若年層の強い支持を受けるゲームプラットフォームのロブロックス(Roblox)が「没入型広告」を武器に広告事業の成長を加速させようとしている。
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ゲームプラットフォームのロブロックス(Roblox)は10月2日、パートナーシップ部門で重要な幹部人材採用を行ったことを明らかにした。
この補強により、新たに導入した広告ネットワークを広く開放し、バーチャル体験の創出を希望するブランド広告主を呼び込む準備は万全の模様だ。
ステファニー・レイサム氏は間もなくロブロックスのグローバル広告パートナーシップ担当バイスプレジデントに就任する。直前までメタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)で同じポジションを担っていた。
ロブロックスでの直属の上司は、7月に最高パートナーシップ責任者(CPO)に就任したばかりのクリスティーナ・ウートン氏。彼女の昇格前のポジションをレイサムが担うことになる。
ウートン氏はInsider編集部の取材にこう語った。
「2023年はテストと学習で終わりそうですが、24年はスケールアップの年になります」
ロブロックスは今年新たに「イマーシブ(没入型)広告」を導入し、当初は2種類のフォーマットを用意した。
うち一方の「イメージ(画像)広告」は、ロブロックスのバーチャル空間内に表示されるクリックできない静止画像で、もう一方の「ポータル広告」は、クリックしたユーザーをロブロックス内に設置された広告主のバーチャル空間やゲームにテレポートさせるドアを備えた静止画像だ。
ロブロックスの開発者は、これらの没入型広告が生み出す収益の一部を、同ゲームプラットフォーム内通貨のロバックス(Robux)の形で受け取る。ロバックスは「開発者エクスチェンジ(DevEx)」プログラムを通じて現金(米ドル)に換金できる。
高級化粧品のNARS(ナーズ)、ファストファッションのH&M、音楽配信のSpotify(スポティファイ)など大手広告主がいち早く没入型広告の本格導入に向けてテストを始めている。
ロブロックスはこの没入型広告の作成や配信、管理などに直接関与できるセルフサービス広告プラットフォームを、2023年末までにより多くの広告主に開放する計画という。
ウートン氏の説明によれば、ロブロックスは目下、より多くのマーケティング担当者に同社のプラットフォームを活用してもらうため、広告効果測定を手がけるパートナー企業と組んでブランドリフト調査(ブランディング広告の効果測定)を実施している最中だ。
また、5月に同社が発表したパートナープログラムも進展中で、先行アクセス権の提供を受けたアーリーアダプター7社には、電通とヴェイナースリー(Vayner3)が名を連ねる。
ロブロックスはかつて決算発表に際して、広告およびライセンス契約が同社の売上高に占める割合は「取るに足りない(insignificant)」と説明していたが、11月開催予定のインベスターデイ(投資家向け事業説明会)では初めて広告部門の売上高見通しを発表する意向を示している。
この夏からロブロックス(Roblox)の最高パートナーシップ責任者(CPO)に昇格したクリスティーナ・ウートン氏。
Roblox
ウートン氏は、ロブロックスのマーケター向けの取り組みが実を結び始めていることを示す重要な指標として、社内にロブロックス専門チームを新設するブランドが出てきていることを挙げる。
「ロブロックスのバーチャル空間について知識を深めるブランドや広告エージェンシーは確実に増えており、結果として『イノベーション(新機軸)とエクスペリエンシャル(体験)』から『メディアとマーケティング』へと予算のシフトが進んでいます」(ウートン氏)
2023年は景気後退懸念や金利上昇、インフレなど複数のマクロ要因から企業が軒並みマーケティング予算を絞り込んでいる上、動画配信大手ネットフリックス(Netflix)や配車大手ウーバー(Uber)らが新たに広告プラットフォームをローンチさせたことで、予算獲得競争が激化している。
そんな厳しい状況の中で、ロブロックスは極めて限定的な(バーチャル世界という)商品を武器に広告市場に参入しようとしていることになる。
2022年12月から電通のエグゼクティブバイスプレジデント(ゲーミング部門担当)を務めるブレント・コーニング氏は、ロブロックスの動きをこう見ている。
「ロブロックスは徹頭徹尾プレーヤーの味方なんです。そのスタンスは、長年ゲーム業界に身を置いてきた人間にとっては新鮮に映ると思いますが、存分にブランドをアピールしたくて、そのために予算を用意する広告主からすると、もどかしく感じられるかもしれませんね」
一方、コンサル会社プラグマティック・フューチュリズム(Pragmatic Futurism)のニレシュ・アシュラ最高経営責任者(CEO)は次のように評価する。
「ロブロックスは、7月時点で6600万人のデイリーアクティブユーザー(DAU)を抱える規模感と、同社のプラットフォーム上に恒久的に設置できるブランディングの目的地(すなわち広告主のバーチャル空間)という魅力的なコンビネーションを提供しています」
「ブランド各社にとって最も大きな課題は、オーディエンスの規模感に目を奪われ、そこでマーケティングをしようとしても、すぐに(その下心は)見破られてしまうということです。
ロブロックスの世界でメインストリームとなっているカルチャーとしっかりトーンを揃えたものを作らないと、広告は機能しません」