コロラド州デンバー。
Helen H. Richardson/MediaNews Group/The Denver Post via Getty Images
- アメリカのコロラド州デンバーでは、現金による直接的な援助がホームレスを減らし、雇用を増やしたことが研究で分かった。
- この研究では、デンバーで生活する約800人のホームレスの人々が月50~1000ドル(約7400~14万9000円)を受け取った。
- その結果、夜を外で過ごす日が減ったという。
お金で幸せは必ずしも買えない。ただ、個人の経験や学術研究はいずれも、人はお金があるほど心地良い人生を送れる可能性が高いことを示唆している。これがコロラド州デンバーで行われた社会実験の前提だ。デンバーではここ数カ月、街で生活している最も弱い立場に置かれている数百人の人々に無条件で現金が支給されてきた。
その結果、今のところ社会実験が始まった時に路上で寝泊まりしていた人々はポケットの中のお金が増えたことで安心し、メンタルヘルスが向上して、より安定した快適な生活環境を享受している。
デンバー・ベーシックインカム・プロジェクトの創設者でエグゼクティブ・ダイレクターのマーク・ドノバン(Mark Donovan)氏は、この結果に「とても勇気づけられた」とInsiderに語った。
「実験の参加者の多くは、支給されたお金を借金の返済に充てたり、車を修理したり、住居を確保したり、講座を受講するために使ったと報告している。いずれも参加者たちを貧困から抜け出させ、社会支援プログラムへの依存を減らすことにつながるものだ」
ドノバン氏は2021年にデンバー・ベーシックインカム・プロジェクトを設立した。起業家の同氏は女性向けのセーターを専門とする衣料品会社「Wooden Ships」と、コロナ禍で急騰したテスラへの投資で財を成した。そのお金の一部と、デンバー市が提供した200万ドルを使って、ドノバン氏は2022年から実際に現金を支給し始めた。
カリフォルニア州サクラメントからフロリダ州ジャクソンビルまで、アメリカでは路上で寝泊まりする人々が急増していて、メンタルヘルスや薬物依存などがしばしばその主な原因として認識されている。ただ、ピュー慈善信託(Pew Charitable Trust)が最新分析で指摘しているように「ある地域のホームレスの問題は、住宅費(言い換えれば、天候ではなく家賃)によって左右されることを(調査は)一貫して示している」。
デンバー大学の住宅・ホームレス研究センターの研究者たちによると、このプロジェクトに参加し現金を受け取った人の大半は半年後、暮らし向きが良くなっていたという。
デンバーのユニバーサル・ベーシックインカム、その中間報告の中身
2022年10月、800人以上がこの1年間に及ぶプロジェクトに参加した。ただ、受け取る金額は全員同じではなかった。参加者は3つのグループ —— 毎月1000ドルを受け取るグループ(1年で総額1万2000ドル:グループA)、最初の月に6500ドルを受け取り、その後は毎月500ドルを受け取るグループ(1年で総額1万2000ドル:グループB)、毎月50ドルのみ受け取るグループ(1年で総額600ドル:グループC) —— に分けられた。
研究者たちは、これは中間報告に過ぎないとしつつも、参加者たちの物理的な状況に顕著かつ勇気づけられる変化があったとしている。中でもグループAとグループBでは大きな変化が見られた。開始当初、自分の家やアパートで生活していると回答した人の割合は10%に満たなかったが、半年後には3分の1以上が"自分の家"で暮らすようになっていた。
収入が保障されたことで、目に見える"ホームレス"も激減した。この取り組みが始まってばかりの頃は、グループAでは約6%が屋外で寝ていたが、半年後にはゼロになった。同様にグループBも屋外で寝ている人が10%から3%に減少したと報告されている。50ドルしか受け取っていないグループCでも、その割合は8%から4%に減少した。
彼らはどこへ行ったのだろうか? 実は多くの人たちが自分の家で寝るようになった。毎月1000ドルを受け取るグループAでは、今では34%が自分の家やアパートに住んでいて、その割合は半年前の8%から大幅に増えた。全てのグループでシェルターで寝ている人の数は半減し、いま寝ている場所で安心感が増したと全員が報告している。メンタルヘルスも全体的に改善されたが、グループCでは以前よりもストレスや不安がやや増え、希望が少し減ったと報告された。
社会実験は他の都市でも
全てのグループでプラスの変化が見られたということは、他のサービスへのアクセスが増えたなど、現金支給以外の要因もあるのかもしれない。また、この研究は最大30ドルの支払いと引き換えに、実験の参加者に自分の状況を申告してもらっている。
それでも、この結果は他の都市の結果とも一致している。
カリフォルニア州サンフランシスコでは、毎月500ドルを受け取った14人を調査したところ、当初ホームレスだった人のうち3分の2が半年後には定住できる住まいを見つけていた。ニューメキシコ州サンタフェのような比較的小さな都市でも、現金支給の社会実験が行われていて、こうした実験はニューヨーク州北部といった農村地域でも行われている。ペンシルベニア州フィラデルフィアでは、ベーシックインカムを妊娠中の人々を含む他の社会的弱者にも広げようとしている。
アメリカ以外の国でも、直接的な現金の援助という"アメ"の方が、取り締まりという"ムチ"や紐付きの伝統的な援助プログラムよりも、一定の社会の病に対処するのに効果的であることが分かってきている。
カナダのバンクーバーでは、貧困に苦しむ100人以上に7500カナダドル(約82万円)が支給された。
「住まいが改善され、ホームレスが減少し、長期的に支出と貯蓄が増加した。政府と納税者にとって、最終的にプラスになった」とブリティッシュ・コロンビア大学の心理学の准教授ジャーイン・ジャオ(Jiaying Zhao)氏はガーディアンに語っている。