アリゾナ州フェニックス近郊のメサにあるアップルのデータセンター。クラウドコンピューティングやAIの隆盛とともに、莫大な電力を消費するデータセンターが続々と建設されている。(2017年撮影)。
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アリゾナの州都フェニックスとその周辺地域では、データセンターに関心が集まっている。というのも、このデータセンターが騒音を響かせ、湯水のごとく水を消費し、広大な土地を占有するからだ。
データセンターはいま急成長中だが、この産業は桁外れの電力を消費する。そのため、化石燃料を使わない電力供給網を確立しようという努力が妨げられ、都市の電力事業を逼迫させる恐れがある。気候危機がますます切迫したシグナルを発しているにもかかわらず、だ。2023年、フェニックスの最高気温が華氏110度(約43℃)以上となったのは54日と、過去最多だった。
「現在、当社のパイプラインにはデータセンターの電力需要が約7000メガワットあります」
そう語るのは、フェニックス周辺地域を管轄する2つの電力会社の1つ、ソルト・リバー・プロジェクト(SRP)の経営幹部であるカーラ・モランだ。モランによれば、この電力需要は1万1000メガワットという同社のシステム全体の規模に匹敵する。
こうした電力需要のすべてが実際の開発に結びつくわけではないだろうが、いまだかつてない関心の高さだとモランは語る。データセンター産業の電力需要の急増は目を見張るものがあり、電力事業者の遠大な計画にも織り込まれているという。
SRPは2023年10月、2000メガワットの新しいメタンガス設備の開発を含む、発電能力の大規模な拡張を承認した。こうした発電所を新設すれば、化石燃料を使用するインフラの割合は実質的に維持されることになる。その期間は今後10年間、いやそれ以上になる可能性もある(天然ガスは主にメタンで構成されている)。
そのようなリソースの導入を検討する理由は主に、24時間電力を大量消費するデータセンターだとモランは語る。
化石燃料を手放せない
データセンターが果たす役割は、現代の生活においてますます不可欠なものとなっている。演算、ストレージ、伝送装置にもデータセンターは必要だし、インターネットやモバイルアプリのほか、自律走行車や動画配信、記録のデジタル化など多くの機能が稼働できるのもデータセンターがあればこそだ。
アメリカではデータセンターの多くをテック企業大手が所有している。クラウドサービスの3大プロバイダ(アマゾン、マイクロソフト、グーグル)や、データ施設の開発・運営を専門とするエクイニクス(Equinix)やデジタル・リアルティ(Digital Realty)といった大手上場企業などだ。
2023年9月、アリゾナ州とグーグルは、同州メサに6億ドルの新しいデータセンターを建設すると発表した。
City of Mesa
今後、データセンターの新規顧客はAIアプリケーションが主流になっていくことが予想されるため、AIの演算ニーズと莫大な電力消費に特化して設計された新世代の施設が必要となる可能性がある。マッキンゼー(McKinsey)の試算では、アメリカのデータセンターが必要とする電力供給量は、2030年までに2倍以上になるとされている。
このように、データセンター産業のエネルギー需要が増大することは、電力事業者にとって深刻な課題だ。EVの採用、気温上昇に伴うエアコン利用の増加、家庭の暖房や調理の電化など、社会の変化により電力事業者にはすでに負担がかかっている。
こうした負担増を受けて、SRPをはじめとする企業は、発電の際の燃料構成から石油、ガス、さらには石炭を排除することに慎重になっている。
顧客の数で米国最大となる電力供給業者、PJMの前CEOであるテリー・ボストンは次のように語る。
「将来の需要に鑑みれば、今後もたらされる需要に対応できる電力容量がなければいけません。データセンターのそうした負荷に対応できる電力容量を確保するために、あらゆる手段を実行することになります」
化石燃料からの脱却に消極的なこうした姿勢は、気候危機を回避するためにいち早く送電網の脱炭素化を進める必要があるとの科学者らの指摘に逆行するものだ。
コロンビア大学のグローバルエネルギー政策センターが9月に発表した研究論文では、仮に今後数十年の間に広範な炭素削減を社会が実現できたとしても、その期間内に排出量が減少する速度が鍵になるとの指摘がなされている。
この論文の筆者の一人で、同センター上級研究員のジェームス・グリンは、データセンターは「予期せぬ追加の負荷」を全国の送電網に押し付け、「脱炭素化の目標にさらなる困難」をもたらすものだと指摘する。
