32歳にしてすでに経済的自由を手に入れた株式トレーダーのエリック・スモリンスキー氏と妻のメルさん。
Courtesy of Erik Smolinski
アクティブ運用(有望銘柄を選別して投資し、市場インデックスを上回るリターンを目指す運用手法)で戦う限り、判断ミスは付き物だ。
過去5年にわたって平均25%、最大52%の年間リターンを得た株式トレーダーのエリック・スモリンスキー氏はInsiderの取材にこう語った。
「口座がすっからかんになったとか、ひどい大損をこいたとか、その類いの経験が一切ないトレーダーに会ったことがありません」
現在32歳のスモリンスキー氏が若くして投資を始めたのは、働いて蓄えを作るよう口酸っぱく教えてくれた高校時代の恩師のおかげだ。
彼は成長途上の投資家にありがちな失敗を大学時代に経験した。すでにその時点でオプション取引歴は5年。多少自信過剰になっていたという。
失敗を犯した取引は「アイアンコンドル」だった。
権利行使価格の異なる売りと買いのオプション取引の組み合わせで損失を限定する戦略で、あらかじめ受け取りを計算できるオプションプレミアムの差額(クレジットスプレッド)で利益を出す。
「(アイアンコンドルは)一般的に勝率が高い戦略です。利幅は(ヘッジをかけるために)少なくなるものの、利益を得られる確率は高くなります」
しかし、たった4日間の不用意な取引が大きな失敗を生んだ。
「本当の意味でのリスクマネジメント、リスク分析を徹底できませんでした。つまり、いかに勝率が高いと言ったところで、それはあくまで最初にポジションを取った時点での話で、確率は変動するのです。情報が変われば、何もかも変わってしまう。
(オプションのレンジだけでなく)株価そのものがどう動く可能性があったのか、そして実際にどう動いたのか、そのあたりを完璧に徹底して対応すべきでした」
アイアンコンドルをセットした数日後、彼はワークアウト(トレーニング)のためにジムに向かう道すがら、スマートフォンでトレーディングアプリを開いた。
「ポートフォリオの資産総額が大幅に目減りしたのが一目瞭然でした。下落率にして30%半ば。たった一度の取引で……当時学生だった自分には莫大な金額です。
スマホの画面を見ていた自分、目の前で動いている現実を何とか咀嚼(そしゃく)しようとしたことだけは覚えています。
最初にアプリの画面を見たのは駐車場で、ジムに入ってからもう一度見て、それから取引を決済しました。ああ、これはもう手に負えない、そんな感じでしたね。何が起こっているのか分からない。事態を把握するにはまず出血を止める必要があったのです」
スモリンスキー氏がそれまで経験した中で最大の下落率だった。と言っても、今日の彼にとってはさほど大きな額ではない。彼は現在、取引口座に7ケタ(数億円に相当)の資産を抱え、事業用不動産などに分散投資されたポートフォリオを運用している。
「それでも、当時の私にとっては巨額と言える金額の損失でした」
彼はこの時の失敗を通じて、認知バイアスの一種である「ダニングクルーガー効果」を学んだ。
「自身に対する劇的なほどの過大評価と、自身の行為に関する分析不足。それはあらゆるトレーダーにとって極めて危険な状態です。
取引を始めたばかりの素人の頃は何も知らないし、何も知らないことを自覚している。ところが、多くの時間と労力を費やして学習していくと、何か分かったような気になりますが、残念なことに、実際はまだまだ知らないことだらけなのです」
特にトレーダーにとっては、自分では認識していない、あるいは理解すらしていないリスクにさらされる可能性がある。それがまさにスモリンスキー氏の身に起きたことだ。
結果的に、この時のスモリンスキー氏の失敗は、彼のトレーディング歴において最も重要な転換点となり、自身のトレーディング技能と戦略を問答無用で見つめ直すタイミングとなった。
「それまで読んだどんな入門書や戦術書より多くのことをあの失敗から教わりました。ストーブに触れてみないと、熱いことには気づかない。それがほとんどのトレーダーにとっての現実なのです」
トレードプランの圧倒的重要性
スモリンスキー氏は前節で述べたような最初の大損を経験するまで、トレードプランを作り込んだことがなかった。
手ほどきを受けたメンターの一人からは、計画を立てるようアドバイスを受けていたものの、どこから手を付ければいいのか、計画に何を盛り込めばいいのか、検討もつかなった。
そして、本音のところでは「聞く限りいかにも大変そうだった」し、「とにかく早く稼ぎたかった」ために手を付けなかった。
しかし、上述のような大損をきっかけに、彼はついにWordの新規文書ファイルを用意し、トレードプランの作成と記載に取りかかった。現在ではその分量は388ページにも及ぶ。
「戦略の概要」などいくつものセクションから成るそのトレードプランには、主に二つの目的がある。
一つは、多数のシナリオを想定しておくことで、期待通りの展開にならなかった場合でもある程度のロードマップを見い出せること。もう一つは、感情に支配されることなく最善の決定を下すのに役立つことだ。
同じ目的に対してはトレードログ(取引履歴)も機能するところだが、スモリンスキー氏はトレードログのために別途ドキュメントを作成し、長年にわたる取引を通じて積み上げてきたデータを保存している。
スモリンスキー氏はトレードプランやトレードログの作成に際しては、当初膨大な労力と時間を要したと明かす。
しかし、いまではそれらが連動して一つの仕組みとして機能するようになり、最終的には、物事を筋道立てて考えるきちんとしたトレーダーがそれを見れば、成功する戦略とそうでないものを判断できるようになっている。