「毎日1万個超売れる」“アイムドーナツ”とパンで月商2億円、ヒットメーカーに聞く「流行の作り方」

アマムダコタン表参道店

「アマムダコタン」表参道店。店内の内装やスタッフの制服、接客に至るまで全て平子さんの世界観で表現しているという。コンセプトは「石の町にある小さなパン屋さん」。

撮影:土屋咲花

表参道、原宿、渋谷。

トレンドに敏感な人が集まるエリアに次々と出店し、連日行列ができる「流行のパン屋さんとドーナツ屋さん」がある。

手掛けるのは、イタリアンシェフ平子良太さん(40)だ。平子さんの店は約10年前に福岡の小さなパスタ店からスタートし、2021年から都内に出店を始めた。

表参道のベーカリー「AMAM DACOTAN(アマムダコタン)」、中目黒や渋谷に相次いで出店したドーナツ屋「I’m donut ?(アイムドーナツ)」のヒットの仕掛け人として、業態を広げながら流行るお店を着実に生み出してきた。現在は福岡と東京で計10店を展開。月商は合わせて約2億円に上るという。

時代の心を掴む、ヒットメーカーに「流行るパン屋」を生み出す秘訣を直撃した。

平日も行列、毎日3000個が売れるパン屋

アマムダコタンの総菜パン

惣菜がたっぷり詰まったバーガー系のパン。焼けるパンの種類が少なかったことから、具材の種類を増やしていったという。

撮影:土屋咲花

行列

「アマムダコタン」表参道店の行列。店舗は右手に入った先にある。

撮影:土屋咲花

9月のある日、表参道駅B2番出口を上がって青山方面に歩くと、すぐに人の行列が見えてきた。店までの長さは40mほどはあるだろうか。行列の先には、平子さんが手がけた人気のベーカリー「アマムダコタン」がある。平日でも開店前から行列ができる人気店だ。

店内は、天井にドライフラワーが飾られ、仕切りのない陳列棚に100種類以上のパンが並ぶ。

自家製の具材をあふれんばかりにサンドした惣菜パンが、アマムダコタンの代名詞的存在だ。

価格帯はサンド系の総菜パンが400~600円台、菓子パンは300円台前後が中心。通常のベーカリーと比較するとやや高価格だが、実際に訪れると3~4000円分購入していくお客も珍しくなかった。平子さんによると、表参道店では毎日約3000個のパンが売れるという。1号店の福岡店も2000~2500個を売り上げる。

後述するアイムドーナツは都内4店舗だけでそれぞれ毎日3000個売れるというから、毎日1万数千個のパンとドーナツが「爆売れ」しているという計算になる。

アマムダコタンは、数年前にブームを巻き起こした菓子「マリトッツォ」の立役者の一人とも言われる。その後も一発屋に終わらず、2022年3月に中目黒で「アイムドーナツ」を開店すると、そちらもたちまち話題になった。

マリトッツォ

「アマムダコタン」を一躍有名にしたマリトッツォは、今もショーケースに並ぶ。

撮影:土屋咲花

「良い場所」は戦略に勝る

imdonut

9月にオープンした「I’m donut ?」表参道店。

撮影:土屋咲花

「アイムドーナツ」は約1年半で5店舗に増え、勢いに乗る。福岡店を除く都内の4店は中目黒、渋谷、原宿、表参道といずれも近距離だ。流行る店舗づくりの出店戦略の秘訣を聞くと、意外な答えが返ってくる。

「戦略ってあんまり考えていなくて、『良い場所があるな』と思ったら出すという方が正しい」

徒歩圏内の原宿と表参道に相次いで出店したのも「この辺りをよく歩いたり車で走ったりしていて、良い物件が見つかったから」だ。

都内一等地に、「ここは」と思える空きテナントが出ていたことは、ある意味で「コロナ時代の追い風を受けた」とも言える。

流れに身を任せているようでありながら、成功した店舗のコピーを量産しているわけではない。アイムドーナツは、それぞれの店舗の役割が異なる。

駅から近く、交通量も多い原宿店は種類を絞り、いつでも揚げたてが食べられる店に。持ち帰りはベーシックな味を3個詰めたボックスのみと、シンプルなオペレーションで回転率を上げている。

対照的に、駅徒歩10分の渋谷店は80種類もの多彩なドーナツを取り揃える。「原宿や中目黒の行きやすいお店に行った人が、もっと種類があるお店に行きたいと思った時に渋谷店を選んでもらうこと」を狙う。各店で毎日約3000個のドーナツが売れるという。

