左から、NTTドコモ副社長スマートライフカンパニー長 前田義晃氏、NTTドコモ社長 井伊基之氏、マネックスグループ会長 松本大氏、マネックスグループ社長 清明祐子氏。清明氏はマネックス証券の社長も務める。
撮影:Business Insider Japan
NTTドコモ(以下、ドコモ)が、証券業についに本格参入する。組む相手はマネックスグループのマネックス証券、しかもマネックス証券社を子会社化して挑む —— 10月4日の午後、通信業界には大型提携のニュースが駆け巡った。
話題性の一方、プレスリリースにはドコモ×マネックス証券のビジネスがどんな形を目指すのか、そもそもサービス名称やマネックス証券自体がどうなるのかすら、当初発表では明言していない。それもまた、逆に注目を集めたと言える。
4日夕方の記者会見でようやく見えてきた、ドコモ経済圏を金融事業にまで広げる「本格参入」の状況を登壇者の言葉から解説する。
「マネックスの想いを巨人・ドコモの基盤に載せられる」
10月4日15時のプレスリリース配信から3時間後、都内で開かれた記者会見には、ドコモの井伊基之社長、マネックスグループの松本大会長ら両社の幹部がそろって現れた。
「証券業界のパイオニアであるマネックスグループ様と当社の新たなパートナーシップを皆様にお伝えできる日がやってきました」(ドコモ・井伊社長)
「ドコモさんとは同じような企業理念を共有している。ドコモさんと手を組んでお客様の今と未来をサポートすることは同じ企業理念の追求」(マネックスG・松本会長)
「私たちの想い、理念、哲学、そういったことすべてを『巨人』ドコモの基盤に載せることができる」(マネックス証券・清明社長)
互いに尊重するコメントを交わしながら、ドコモ・井伊社長、マネックスG松本会長、マネックス証券清明祐子社長の声のトーンの明るさからは、資本業務提携が双方にとってWin-Winだという理解のもと発表に至ったことが感じられる。
提携交渉が始まった時期について、マネックス側は「詳細は明かせない」とする。ただし、これまでドコモとはdポイントとマネックスポイントのポイント交換を通じて、信頼構築ができていたことなどから、それほど長い時間をかけることなく今回の資本業務提携発表に至ったと明かす。
会見では、肝心の「提携後のマネックス証券がどうなっていくのか」「後発のドコモがどんな金融事業で勝算を描いているのか」も、質疑などを通しておぼろげながら見えてきた。
以下、Q&A形式でまとめてみよう。
Q. ドコモの金融サービスの名称に「マネックス」の名前は残るのか。それとも「d証券」のような名称になるのか
A. マネックスの名称を優先し「d」にはこだわらない。
ドコモ側の発言を総合すると、新金融・投資サービスの立ち上げのために、「マネックス」のブランド名称を積極的に使いたいというドコモの腹づもりが見えてきた。
積立NISA(新NISA)を突破口に、ドコモが持つ9600万のdポイント会員基盤で金融事業を立ち上げる。データ活用をし、投資信託や外国株への投資サービスも視野に入れる。
撮影:Business Insider Japan
実際、ドコモ幹部は囲み取材のなかで次のように発言している。
「いま決まっているのは、マネックス証券という名前は、まず残すと決まっている。マネックスのこれまでの信用や業績が投資サービス(の成長)に直結すると思っている」
「サービス名称については、なんでもかんでも『d』をつければ良いということでもない」
Q. 既存のマネックス証券とドコモの新金融サービスの関係は?
A. 独立したサービスとして展開する。
ドコモ幹部、マネックス証券幹部双方の話を総合すると、
- 既存の「マネックス証券」サービスはそのまま残る。ユーザーもそのままで変化はない。
- ドコモ側の新金融サービスは、新たに別サービスとして作る。個別アプリ化も視野。
サービス同士が独立した状態を想定していることから、既存のマネックス証券のユーザー移行を促すような施策も実施しない見通しだ。
Q. どんなスケジュールでドコモがサービス化していくのか。2024年1月に始まる「新NISA制度」に間に合うのか
A. ドコモ井伊社長は「間に合う」と発言。
新NISAを突破口にドコモは金融サービスに本格参入する。
撮影:Business Insider Japan
10月に入ってからの大型提携発表の背景には、新NISAへの対応を進めたいというドコモ側の意向があった、とマネックス証券・清明社長は言及している。
一方、新NISAが始まる2024年1月まで3カ月を切り、残された時間が限られているのも事実だ。
ドコモ井伊社長は「全速力で間に合うようにするが、基本的に既にマネックスさんが対応されているので、その上に(ドコモの金融新サービスを)立ち上げていく」と、ゼロから立ち上げるわけではないために間に合わせられるとの見方を示した。
Q. 現・マネックス証券のサービスと、運営組織はどうなるのか。実質的にマネックスGが「マネックス証券」を売ったのか?
A. 法人の親子関係としてはマネックス証券が「ドコモ連結子会社」になるが、ビジネス上はドコモ・マネックスが、対等に近いパートナー関係になることを意図していると見られる。
囲み取材のなかでマネックス証券・清明社長は「(事業を)売るという感覚はなくて、マネックス証券の成長のために新しいパートナーを迎え入れていると考えている」と断言している。
資本業務提携の構造。ドコモがマネックス証券を直接子会社化するのではなく、間に中間持株会社を挟む形。中間持株会社は2023年12月に設立し、2024年1月4日付けで商号が「ドコモマネックスホールディングス」となる予定。
出典:マネックスグループ資料より
またドコモ側は、マネックス証券社を直接的に子会社化しなかった背景について、マネックス側からの要望があったとも明かす。
間に中間持株会社を挟むことによって、経営と執行を分離できることが、証券会社として「非常に心地いい姿」(ドコモ幹部)であり、提携前の状態(経営:マネックスG、執行:マネックス証券)と同じ形の働き方ができると語っている。
なお、実際上のマネックスG側の売却益は、日本基準の単体損益計算書上で211億円(税金及び税効果考慮前)などを計上する予定と公表している。
Q. 資本業務提携のなかで、ドコモとマネックスGの議決権所有割合をドコモ49%、マネックスG51%とした理由は?
A.両社が色々な意味で「やりやすい形」だった。
「お互いに一番やりやすい(形で)協議して決めさせてもらった」(ドコモ・井伊社長)
「証券会社は法令、制度に基づいて運用するわけだが、既存のお客様、パートナー様もいらっしゃること、そして金融法令に基づいてしっかり監督官庁も含めた形でビジネスをする、そういったことから(マネックスが)51%を保有するのがいいだろうと」(マネックス証券・清明社長)
なお、中間持株会社の議決権所有割合はマネックスが主導する形だが、「ドコモが取締役の過半数を指名する権利を持つ」ことになるため、実質支配力基準に基づいて、マネックス証券社、その親会社にあたる中間持株会社ともに、ドコモの連結子会社という扱いだ。
Q. 資本業務提携を通じて、目指すビジネス規模は?
A. 4年以内に「500万口座、預かり資産15兆円」
マネックス証券・清明社長によると「まずは500万口座、預かり資産15兆円」という規模感を3〜4年後を目処に目指す方針。
なお、現時点のマネックス証券の規模感は、「220万口座、預かり資産7兆円程度」(同)。清明社長は、提携前の予定では、3年後程度を目処に「300万口座、預かり資産10兆円」を目標としていたことを明かしている。つまり、およそ+200万口座分がドコモとの提携効果ということになる。