グリンによれば、データセンターは「かなり大きな影響を及ぼす可能性」があるため、「送電網はゼロ・カーボンにする必要がある」という。
南西部エネルギー効率プロジェクト(Southwest Energy Efficiency Project)は、この地域の電力事業者の計画を監視する公益団体だ。同プロジェクトのアリゾナ州代表であるキャリン・ポッターは、化石燃料施設の規模を維持するというSRPの決定を憂慮していると語る。
「われわれに必要な脱炭素化を確実に実現するために、SRPは原点に立ち返ってもう一度目標を再考する必要があります」(ポッター)
ニューヨーク市の1日当たりの電力消費量に匹敵
データセンター産業のエネルギー需要の影響が電力事業者に及んでいるのは、フェニックスに限った話ではない。
ネブラスカ州オマハでは、グーグルが主導するデータセンターの新規開発が急増している。グーグルは同州で運営するデータセンターやその建設計画に34億ドル(約5100億円、1ドル=150円換算)を投資している。
2014年、ネブラスカ州オマハにある石炭火力発電所の石炭の丘。地元の電力会社は、2026年まで発電所の停止を延期する承認を得た。
Nati Harnik/AP
その結果、電力事業者のオマハ電力公社(OPPD)は80年近い歴史の中で最大の需要増に見舞われている。その主因はデータセンターにあると同社は見ている。
OPPDの広報担当者によると、同社は2022年、市の北側にある石炭火力発電所の閉鎖を2026年まで延期する申請を提出し、承認を得たという。その発電所は本来2023年末までに閉鎖される予定だった。石炭火力発電所に代わる2つの天然ガス発電所と太陽光発電プロジェクトを送電網に接続する作業に遅れが生じたことが原因だとOPPDは話す。
OPPDは2023年8月、最大950メガワットのメタンガス発電施設を新設する計画を採択した。これは、20億ドル(約3000億円)以上をかけ、2033年までに発電容量をほぼ2倍の5ギガワット強にする増設工事の一環として行われるものだ。
5ギガワットはニューヨーク市の平均的な1日当たりの電力負荷に匹敵する。1ギガワット(=1000メガワット)で数十万世帯へ電力を十分に供給できるだけのエネルギー量だ。
OPPDは、再生可能エネルギーの割合は高まりつつあるものの、その発電容量を超える電力需要を賄うために新たなガス発電所を一時的に使用するだけだと述べる。しかし、クリーンエネルギー計画の実用化には遅れが生じている。
「化石燃料はピーク負荷時の対応に限って使用する」というOPPDの主張には、環境保護論者から疑念の声が上がっている。
シエラクラブ(Sierra Club)ネブラスカ支部のエネルギー委員長であるデビッド・コービンは新しいガス発電所について、「今後あまり使われないものにつぎ込むにはあまりにも莫大な金額だ」と語る。
OPPDの太陽光発電所の開発が「モタついている」一方で、「ガス発電所の開発はものすごい速さで進んでいる」ことにコービンは失望しているという。
物議を醸したデータセンター議案について、監督委員会の投票で抗議する活動家たち。
2022年11月1日、バージニア州ウッドブリッジ
バージニア州北部にあるアメリカ国内最大のデータセンター市場では、電力事業者ドミニオン・エナジー(Dominion Energy)が2023年初め、自社の発電容量を2倍に増やす計画を発表した。この増強により、同州の送電網はフランスに匹敵する規模になる。
ドミニオンが計画実現のために検討しているのは、石炭火力発電所2基の廃止延期と、合計9ギガワットの発電容量を持つ7基ものメタン火力発電所の新設だ。
ドミニオンは、データセンター需要の記録的急増を目の当たりにしてきた。同社は9月に提出した書類の中で、データセンターに対し5.8ギガワットの電力容量を2032年までに追加で供給する契約を結んだことを明らかにした。この電力供給の増加により、バージニア州北部のデータセンターの電力負荷は3倍になる。
ドミニオンの広報担当者アーロン・ルビーはInsiderの取材に対しメールで回答し、データセンターが間断なく大規模に電力を消耗するため、「電力を24時間供給可能で常に信頼できる電力源の需要が高まっている」と述べる。
再生可能エネルギーでは到底足りない
データセンターの需要が高まるなか、多くの電力事業者は、送電網を環境に優しいものに変え、一部の州が課すCO2排出量削減の期限を守ったり自主的な目標を達成したりしながら、再生可能エネルギーの開発も強化している。