「巻くと全く売れない」ヒットの秘訣

ダコー

桜新町の新店舗「ダコー」。内覧会では、営業中と同様にスタッフが焼きたてのパンを紹介しながら陳列していた。

撮影:土屋咲花

ヒットを出し続けられるのは、「自分がやりたいこと」と「顧客が望んでいるであろうこと」のバランス力だと自己分析する。

アマムダコタンでは、オープンキッチンから顧客の様子が良く見えた。

「お客さんの反応を見ていると、中身がよく見えるパンにワクワクしているようでした。焼いたパンに切り込みを入れてソーセージを挟んだものと、生地でソーセージを巻いて焼いたもの。どちらもほとんど同じですが、巻いちゃうともう全く売れないんですよね」

この観察力をもとに、中身が見える総菜パンやマリトッツォを作ってヒットさせた。

「パン屋が好きな人って、『パン屋に行くこと』が好きだと思うんです。友達と待ち合わせして、パン屋に行ってパンを選んで……という(体験の)全てをトータルして好き。

その時に、自分だったらこうだと嬉しいなということを実行していったら、結果的にパンの種類が増えました。お客さんを見ていて、『これを求めているな』というのも、『僕だったらこうするな』というのもそうですが、本質的なところに気づいてそこを満たしてあげるっていうことが大事なのかなと」

海外展開に意欲。さらに都内新店も

平子さん

平子良太さん。パンやドーナツそのものだけでなく、世界観まで作りこむことにこだわるのは、「ジブリ飯」に影響を受けているという。

撮影:土屋咲花

「ヒットメーカー」の平子さんが料理の道を歩んだのは高校を卒業した後のことだった。

「幼馴染のお父さんがホテルの料理長をしていたので、『何も行くとこないんやったら、来るか』的な感じでした。元々料理は好きだったので」

と、きっかけは意外とシンプルだ。

長崎県のホテルに勤めた後、東京や福岡の料理店で経験を積んだ。福岡のイタリア料理店では料理長を務め、2012年に独立した。

最初は福岡で小さなパスタ店を開いた。初期費用は50万円程度と少なく、店舗の内装も自ら手掛けた。節約というよりは自己表現のためだ。

「料理長まで務めた店では食材の仕入れなどを変えてきましたが、皿などは支給されたものしか使えなかった。制服や内装、テーブルセット、カトラリー、音楽って(雇われている身では)変えようがないところでした。自分の料理はこれ以上ここで表現はできないと思ったので、自分が出したい料理の土台は全部ちゃんと自分でやっていこうと独立しました」

という。

元々、現在のような多業態を考えていたわけではない。

2店舗目のパスタ店は「お客さんを見ていて、もう少しゆっくりしたいんだろうなと思ったので、そういう店を作ろう」と出した。店ではあらゆるものを手作りにこだわりながらも、パンだけは他から仕入れていた。

「ある日を境に、パンも手作りでやりたいなと思ったんです。最初はうちの店だけにおろす小さいパン屋をやろうと考えたんですけど、機材を調べていると、とんでもない金額になると分かって。

本気で美味しいものを作るんだったら、パン屋としてやらないといけないのかなって」

こうして2018年に福岡に誕生したのがアマムダコタンだった。2021年に東京進出した。

「アイムドーナツ」は、アマムダコタンで作っていた生地を揚げてみたら「びっくりするぐらいうまいって思った」(平子さん)のが始まり。中目黒で出店オファーがあったのを機に、アイムドーナツとしてスピンオフした。

10月5日には、桜新町駅に新ブランドのベーカリー「dacō(ダコー)」をオープン。小ぶりサイズのパンを約60種類そろえる。単身世帯が半数を超える東京で「1人暮らしの人でも、何種類も楽しめるように」というニーズに応える店舗だ。

現在は都内を拠点とするが、既に「海外進出」も視野に入っている。

アマムダコタンでは明太子を使ったバゲットが人気商品の一つ。アイムドーナツでも、抹茶味など和のフレーバーも展開する。

「最初は、100人中1人に深く刺さればいいくらいの気持ちで(店を)作りました。でも、それがどんどん広がっていくことを知った今は、誰もが知るような店にしていきたい。10年後には海外店舗の方が多いなんてこともありだと思っています」

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