ドコモが新NISAや銀行で「出遅れた」ワケ…マネックス提携に見る「スマホ業界の金融シフト」

NTTドコモ会見写真

左から、NTTドコモ副社長スマートライフカンパニー長 前田義晃氏、NTTドコモ社長 井伊基之氏、マネックスグループ会長 松本大氏、マネックスグループ社長 清明祐子氏。清明氏はマネックス証券の社長も務める。

出典:NTTドコモ

先週、NTTドコモが発表した、マネックスグループとその子会社であるマネックス証券との間で資本業務提携するとの発表は大いに業界の注目を集めた。

これにより、マネックス証券はNTTドコモの連結子会社となり、NTTドコモは本格的に証券事業に乗り出すことになる。

なぜNTTドコモがこのタイミングで金融事業に本腰を入れるのかその理由を解説する。

KDDI、ソフトバンク、楽天の金融経済圏

4キャリアの金融系サービス

携帯キャリア4社の金融サービス(2023年10月9日時点)。

図版:Business Insider Japan

スマホ業界は今「金融シフト」が本格化している。ドコモ以外の各社の状況は次のようなものになる。

2020年に楽天グループが携帯電話事業に新規で参入。ポイントを軸とした楽天経済圏で既存3社に勝負を打って出た。しかし、楽天の設備投資の見通しが甘く、いまだに赤字体質を脱せていない。銀行や証券、ECなどは絶好調だが、モバイル事業がグループの全体の足を引っ張っている状態だ。

三木谷氏

楽天グループの三木谷会長。

撮影:小林優多郎

KDDIは、ケータイ全盛時代から「auじぶん銀行」を手がけてきた。

auカブコム証券やauフィナンシャルパートナー、au損害保険などの会社を傘下に収めた「auフィナンシャルホールディングス」を設立し、着実に金融を軸とした経済圏を確立している。

9月からは「auマネ活プラン」として、クレジットカードや銀行、証券などの口座を保有することで、ポイント還元や円普通預金の金利優遇などを提供する新料金プランをスタートさせている。

auマネ活プラン

KDDIは自社の金融サービスがお得になる。

出典:KDDI

ソフトバンクは、登録ユーザーが6000万人を超えたスマホ決済サービス「PayPay」を軸にPayPayカードやPayPay銀行、PayPay証券など、PayPay経済圏を築きつつある。

しかし、2019年にLINEとZホールディングスの経営統合を発表したが、一向に上手くいかず、通信や金融サービスを融合するために必要な「ID統合」ができずにいた。

ペイトク

PayPayでもらえる特典が増える新料金プラン「ペイトク」を説明するソフトバンク 専務執行役員の寺尾洋幸氏。

撮影:小林優多郎

結果、経営統合体制を見直し、2023年10月にLINEとヤフーを合併して「LINEヤフー」を設立。10月4日にようやくLINEとヤフーとのID統合にこぎ着け、あとは2024年のPayPayとのID統合に着手するまでになった。

楽天やauのように、ひとつのIDで一気通貫に金融サービスを渡り歩ける経済圏を構築するにはもうしばらく時間がかかりそうだ。

「ドコモ口座不正利用事件」がネックに

NTTドコモ社長 井伊基之氏

マネックスとの資本業務提携について話すNTTドコモ社長の井伊基之氏。

出典:ドコモ

そんな、3キャリア陣営の「金融シフト」を、指をくわえて静観していたのがNTTドコモだ。

同社もかつては三井住友カードの株式を所有し、「dカード」を手がけるなど金融事業には前向きだった。

実際、年会費1万1000円の「dカード GOLD」は1000万枚の発行枚数を誇るなど、クレジットカード事業は比較的盤石だ(ただし、NTTドコモが保有していた三井住友カードの株式は2019年4月1日に三井住友フィナンシャルグループに売却済み)。

そんなNTTドコモが金融シフトに及び腰になってしまったのが、2020年に起きた「ドコモ口座不正利用事件」だった。

ドコモ口座はお金をチャージすることで、d払いなどに使えるプリペイドサービスだったが、不正に銀行口座と紐付けされ、銀行口座の持ち主が知らないうちにドコモ口座にチャージされ、不正利用されていた。

口座の持ち主がNTTドコモユーザーでなくても不正利用される状態だったところが特に厄介な点だった。

あるドコモ幹部は、この不正利用事件により、ドコモとしてユーザーの資産を預かることに相当な抵抗感が出ていたとも明かす。

ドコモ口座会見

2020年9月、NTTドコモは「ドコモ口座」の不正利用問題について緊急会見を開いた。

撮影:小林優多郎

結果、他社のように資本出資してまで銀行や証券などには参入せず、あくまで提携という形で、三菱UFJ銀行やSMBC日興證券などと「dポイントが貯まりやすい」といったサービスを提供する程度に留まっていた。

しかし、世間では「貯蓄から投資」という雰囲気が一気に加速するようになる。岸田政権が「資産所得倍増プラン」を推進するようになり、2024年からは「新NISA」がスタートする。

KDDIの「auマネ活プラン」はまさに新NISAを意識している。

auの通信プランを契約してもらいつつ、au PAYカードを使い、auカブコム証券で新NISAで積み立てをすると、ポイントがたくさんもらえるという仕組みとなっている。

新NISAは、一度口座を作ると、他の証券会社に口座を変更する手続きがとても面倒だ。まさに心理的な縛りが存在する。

積み立てで投資信託などをしていけば、気が変わったからといって、他の証券会社にまるごと積み立てた資産を移動させるということもやりにくい。

通信キャリアからすると、SIMロックや2年縛りなどの囲い込み施策が、総務省の意向で封じられてしまい、ユーザーの流動性が高められている現状がある。

金融、特に新NISAと絡めれば、ユーザーを自分たちのグループにガッチリと囲い込めるという狙いがあるようだ。

NTTドコモとしても、単に通信料金プランやクレジットカード、スマホ決済サービスの戦いであれば、銀行や証券と提携程度の緩い関係でやり過ごせただろう。

しかし、KDDIや楽天グループ、ソフトバンクが証券事業によって、新NISAを軸としたユーザーの囲い込みに着手してくるとNTTドコモとしても対抗策を打たざるを得なくなる。

NTTドコモの井伊基之社長は、単なる業務提携ではなく資本業務提携に踏み切った理由として「本件への情熱がそれだけ高いと言うことだ。責任のある立場でマネックスの成長にコミットする必要がある。ビジョンがしっかりあうので、単なる業務提携ではなく資本業務提携にした」と言う。

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