例えばSRPは、先日採用したシステム計画の一環として、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの割合を3倍に増やすと発表した。ドミニオンは再生可能エネルギーの発電容量を2038年までに10倍にする計画を発表(国内最大の洋上風力発電プロジェクトも含む)。
OPPDも、クリーンエネルギーの規模を拡充するとして最大1500メガワットの新規プロジェクトを計画している(広報担当者によれば、これは45万世帯に電力を供給できる容量とのこと)。
一方、データセンターの開発者と利用者は、自分たちも送電網からの排出ガス削減に貢献していると話す。データセンター産業が、その膨大なエネルギー需要を背景に電力の長期購入契約を結ぶことで、新たな再生可能エネルギープロジェクトの建設費用を融資しているというわけだ。
グーグルがネブラスカ州で進めているデータセンター開発について、同社の広報担当者デボン・スマイリーは、2030年までにカーボンフリー電力を24時間使用することを目標としていると話す。
「OPPDとの緊密な協力のもと、州内でのクリーンエネルギー・プロジェクトについて活発に調査を実施していますが、現時点で詳しくお話しできることはありません」(スマイリー)
アメリカ有数のデータセンター・ユーザーであるアマゾンはInsiderの取材に対し、電力購入契約と呼ばれる契約を結んだと語った。契約の内容は、バージニア州北部を含む複数州の電力網全体で、太陽光および風力発電施設から約6ギガワットのエネルギーを購入するというものだ。この電力は、データセンターをはじめとする業務で消費するエネルギーの埋め合わせに一役買うことになるだろう。
データセンター開発会社エッジコア(EdgeCore)のリー・ケストラーCEOは次のように話す。
「確実に言えるのは、いま現在、電力事業者に対してクリーンエネルギー発電の採用を迫るのに、データセンター産業以上の存在はないということです」
オハイオ州で建設が進むグーグルのデータセンター(2022年撮影)。
USA TODAY NETWORK via Reuters Connect
データセンター業界はグリーンエネルギーの資金調達に一役買っているとはいえ、データセンター自体は、建設を支援しているそのインフラを利用しないことが多々ある。
というのもデータセンターは、オートメーション工場、24時間体制で仕分け・配送を行うEC物流倉庫、精錬所、夜間における電気自動車の充電といったその他の利用者と同様に、風も太陽光も利用できない時間帯に大量の電力を消費するからだ。
電力事業者はこうした状況に対応するため、大規模な太陽電池アレイ(複数の太陽光パネルを結線したもの)を設置したり、揚水発電などその他の大規模エネルギー貯蔵手段を採用したりして、再生可能エネルギーが送電網を流れているときは余剰エネルギーを貯蔵し、流れていないときは利用者に電力を供給するようにしている。
しかし、蓄電池システムは電力消費量全体に比べれば微々たるものであり、当面は一度にたった数時間送電網を補う容量しかない。
「現状のバッテリー技術では4~6時間分しか蓄電することができません」とドミニオン広報のルビーはメールで説明する。電力事業者が「再生可能エネルギーだけに頼れない」理由として、ルビーはこの時間的制約を挙げる。
「洋上風力は24時間のうち40~50%、太陽光は20~25%しか発電しません。電力源がそれしかないのであれば、電力の維持は不可能です」(ルビー)
再生可能エネルギーや電力の利用方法を広げられる蓄電システムには限界がある。これはすなわち、データセンターやその他の産業規模の顧客がかける電力負荷の少なくとも一部を賄うために、化石燃料のインフラがたびたび必要になるということだ。
エッジコアのケストラーCEOは、データセンターが消費するエネルギーについてこう語る。
「われわれはクリーンエネルギーにしたいと考えています。(ただし)今日、再生可能エネルギーで十分な電力を安定的に生み出すことはできないのです」
ユタ州イーグル・マウンテンにあるフェイスブックのデータセンターへの送電線。
George Frey/Getty Images
活況のデータセンター、電力事業者は対応に苦慮
データセンターが消費する電力と、それを賄う再生可能エネルギーの利用可能性との間には隔たりがある。その隔たりの大きさは急速に送電網規模の問題になりつつある。
何の変哲もない倉庫のような見た目のデータセンターが10年前に急増し始めたきっかけは、アマゾン、マイクロソフト、グーグルなどのテック企業大手が主導したおかげで、クラウドコンピューティングとストレージの需要が高まったからだ。
