※この記事は、ブランディングを担う次世代リーダー向けのメディアDIGIDAY[日本版]の有料サービス「DIGIDAY+」からの転載です。
ソーシャルメディアは体験として二極化が進んでおり、マーケターはどのチャネルがニーズに合うかを見極めようとしている。
二極化とは、ソーシャルメディアが持つユーザーの要素(人々が互いにつながり、交流する手段)とメディアの要素(広告主やブランドがユーザーをターゲティングする手段)だ。
新たなプラットフォームが競争に参入するなか、直近の決算発表では、2つのユースケースの対比が明確になった。プラットフォームの幹部はユーザー同士のつながりを支援することにあまり興味がなく、より多くの収入を得るため、ユーザーを増やすことに執着しているように見えた。
各社の言い分はどうなのか
メタ(Meta)のCEO、マーク・ザッカーバーグ氏は、スレッズ(Threads)のユーザー維持と体験を整理できたら、収益化に取り組むと明言した。SnapのCEO、エバン・シュピーゲル氏は最優先事項として、自社製品に投資し、コミュニティーの成長とエンゲージメントを維持することを挙げており、そのなかには、目に見える広告効果と新たな収益源の開拓も含まれる。そして、PinterestのCEO、ビル・レディ氏は、ユーザーが「インスピレーションから行動へ」移行するための戦略に「一点集中」するようになったと自信たっぷりに語った。
TikTok、Discord、パトレオンのような成功を収めたプラットフォーム、そして、Clubhouse、ビーリアル(BeReal)、さらには、 Lemon8(レモンエイト)のような広告的に失速したプラットフォームを含め、新しいプラットフォームが急増したことで、これらのプラットフォームはユーザー体験のために投資しているのか、広告主のために投資しているのかをアピールする必要に迫られている。
さらに問題を複雑にしているのは、X(旧Twitter)からTikTokまで、すでに定着している大規模なソーシャルネットワークが直面するアイデンティティーの危機だ。
パンデミックによって引き起こされた急速な変化がさらに複雑化し、マーケターは不確実性の渦に巻き込まれ、ちょっとした混乱状態に陥っている。
アイデンティティーはプラットフォームによって変わる
マーケターがこうした変化を受け入れようと努力するほど、混乱は大きくなる。従来のベストプラクティスに頼っても、努力を方向づけることができないためだ。TikTokの短編動画がソーシャルの世界に旋風を巻き起こし、事実上のマーケティングフォーマットになったスピードを見ればわかる。「本物」の「ネイティブ」なコンテンツというTikTokの要求は、あらゆるマーケティングのルールブックが通用しないという状況を招いた。
また、マーケターが、かつてのようにブランドについての会話を始めることも容易ではなくなっている。マーケターがブランドとして見られることはなくなり、ただ企業の言葉を口にするだけでは不十分になった。現在、多くのマーケターがより人間的なアプローチを採用しており、感情的なソーシャルメディアマネージャーと呼ばれている。実際、マーケターは身を引いた方が効果的かもしれない。その好例がボーズ(Bose)だ。
ボーズはブランドに人間味を持たせることを重視し(以前は製品とエンジニアリングに重点を置き、オーディエンスを遠ざけていた)、2023年、NMEとともに音楽フェスティバルSXSWを主催した。このイベントに関連してつくられたソーシャル動画は、単に製品だけに焦点を当てるのではなく、ブランドによるコンテンツ制作そのものを映し出していた。
ブレインラボ(Brainlabs)傘下のファンバイツ(Fanbytes)でクリエイティブ戦略を統括するトム・スウィーニー氏は、「これらの変化はすべて、私たちが何者であるかは、社会における位置によって決まるという考え方を結晶化したものだ」と説明する。「ただし、これはプラットフォームの好みの問題ではない。むしろアイデンティティーの問題だ」。
そのため、オーディエンスが各プラットフォームで何者になりたいかを自問するなか、マーケターはブランドのオーディエンスを見つけなければならない。
マーケターは外部の支援を求めている
それでも、マーケターはこれまでと変わらず、目に見える結果を求めている。ただし、その結果を得るために採用する人材(社内外を問わず)は変化している。
