雷が避雷針に到達する前に、レーザー光線に沿って進む様子を捉えた写真。
Houard, A., Walch, P., Produit, T. et al. Nat. Photon (2023). https://doi.org/10.1038/s41566-022-01139-z. CC-BY 4.0
- 雷の進路がレーザーによって変えられることが、2023年1月に発表された研究によって明らかになった。
- このプロジェクトでは、強力なレーザーを空に向けて発射する必要があり、20年の歳月がかかった。
- このレーザーによって、雷が落ちてほしくない場所から雷を遠ざけられるようになることが期待されている。
2021年7月から9月にかけて、雷雨が予報される時に空に向けてレーザーを照射する実験が、スイスで行われた。その結果、雷は避雷針に当たる前に約60mにわたって強力なレーザーに沿ったルートをたどり、避雷針の機能が大幅に向上したことが証明された。
2023年1月に発表されたこの研究結果は、レーザーが危険な雷から身を守るために使用される日が来るという可能性を示している。アメリカでは雷によって毎年平均43人が死亡し、2022年には住宅所有者の保険金請求額は約10億ドルに達している。
スイスの山頂に設置されたレーザー避雷針。
Source: TRUMPF group
レーザー避雷針
レーザーを用いた避雷針のアイデアは1970年代初頭にさかのぼると、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の応用光学研究所(Laboratoire d'Optique Appliquée)の研究員で、この研究プロジェクトのコーディネーターであるオーレリアン・ウアール(Aurélien Houard)はブログで述べている。
原理は簡単なことだ。強力なレーザーを放つと、空気が超高温になり、分子がイオン化して電子を放出し、レーザーに沿って電子でいっぱいの道ができる。雷はその電子に引き寄せられ、雲と地面の間の最も抵抗の少ない道を探して進む。
レーザー避雷針が、年間100回以上落雷することで知られるスイスのゼンティス山にある通信タワーの近くに設置された。
Source: TRUMPF group
問題は、このレーザーの道が非常に短命で、すぐに消えてしまうことだ。実験室では雷の向きを変えられたが、現実の条件下ではなかなか成功しなかった。
雷が向きを変えられるほどの時間を確保し、嵐の中でも雷の通り道を開いておくために、1秒間に1000回の高出力パルスを発射できるレーザーが開発された。
この開発プロジェクトは、スイスのジュネーブ大学(UNIGE)とEPFL、フランスのエコール・ポリテクニーク、ドイツの科学レーザー企業であるTRUMPFによる共同研究だ。
最新のレーザーは、先代機種の100倍の速さでパルスを発する。つまり「雷を捕らえる可能性が100倍高くなった」ことを意味すると、ウアールはウォール・ストリート・ジャーナルに語っている。
スイスの山頂でのレーザーテスト
最新のレーザー発射装置をテストするため、3トンの機材がスイスにある標高2500mのゼンティス山の頂上に運ばれた。この場所の利点は、高さ124mの通信タワーに、少なくとも年間100回は確実に落雷することだ。
機材の設置後、雷雨が予報されるたびに、レーザーが発射された。
やがて、自然発生した雷がレーザー光線に沿って進む様子が初めて記録された。
「もちろん、さらに多くのデータを分析する必要があった」とUNIGEの応用物理学教授、ジャン=ピエール・ウルフは、研究結果を紹介する動画で語っている。
「しかし、この写真は千の言葉を物語っている。間違いない。これを見たとき、我々はついにやったと思った」と彼は述べている。
稲妻がレーザー光線に沿って進んだ様子。
Houard, A., Walch, P., Produit, T. et al. Nat. Photon (2023). https://doi.org/10.1038/s41566-022-01139-z. CC-BY 4.0
落雷対策にはアップグレードが必要
この発見は、危険な雷の被害対策に必要とされる新たな手段を、レーザーが提供してくれる日が来ることを示している。
ベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)が18世紀に発明した避雷針は、落雷対策として最良の手段であることに変わりはない。
プレスリリースによると、問題は避雷針の保護範囲がその高さとほぼ同じ程度の半径にまでしか及ばないということだ。つまり、高さ10フィート(約3m)の避雷針であれば、ポールから10フィート以内は保護されても、その外は危険なままだ。
一方、レーザーは雲の上まで届く可能性がある。
「放電はタワーに到達する前に、60m近くレーザー光線に沿うケースもあることが分かった」と、ウルフはCNNに語っている。つまり、レーザーは「保護面の半径を120mから180mに広げた」ということだ。
次のステップは、さらに上空まで届くレーザーを開発することだという。
理論的には可能だが、この技術が市場に出回るほど洗練されるには、少なくともあと10年はかかるだろうと、ウアールはウォールストリート・ジャーナルに語っている。
この研究成果は、2023年1月16日付のNature Photonicsに掲載された。