そして、新たな成長のフロンティアと目されているのがAIだ。ブラックストーン(Blackstone)、KKR、ブルックフィールド(Brookfield)などの大口投資家が、数百億ドル規模の新規開発計画に殺到している。
データセンターが集まる場所では、その電力需要は都市全体の負荷に匹敵し、それを上回る可能性すらある。Insiderが試算したところ、アマゾンがバージニア州北部に計画しているデータセンターの敷地面積分だけでも3ギガワットを超える可能性が高いが、これはアマゾンが本社を置くシアトルの発電容量よりも多い。
データセンター産業への対応という課題に、多くの電力事業者はどう取り組むかを今なお模索している。
フェニックスを管轄するもうひとつの大手電力事業者APSは、「電力統合資源計画(IRP)」と呼ばれる長期エネルギー戦略を11月に発表する予定だ。予備資料では、「2023年から2038年にかけて負荷が増える主な原因」はデータセンターだとしている。
フェニックスのすぐ西に位置するグッドイヤー市は、APSの管轄地域に含まれる人口約10万人の都市だ。同市の経済開発主任を務めるウェンディ・ブリッジスは、データセンターの需要を目の当たりにしているという。
グッドイヤー市に大規模データセンターの敷地を2箇所持つマイクロソフトは、その両方を拡張したいとブリッジスに伝えてきたという。他にも、ストリーム(Stream)、ヴァンテージ(Vantage)というデータセンター開発大手2社が、グッドイヤー市での事業拡大計画を先日発表した。
地方自治体にとってデータセンターが魅力的なのは、開発に莫大な資金が費やされて固定資産税の税収を生み出す点と、建設雇用がもたらされる点だとブリッジスは言う。
「確かに、われわれが将来の計画について話し合っている企業はいくつかあります。巨額の投資ゆえ、投資額について話すときは物事が変化するタイミングになります。10億ドル規模のプロジェクトですから」(ブリッジス)
APSの広報担当者のジル・ハンクスがInsiderの取材に対し語ったところによれば、「主にデータセンターなど、24時間365日、常に大容量の電力を必要とする超大規模エネルギーの見込みユーザーから、前例のない規模の要望」を受けたという。
ハンクスはこの電力需要について、「今後8年間でアリゾナ州の世帯が56万世帯増加したときの需要に相当する増加が見込まれる」と話す。
ネバダ州の電力事業者であるNVエナジー(NV Energy)も、活発化するデータセンター開発を目の当たりにしている。
同州に位置するリノはベイエリアに比較的近く、同地域にはテック企業大手が集中している。こうしたことから、リノはデータセンター市場として飛躍的に拡大する可能性があり、アメリカ国内の新しい地域へのデータセンター移転の一例となるとの期待がある。
NVエナジーの広報担当者メギン・デラニーはInsiderの取材に対し、
「ネバダ州は成長を続けており、シルバーステート(ネバダ州の愛称)への進出を目指すデータセンターからの関心の高まりを実感しています」
と語る。
エッジコアのケストラーCEOも、リノは10年後にはフェニックスと肩を並べる都市になると見る。エッジコアは2023年8月、リノに216メガワットのデータセンターを建設する計画を発表した。
だが監視団体によれば、負担増への対応に関して、NVエナジーには成功と失敗の過去があるという。
NVエナジーは2023年3月、ラスベガスから30マイル(約48キロ)郊外にあるメタンガス発電所「シルバーホーク発電所」を440メガワット拡張する認可を州から受けた。だがこのプロジェクトは、2年前の統合資源計画(IRP)の修正案を提出したために批判を招いた。
IRPの課程でプロジェクトには規制当局の標準的な監視が課されるものだが、NVエナジーのやり方ならばその監視をくぐり抜けられる、と指摘するのは、ネバダ州の電力事業者を監視する西部資源保護団体(Western Resource Advocates)のハンター・ホルマン弁護士だ。
これに対してNVエナジー広報のデラニーは、「修正案が規制当局の監視をかいくぐるものだというのは正確ではありません」と主張する。
2021年、NVエナジーはノースバルミー発電所(North Valmy Generating Station)と呼ばれる石炭火力発電所を閉鎖し、太陽光発電と蓄電池に置き換えると発表した。しかし同社は先ごろ、石炭火力発電所の代わりにノースバルミーにメタンガス発電所2基を建設し、ネバダ州北部で計画している太陽光と蓄電池システムの規模を縮小すると発表した。
「NVエナジーはもっとガスが欲しいということでしょうね」(ホルマン弁護士)