タロトゥー(Tarotoo)のマーケティング責任者兼共同創業者、アナ・コバル氏は、「彼らは多くの場合、キャンペーンを管理し、プラットフォームに特化したコンテンツを制作し、閲覧数や『いいね』などのエンゲージメント指標を向上させるサービスを求めている」と話す。コバル氏によれば、最近、テキストベースのソーシャルメディアからの脱却について支援を求めるブランドが増えているという。「また、これらの新しいメディアを通じてターゲットオーディエンスにリーチしたいとき、どうすればいいかというアドバイスを求められることもある」。
このようにマーケターが必死になり、その結果、採用戦略を見直し、目まぐるしく変化するトレンドに精通したコンテンツクリエイターに引き寄せられるケースもある。この動きは勢いを増しており、ザ・ソーシャル・スタンダード(The Social Standard)のようなエージェンシーは、需要に応えるためのプログラムを立ち上げている。ザ・ソーシャル・スタンダードの「クリエイター・リクルーター(Creator Recruiter)」プログラムは、ブランドの正社員やブランドの顔となるフリーランスを採用できるというものだ。CEOのジェス・フィリップス氏によれば、「アドビ(Adobe)、ゼンデスク(Zendesk)、ロスプルーフ(LossProof)といったブランドにクリエイターを紹介した実績がある」という。
もうひとつの例は高級小売ブランドのザ・リッジ(the RIDGE)だ。CEOのショーン・フランク氏は最近、100万ドル(約1億4500万円)の契約で社内クリエイティブディレクターとして働いてくれるコンテンツクリエイターを探しているとXに投稿した。なぜだろう? 「私たちのストーリーを昇華させ、人間味あふれるものにする」ためだ。
ブランドが本気で支援を求めていることは、マーケターにとって、これがいかに大きな課題であるかを物語っている。
そして、その理由を理解するのは決して難しいことではない。
ソーシャルの優先事項は変化している
ユーザーにとってのプラットフォームとは何か、そして、プラットフォームは何に投資すべきかについて、いくつもの視点が存在するため、最も抜け目のないマーケターでさえ困惑することがある。テキストベースのソーシャルメディアの衰退を予測する者もいれば、その永続的な重要性を強調する者もいる。さらに、現在のソーシャルメディアは対人関係を育むというより、ファンダムを構築することを重視していると主張する人々もいる。サブスクリプションによるソーシャルメディアの永続革命を予言する人々の存在も見逃してはならない。
結局のところ、これらはすべて、ひとつの中心的な考えに帰結する。ソーシャルメディアのコミュニティーとエンターテインメント両方の領域で利益を得られる可能性はあるが、その道筋を描くのは非常に難しいということだ。Xのライバルとなるスレッズの出現は、この考えを後押ししている。
イーロン・マスク氏が引き起こした所有権に関する騒動とともに、Xが歩んでいるでこぼこ道を検証してみると、ソーシャルエンターテインメントに魅了されたプラットフォームは、コミュニティー志向の要素との両立に苦労しているという結論に至る。
R/GAの戦略担当アソシエイトディレクター、アレクシス・デブラナー氏は、「人と人をつなぐ金がないというのは事実でないと思う。つなぎ方を学び直す必要があるだけだ」と語る。「製品やメッセージをソーシャルのエコーチェンバーに向かって叫び、アルゴリズムや有料ターゲティングが仕事をしてくれると期待するだけではもうだめだ。エンゲージしたい消費者やコミュニティーにどのように共感し、つながり、真の価値を提供するかというプレイブックを書き直す必要がある」。
ソーシャルでの交流がうまくいったとき
しかし、マーケターがこれをうまくやれば、驚異的な成果を出すことができる。マクドナルド(McDonald)がマスコット、グリマス(Grimace)の52歳の誕生日を記念し、限定ミルクシェイクを発売した夏のキャンペーンが大好評だった理由もまさにそこにある。
このキャンペーンが始まると、TikTokユーザーが遊び心あふれるシェイクのレビュー動画を次々と投稿した。なかには大げさなリアクションもあり、それ自体がバイラルトレンドになった。最も注目すべき点は何か? それはマクドナルドが仕掛けたトレンドではないことだ。このトレンド全体が、シェイクに夢中になったZ世代のTikTokユーザーによって生み出されたものだ。しかも、ブランドが関与したのは、このトレンドを認めるXへの控えめな投稿だけだった。
