なぜリスキリングは「人ごと」なのか。アメリカで注目「4年学んで4年務める」キャリアの潮流

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日本でChatGPTの議論になると「ChatGPTで無くなる職業はどんな職業か?」という点が注目されてしまう。

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こんにちは。パロアルトインサイトCEOの石角友愛です。

本日は、変化の大きいAI時代に生きる私たちがどのようにキャリアを描いていくべきかについて掘り下げたいと思います。

9月25日に、私の新著『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』が発売されました。

2023年2月にChatGPTの有料版「ChatGPT Plus」が公開されて以来、日本でもChatGPTについてさまざまな媒体でニュースや特集が組まれてきました。

IT系のメディアや、経済メディアはもちろんのこと、地上波のテレビ番組やファッション誌などでも、ChatGPTが教育や仕事に与える影響や、ChatGPT以降の働き方について識者が語るといった特集が目立ちました。私にも、さまざまなメディアから出演依頼や講演依頼が届きました。

私はChatGPTに代表される「生成AI」の革新的な技術進歩は、大きなパラダイムシフトだと考えています。

しかし日本でChatGPTの議論に参加していると、違和感を覚えることが多くありました。必ずといっていいほど「ChatGPTで無くなる職業はどんな職業か?」「生き残る職業はどんな職業か?」という質問があったからです。

なぜか日本では「ChatGPTに仕事を奪われる」という前提で話が進むことが多いのです。

ChatGPTで「仕事はなくなる」のか

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Giulio Benzin / Shutterstock

「ChatGPTでなくなる職業がある」という煽り方は、ワイドショー的な感覚で接するぶんには良いのですが、立ち位置を誤って今回の技術革新を見ることは非常に危険だと考えています。そういう見方を鵜呑みにしてしまうこと自体、今後のキャリアを危うくすると言えるくらいだと思っています。

なぜなら、このChatGPTという技術革新が投げかける問いの本質は「どんな職業が残るのか。どんな職業がなくなるのか」ではなく、「どんな人が(良い条件で)働き続けられるのか。どんな人が働き続けられなくなるのか」だからです。

では、ChatGPTに代表されるような、変化の激しいAI時代において、私たちはどのように自分自身をアップデートしていけばよいのでしょうか。そして、どうすれば一生稼ぎ続けられる人間でいられるのでしょうか。

私がこの記事でお伝えしたいのは、企業視点ではなく、実際に働く私たちの目線で、「一生稼げる力を得るために、何をどのように学んでいけばよいのか」ということです。

  • リスキリングの必要性に少しだけ早くさらされたアメリカ、特にシリコンバレーの働き手たちに何が起こっているのか
  • 日本で起こりうる変化とどのように関連してくるのか
  • 日本で働くみなさんがそれにどう対処すればよいか 

について、提案していきたいと考えています。

「4 to 40キャリア」時代から「4 to 4️キャリア」に突入

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Gettyimages

ここで言う「4to40キャリア」とは、高度経済成長以降、長く続いてきた「大学で4年間教育を受けて40年間働く。そして60歳で引退する」というモデルです。

日本のようにすでに少子化が進み、財源の確保が難しくなっているほとんどの先進国は、そもそも60歳で引退するという人生プラン自体が破綻しはじめていることはご存知だと思います。

日本に限らず先進国のどの国でも、政府は「定年後、いかに働き続けてもらうか」を議論しています。

一方で「4to4キャリア」とは、「4年学んだ知識で4年働く」といったキャリアモデルです。

学び直しをしてスキルアップし、また働く。日本でも40代、50代で大学や大学院に行く人が増えてきましたが、アメリカでは学び直しのために大学院にいくことは当たり前になってきています。

とくにオンラインの大学院や質の高いオンラインコースなどには、年齢関係なく幅広い人たちが参加し、学び直しに励んでいます。

ここでいう「学び直し」は、学校に通ってMBAをとるなどだけではなく、サバティカル休暇で旅に出て知見を広めること、他分野での副業で新しいスキルを身につけるといったものまで幅広いものを指します。

アメリカでは「レレバント(relevant)でいる」という言葉をよく使います。直訳すると「関係性がある」という意味で、「常に市場にとって自分の関連性が高い状態でいる」といったニュアンスの言葉です。

レレバントでいるために、業界にとってどれだけ求められる人材でい続けられるのか。そう考えた時に、「学び続けられること」は必須のスキルであると考えられているのです。

あなたはいかに「レレバントでいる」ことができるか

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Shutterstock/umaruchan4678

ここまでリスキリングの重要性について語ってきましたが、いまやリスキリングは世界中で、生産年齢の全世代が避けて通れない重要な課題として考えられています。一方で日本では「リスキリング」という言葉が、一過性のバズワードのように使われていることに不安を感じます。

リスキリングという言葉を聞くと、反射的に「面倒なこと」や「こんなに忙しいのに、どうして学び直ししなくてはならないの?」と感じてしまう風潮になっていることにも危機感を覚えます。

私の住んでいるアメリカでは「自分のために取り組む」リスキリングが、なぜか日本では「人にやらされる」面倒なことになっているのか——。

それを考えた時、日本での「リスキリング」は、その主語が企業であることが多いからだと私は考えています。

実際のところ「リスキリング」の概念は、「企業が自社に必要なスキルを自社の人材の再教育によって確保する」という意味で使われることが多いのも事実です。しかし「企業が従業員を学び直しさせる」という概念だけが先行した結果、従業員視点が抜け落ちているのが現状です。

リスキリングを実行した結果、従業員にはどのようなメリットがあるのか。キャリアアップにつながるのか。給料のアップは見込めるのか。

このような視点で、「リスキリングに成功した人材を評価するシステム」や「制度」が準備されていないために、従業員のリスキリングが人ごとになってしまっているのです。

「リスキリング=学位や資格の取得」という誤解から解放される

これまで説明した通り、日本ではリスキリングという言葉が曖昧な形で使われているため、その言葉で抱くイメージも人それぞれになっています。

仕事を続けながら学び直すことは無理だから、どこかで仕事をやめるか、休職するなどしてバランスを取らなければ……と深刻に考えている人も多いと思います。

ここで強調したいのが、リスキリングというのは、何も学校に通ったり資格をとったりすることだけではないということです。

それこそChatGPTのような先端のAIツールを使いこなせるようになるだけでも立派なリスキリングだと言えるでしょう。そして、今後はそれができる人とできない人で、給与水準が大きく変わってくることも容易に想像できます。

ここで紹介するのが、リスキリングを様々なレベル別で捉えることができること説明している「リスキリングオプションマトリックス」です。

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出典:『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(石角友愛著・日経BP)より抜粋。

縦軸が、具体的な課題に対してピンポイントのスキルを手に入れるのか、さまざまな応用の効く汎用性の高いスキルを手に入れるのかの軸。横軸がそのスキルを習得するのにかかる時間やコスト、労力の軸を示しています。

たとえば、ピンポイントでデータサイエンスのスキルを手に入れたいと思ったら、大学院に行かずとも「ブートキャンプ系」のリスキリングで、1カ月から半年程度の短期間に集中して学び、身につけることもできます。

もっと幅広く汎用性の高い知識を手軽に手に入れたいのであれば、YouTubeや書籍で「教養系」のスキルを手に入れることも考えられます。

ChatGPTに代表されるようなAIツールは、時間もコストも少なくてすむ「ツール系」のスキルです。一見ハードルが高そうですが、自分の得たい学習領域がどこに該当するかと気づくだけで、さらに選択肢が広がるのではないでしょうか。

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