろん、多言語化は進めていきます。キャラクターはエンターテインメント性があり、楽しく、多様な興味にアピールするようにデザインされている。

しかし確かに、現状はアメリカ市場向けに集中した作り。今後多言語向けの開発をするにつれ、世界中のさまざまな関心事をカバーする必要がある。ここには間違いなく投資をする」(ファン氏)

もう1つの疑問は、マネタイズだ。

まだテスト段階であるからか、料金プランなども示されていない。Meta AIはもちろんだが、メタ自体が生成AIからどう収益を得るつもりなのだろうか? ボスワースCTOが次のように答えた。

「これはシリコンバレー、そしてマーク・ザッカーバーグの伝統だが、私たちはまず優れた製品を作るところから始める。ビジネスモデルから始めるのではない。

とはいえ、広告とメッセージングの両分野において、有望なビジネスチャンスはある。

例えば広告。生成AIは、広告をさまざまなサービスに最適なフォーマットに変換し、価値を高めることに使えるだろう」(ボスワースCTO)

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