新型EV「EX30」の日本発売に先立ち来日した、ボルボ本社Head of Circular Economyのオウェイン・グリフィス氏。
撮影:伊藤圭
価格競争力の高いコンパクトSUVタイプの新型EV「EX30」を発売し、EV市場に本格参戦したスウェーデン自動車大手Volvo Cars(ボルボ)。
日本でも11月の発売に先立ち、10月2日からサブスクリプションの受付を開始した。メキシコ、ブラジルなどでは、BYDの人気EV「ATTO 3」より航続距離が長く低価格とあって、BYD一強状態に風穴を開けるのではないかといった期待も高まっている。
注目は価格だけではない。サーキュラーエコノミー(循環型経済)に対するボルボの姿勢だ。
カーボンフットプリント(温室効果ガス排出量)は、走行時だけでなく、生産から廃棄まで含めたライフサイクル全体で「ボルボ史上最少」をうたう。リサイクル素材の利用率がボルボ製品のなかで最も高いなど、「2040年にクライメートニュートラル(※)実現」に向けた同社の本気度を示すモデルとなっている。
※クライメートニュートラル:企業活動にともなう温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする取り組み。カーボンニュートラルとほぼ同じ意味で使われるが、厳密に言えば、カーボンニュートラルが二酸化炭素などのカーボンに着目しているのに対し、クライメートニュートラルはメタンや一酸化二窒素、フロンガスなどすべての温室効果ガスを含む。
同社のサーキュラーエコノミー戦略について、来日したボルボ本社Head of Circular Economyのオウェイン・グリフィス氏に聞いた。
(聞き手・高阪のぞみ、文・湯田陽子)
「Head of Circular Economy」という“常識”
撮影:伊藤圭
—— 2021年に、いち早く「2030年までにEV100%宣言」をした。改めて、ボルボのサステナビリティ戦略とは。
ボルボにとって、サステナビリティは成長していくための鍵となるものだ。重視しているのは、気候に関するアクションプランとサーキュラーエコノミー、それらを倫理的で責任あるビジネスとして進めていくこと。この3つを柱に、2040年クライメートニュートラルを目指している。
—— サステナビリティの観点からEX30の特徴は。
C40、XC40などボルボが販売しているEVと比べ、1台あたりのカーボンフットプリントが25%低い、30トンとなっている。リサイクル素材の利用率はアルミで25%、スチールが17%、プラスチックも17%となっている。
これは現在の平均値であり、2025年、2040年に向けてその値をさらに上げていく。
EX30には「ボルボ史上最少」のカーボンフットプリントを達成するため数々の技術を投入。
提供:Volvo Cars
——「Head of Circular Economy」というポジションは日本ではまだ馴染みがないが、どんな役割を担っているのか。
組織面で言うと、ボルボ本社CEOの直下にサステナビリティのヘッドがいて、その直下に私がいる。CEO直結の太いコミュニケーションラインがあり、それだけ我が社がサーキュラーエコノミー(循環型経済)を重視していることの証だと言える。
タスクとしては、サーキュラーエコノミーに関する戦略全体のマネジメント。原材料、水、エネルギーといったリソースの調達、その調達が経済的に見合うかどうかや、廃棄のあり方・戦略も担当している。その他、最近注目されている生物多様性への対応についても進捗を監督する立場にある。
—— 北欧の企業では一般的にあるポジションなのか。
ヨーロッパではそれほど珍しいわけではない。名称はさまざまだが、大企業ではイケアやユニリーバ、アップル、マイクロソフトなど、自動車産業以外でもよく見られるポジションだ。一種のトレンドかもしれない。
—— トレンドとは。
ヨーロッパでは、サーキュラーエコノミーについてより詳しい報告を定期的かつ直接的に送ってほしいという要求が、株主や顧客、NGOといったステークホルダーの間で高まっており、ただサーキュラーエコノミーのヘッドがいるというだけでは満足してもらえなくなってきた。今後はサーキュラーエコノミーのリーダーの役割がさらに重要視されるようになるだろう。
—— EUではサステナビリティ情報開示に関する規制も強化されつつある。
サステナビリティに関する報告書は現時点でも開示することになっているが、「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」という、より厳しい規制が導入されることになった。これによって、企業のサステナビリティレポートは今後、金融業界で言うアナリストレポートと同じような重要性を持つようになるだろうと言われている。
ボルボのサーキュラーエコノミー戦略における素材のリサイクル率目標。
提供:Volvo Cars
—— サーキュラーエコノミーに対する意識は。
サーキュラーエコノミーは、多くの人に受け入れられやすいコンセプトだと思っている。科学的な根拠があり効果を可視化しやすく、ビジネスベースで拡大できる。企業としては取り組みやすい方向性ではないか。
ボルボのEX30に関して言えば、自動車業界に長年携わっている人からすると、サステナビリティに対して初めて真剣にコミットした車だと言われる。日本でも反響が大きかったようで非常に嬉しい。
信頼性のあるサステナビリティの情報はどこまで提供できるのか、いまだかつてない深さ・広さで求められており、サステナビリティが大きな潮流になってきていると感じる。
—— ビジネス的な側面で、ボルボはサーキュラーエコノミーをどう位置づけているのか。
ビジネスとして新たな収益源にしていくことを目指している。収益化させ成長させることも私の役割だ。