朝日新聞出版が10月5日、科学雑誌『Newton』の発行元であるニュートンプレスの全株式を取得したことを発表した。
Newtonは40年以上の歴史を持つ、国内の一般向け科学雑誌。1980年代には科学雑誌ブームの火付け役にもなり「学校の図書館にある科学雑誌」としても親しまれてきた。
高い知名度の一方、雑誌不況もあり現在の販売数は約8万部と最盛期と比較すると低迷している。過去には民事再生となり負債総額は約18億円と報じられた。買収を機会に、その歴史を振り返る。
1980年代の科学雑誌ブームの火付け役に
Newtonの最新号(手前)と創刊号(右)。一番下にあるのは、創刊500号にあたる2023年3月号。
画像:プレスリリースより引用
Newtonは1981年に創刊した、写真やイラストを駆使して科学を伝えるビジュアル科学雑誌。創刊編集長を務めた東京大学の故・竹内均名誉教授が、米国のナショナル・ジオグラフィック誌のような雑誌を日本にも生み出そうという想いから誕生した背景がある。
1980年代後半には、科学雑誌ブームのきっかけの一つになった。現在大学や研究所で働く研究者からは「学生だった頃にNewtonを読んで、研究者を志すようになった」という声を聞くことも多く、日本のアカデミアの発展に少なからず影響を与えてきた雑誌だと言える。
ただ2000年代に入ると、科学雑誌業界に逆風が吹く。朝日新聞が発行していた科学雑誌『科学朝日』(1941年創刊、1996年に名称をSCIaS(サイアス)に変更)が2000年に休刊すると、学研の『科学』も2010年に休刊(その後、2022年に不定期刊行で復刊)になるなど、科学雑誌が減っていった。
この間、創刊当時は数十万部とも言われていたNewtonの発行部数も徐々に減少。雑誌協会が発行する印刷証明付発行部数(1号あたりの平均発行部数)では、2015年7〜9月に11万9334部に。直近の2023年4〜6月では、8万1233部まで落ち込んでいる。
前社長が逮捕。経営不安で民事再生を申請
民事再生手続きを申し立てたのが2017年2月20日。当時は、2017年5月号(2017年3月25日発売)の準備に取り掛かっていた最中だった。筆者も当時編集記者として制作に携わっていた。
撮影:三ツ村崇志
雑誌不況のなかで生き残り続けてきたNewtonではあったが、2017年2月にニュートンプレスの元社長・高森圭介氏が出資法違反で逮捕されたことをきっかけに、経営が不安視されると、逮捕から3日後に民事再生法の適用を申請する騒動も起こった。
当時は一時的に従業員の給与の一部が遅配になるといった状況もあったが、月刊誌『Newton』を中心に販売を継続。近年では書籍や図鑑などの新シリーズを刊行するなど、出版ラインナップを増やしながら債務の返済を続けてきた。
プレスリリースによると、2020年9月に民事再生手続きが終結。今後は事業基盤の安定化に向けた再生計画の推進を、朝日新聞グループが全面的にサポートしながら、2024年に民事再生債権の完済を予定しているという。
なお、今回の買収に伴い、ニュートンプレスの株式は100%朝日新聞出版が保有することになるが、元社長の息子にあたる現代表の高森康雄氏が代表を続投。朝日新聞出版の市村友一社長がニュートンプレスの会長に就任する。Newtonの編集方針もこのまま維持するとしている。
朝日新聞グループ入りに伴い、今後は「朝日新聞出版の企画力や営業力を活かして、科学に関心を持つ読者の皆様に喜んでいただける商品やサービスの開発をともに進めてまいります」(プレスリリースより引用)としている。
また、ニュートンプレスの高森代表は
「朝日新聞グループはデジタルトランスフォーメーション(DX)など、時代のトレンドにも積極的に対応しており、共に成長する環境ができるという期待もあります」
とプレスリリースでコメントしている。
Newtonでは2012年5月からiPad版として独自編集したコンテンツを提供していたが、2019年に公開を終了。現状のデジタルコンテンツはKindle版のみ。デジタル化の波に乗り切れていない状況だった。
なお、朝日新聞出版によると、今回の買収に伴うニュートンプレス側の人材の整理(リストラ)はないという。買収後の具体的な事業方針について問うと、以下のような回答があった。
「『Newton』の魅⼒あるコンテンツを、営業・プロモーションの強化とデジタル展開の促進で、科学コンテンツに関心がある読者に向けてより広く届け、ニーズに応えていく考えです」(朝日新聞出版)
編集部より:ニュートンプレス側の人員整理や今後の具体的な事業方針について、朝日新聞出版からの回答を追記しました。2023年10月6日 17:55