おいしいチャーハン。その調理者は人かロボットか見分けがつかない。
撮影:小林優多郎
日常生活で「ロボットが作る食事」を食べる未来がすぐそこまで近づいている。
中華料理チェーンを展開する大阪王将は10月1日、東京都品川区にある「大阪王将 西五反田店」をリニューアルした。主な変更点は新しい調理ロボットの導入だ。
飲食業界に限らず人手不足は慢性的な問題だが、大阪王将の植月剛社長は「今までできなかったメニューや商品の提案ができる」と、ロボット導入の狙いを語る。
ロボットで「カスタマイズできる野菜炒め」
9月1日から9月30日まで改装していた大阪王将 西五反田店。
撮影:小林優多郎
今回、調理ロボット「I-Robo」を導入した西五反田店は、店舗面積26.8坪、座席数34席の一般的な大阪王将の店舗だ。遠目に看板を見ただけではロボットが導入されているとはわからない。
店内の席に注文用のタブレットは置かれているものの、調理スペースのロボットも見えず、メニューにも記載がない。おそらく多くの客が「実はロボットが調理した料理」を気づかずに食べることになるだろう。
大阪王将 西五反田店の内装。通常の大阪王将とは趣が異なる内装で「台湾レトロ」をイメージしているという。
撮影:小林優多郎
約60種類ある大阪王将のメニューから、今回、I-Roboが調理して提供するのは約20種類の商品だ。看板メニューの餃子は含まれず、チャーハンや焼きそば、レバニラ炒めなど「炒め物」が中心となる。
冒頭に紹介した植月社長が話す「今までできなかったメニュー」として、限定メニュー「じぶん盛り野菜炒め」も用意されている。
じぶん盛り野菜炒めは、具材や味付けを指定して注文する。
撮影:小林優多郎
じぶん盛り野菜炒めは、キャベツミックスの量やニンジンやタケノコなどのトッピングや、肉の種類と量、「マーラー醤」やガーリック風などの味付けを、自分好みに選んで注文する商品だ。
こうしたカスタマイズ商品は従来の大阪王将でも「やろうと思えばできた」(植月社長)ものだが、従業員への負荷やオペレーションの問題から実現できなかった。
ロボットの導入により、安定かつ従来より比較的素早い商品提供が可能になったため実現できたと言える。
「1級レベルの職人」の技をロボットで再現
注文した「じぶん盛り野菜炒め」。
撮影:小林優多郎
とは言え、飲食店として肝心なのは味だろう。
実際にロボットが調理した「五目チャーハン」「エビチリ」「じぶん盛り野菜炒め」を試食してみたがどれも美味しかった。
料理が温かいのはもちろん、チャーハンはパラパラとして、野菜炒めも味がしっかりと野菜や肉についている。見た目も人が作った料理と比べても素人目では違いがわからない。
炒め物の比較。左がロボット調理のものだが、正直区別がつかない。
撮影:小林優多郎
大阪王将では、従業員の調理の速さと質を3級〜1級の3段階で評価する検定制度があり、1級の腕を持つ人は全国でたった17人しか存在しない。
しかし、この1級の人の鍋さばきを半年間研究し、調理法とともにデジタルレシピ化したことで、ロボットでも「1級レベルの職人のクオリティー」を実現しているという。
ロボットで提供されるメニューは炒め物が中心になっている。
撮影:小林優多郎
現状ではまだ、「5人前以上などの大量調理」や「卵に空気を入れてふわっとした食感を出す必要がある天津飯」ができないなど、課題もある。しかし今後も研究や検証を重ね「天津飯もぜひやりたい」(いずれも植月社長)と意気込みを語っていた。
全自動ではないものの現実的なサイズ感
I-Roboの外観。中央の鍋に具材を入れていき、あとは自動で加熱やかき混ぜなどをやってくれる。
撮影:小林優多郎
今回の導入されたI-Roboは、TechMagicと大阪王将が共同開発したもの。調理ロボットと言えど、具材や調味料の挿入、盛り付けは人間が担当。調理と清掃作業が自動化される仕組みになっている。
TechMagicは調理ロボットのスタートアップでプロントなどとの開発実績もある。それらのロボットでは具材や調味料の挿入も自動化されている例もある。
I-Roboの右側にはディスプレイが用意されており、次に人間がやるべき作業が表示されている。
撮影:小林優多郎
今回、一部の作業を人間が行う仕組みに変えているのは、サイズやコストの問題があるという。
例えば、プロントの一部店舗に導入された「P-Robo」は最短45秒でパスタを調理できるが、全長が4mほどもある。2022年6月に導入した丸の内の店舗では、調理場には設置されたのは1台だけだ。
今回の大阪王将 西五反田店には3台のI-Roboが導入されている。I-Roboは横幅も人間1人分くらいしかなく、比較的簡単に置ける点が特徴的だ。
調理が終わり、料理を取り出すと自動で鍋が洗浄される(鍋が回転して後ろの洗浄モジュールに移動する)。
撮影:小林優多郎
調理スピードは「人がするより少し早いくらい」(植月社長)だが、清掃が自動化されていることでその空いた時間で別の作業をしたり、清掃用の水の節約(中華鍋の清掃には約3Lの水が必要だが、I-Roboは約1.5L)につながるという。
2024春頃には全国へ、課題は導入コスト
「調理場から人がいなくなることはない」と語る大阪王将の植月剛社長。
撮影:小林優多郎
大阪王将はI-Roboの全国展開にかなり積極的な姿勢を見せている。西五反田店で検証をの2、3カ月続けて、まずは直営店に拡大。その後は、2024年4月頃までにはフランチャイズ店を含めた全国に広げていく計画だという。
ロボット導入の背景には人手不足と調理者の教育コストがあると植月社長は語る。
大阪王将が考えるロボット導入のメリット。
撮影:小林優多郎
大阪王将では調理場に立つまでに実地を含めた研修を受ける必要がある。その期間は大体6カ月ほどで、味のクオリティーを求める上で不可欠とはいえ負担は小さくない。
加えて、前述の1級レベルの調理者には高齢化が進んでいる。蓄積されたノウハウを次の世代に継承しようにも、「人もいない」「時間もない」状況で、作業の効率化が急務だった。
ロボットが稼働することで、調理者の負担が軽減される。さらに大阪王将は「例えばアルバイトしかいない店舗でも(ロボットがあれば)職人級の料理が出せる」など、店舗経営的にも、食べる客にとってもメリットがあると踏んでいる。
「労働力が確実に少なくなる未来が来る」と語るTechMagicの白木裕士社長。
撮影:小林優多郎
課題となるのは店舗のオペレーションやロボットの導入コストになる。
導入コストについて植月社長は、現在では1台あたり「一般社員の年収ぐらい」と説明。調理場などの改装も必要なため「半分くらいにならないと投資回収は難しい」としている。
TechMagicの白木裕士社長は、大阪王将による大量導入でどの程度コストを抑えられるか明言はしなかったが「しっかり要望を伺いながらサポートしていく」と、今後の展開にも期待をもたせた。