マクドナルドのプレジデント兼CEO、クリス・ケンプチンスキー氏は第2四半期の決算発表で、グリマスは「この数カ月、あらゆるニュースで取り上げられ、TikTokでは30億回以上も再生された」と語った。このトレンド自体はユーザー生成コンテンツ(UGC)にすぎず、マクドナルドがファンに条件を出したのではなく、ファンが自分の仕事をしただけだが、このトレンドは売上を11.7%押し上げるのに貢献した。ケンプチンスキー氏はこの出来事について、「マクドナルドのマーケティング力が別の形で証明された」と述べている。
成功の鍵は、予期せぬ出来事に社内の専門知識を添えるという絶妙な組み合わせにあった。
グッド・ピープス(Good Peeps)の創業者兼CEO、シュレイ・ジョシ氏は、「彼ら(マクドナルド)は伝統的な広告のやり方で商品に関する会話の内容を決めることから、現在の文化や人々に自然なやり方で商品と関わってもらうことに移行した」と分析する。
コントロールを放棄する
多くのエージェンシーがブランドをこのアプローチへと導き、コントロールを放棄するよう促している。スピードが最重視されるようになり、広告主はソーシャルチームのワークフローだけでなく上層部へのアクセスレべルも見直す必要に迫られている。
ここでもまた、スレッズの立ち上げが参考になる。スレッズが立ち上げられる前、ソーシャルチームは数日で戦略を決定しなければならなかった。スレッズに参入するため、ソーシャルチームに権限を与えたブランドもあれば、もっと暫定的な戦略を選ぶブランドもあった。アメリカン・イーグル(American Eagle)やネットフリックス(Netflix)は前者の好例だ。
ボーズのCMO、ジム・モリカ氏は、「私たちはインスタグラム、TikTokなどのプラットフォームで月に何千ものコンテンツを制作している」と話す。「これらのチャネルで発信するものはコマーシャルのようなものではなく、ブランドを中心としたコンテンツだと感じられるようにすることに重点を置いたパブリッシングモデルだ」 。
「コミュニティー」、「リーチ」、「関連性」を重視するこのような論調は、多くのマーケターにとって意外なものではない。10年前にソーシャルメディアが誕生して以来、マーケターはこうした願望を熱心に追求してきた。しかし、困難なのは絶えず変化するソーシャルメディア環境であり、その結果、こうした願望は動く的になっている。残念ながら、多くのブランドはいまだに、動く的を射るため、十分なリソースと注意を配分する必要がある状況だ。
予算は優先事項によって動く
エスティ・ローダー(Estée Lauder)は2022年、まさにこの点をDIGIDAYに語っている。エディブル・ブランズ(Edible Brands)の最高マーケティング責任者を務めるケビン・キース氏も、自社で「すべてをこなすことはできない」ため、仕事を補完してくれる制作会社と戦略的パートナーシップを結んでいると述べている。
このパターンは全体的に繰り返されているが、変化の兆しが見え始めている。特筆すべきは、ほとんどのマーケターがコスト削減を迫られているにもかかわらず、ソーシャル広告費は増加傾向にあることだ。400人以上を対象にしたガートナー(Gartner)の調査によれば、過半数(53%)のマーケターは2023年、ソーシャル広告費を前年より増やす予定だという。
短編動画が最も有名なソーシャルネットワークに浸透したとき、この支出増加が起きたのは偶然ではないだろう。短編動画の前に登場したストーリーズでも同じことが起きている。
「短編動画は最近、私がブランドとして(人々を)楽しませる方法をはるかに超えるものになっている。可能な限り本物の控えめなやり方で(彼らを)教育し、(彼らと)関わる方法でもある」と、グッド・ピープスのジョシ氏は話す。
マーケターは今、制作するコンテンツとそれを配置する場所について、以前より長く真剣に考え続けている。なぜだろう? それは、プラットフォームの状況がかつてないほど急速に変化しているためだ。そして、沈まないように浮かび続けるには、適応するしかないのだ。
ザ・ソーシャル・スタンダードのフィリップス氏は、「そうしなければ、ブランドがトレンドや変化について行くことはできない」と述べ、だからこそ、これらの空間で頭角を現し、効率的にコンテンツを量産できるクリエイターを採用することが重要になっていると補足する。「(重要なのは)ソーシャルメディアチームが成果を上げられる適切な枠組みを用意することだ。ソーシャルメディアはあなたのビジネスへの入り口だと考えてほしい。実際そうなのだから」。