著名なエネルギーアナリスト、ポール・サンキーによれば、原油価格は下落を続けるはずだという。
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著名なエネルギーアナリスト、ポール・サンキーが語れば、石油業界は耳を傾ける。それには理由がある。
サンキーは、しばしば市場の未来をよく見通している。2020年初頭、原油価格がマイナスに転じる可能性を警告した数カ月後、サンキーは、みずほ、ウルフ・リサーチ、ドイツ銀行を経て、サンキー・リサーチを設立した。インスティテューショナル・インベスター(Institutional Investor)誌は2023年初め、彼を独立系エネルギー研究者のトップに選んでいる。
原油価格は、数年にわたる力強い回復の後、マイナス圏から大きく脱したが、2023年10月初めの1週間半で暴落した。WTI原油先物は9月下旬の1バレルあたり93ドルから80ドル台前半まで下落しており、サンキーは、原油は今後再び大幅な下降局面を迎えると考えている。
価格調整の根底にあるのは供給量の増加だ。JPモルガンが最近引用した石油やエネルギーのデータ分析会社、プラッツ(Platts)のデータによると、世界の石油在庫は9月に3000万バレル増加していて、ロシアのディーゼル輸出の再開で市場がさらにダブつきかねない。
ガソリン価格の高騰や夏の旅行シーズンの繁忙期が終わったことで、需要も弱まっている。もし不況になれば、経済活動の低下により石油価格はさらに下がるだろう。
石油会社にとって、需要減速に伴う供給増は災いのもとであり、サンキーもこうした懸念を軽視しているわけではない。むしろ、エネルギー関連の投資家はさらなる混乱に備えるべきだと彼は考えている。
「第一の原則は常に需要であり、2024年にかけて需要サイドが弱くなることを考えれば、原油に対して強気になることは難しいです」と、サンキーは最近のインタビューでInsiderに語っている。
石油業界の「炭鉱のカナリア」
サンキーは、2024年の原油価格は15%も下落し、1バレルあたり70ドルから75ドルになると予想している。これは、OPECが価格を維持するために減産すると発表した2023年前半と同水準だ。
石油生産者は難題に直面しているとサンキーは説明する。生産を制限すれば、輸出量は減るが利益率は上がる。しかし、原油価格の上昇は、消費者や企業の需要をさらに圧迫し、不況を引き起こすか、景気を悪化させるリスクを高めることになる。
サンキーは石油生産者について、「彼らは原油が高くなりすぎることを望んでいません。特にこの環境下では、自滅的になるからです。また、彼らが生産能力をめいっぱい使っていないのであれば、どこまで市場を圧縮したいのかを考えなければなりません」と語る。
「原油価格を押し上げることは、石油生産者にとって非常に効果的に働きました。しかし、それが世界的な需要に与える影響に目を向ければ、(特にドル高によって)最終的には、もっと深刻な経済低迷や大規模な需要低迷を招く可能性があります。彼らの最大の関心事は、強い需要なのです。最もコストの低い生産者は、需要が強ければ強いほど業績は良くなるからです」
ただ、その逆もまた、彼らにとっては魅力的ではない。生産量が急増すれば原油価格は暴落する。アメリカの石油生産者は、市場の巨人であるサウジアラビアが減産をやめて市場に石油を供給することを懸念すべきだ。そうなれば、原油価格はさらに下落すると同時に、サウジアラビアが競争力を増すことになるからだ。
「我々が話しているマイナスのシナリオというのがあります。それは、過去10年で2回起きたようにサウジアラビアが我慢の限界に達し、市場シェアと収益を維持するために石油の供給を開始することです。そうなれば、サウジアラビアが原油の減産を始めたときと同水準まで原油価格が急落することになります」
サンキーは、エネルギー投資家は原油価格に注目するだけでなく、石油市場の強さを示す最良のバロメーターである精製マージン(編注:ガソリンやディーゼルなどの精製品の価格と、その製造に使用した原油のコストの差のこと)を注視すべきだと語る。
収益性を表す精製マージンは、夏のピークからかなり低下している。サンキーは、サウジアラビアの減産によって価格が人為的に高く維持され、需要が弱まるため、この傾向は続くだろうと言う。
「精製マージンはまだ高い水準にあり、過去に何度か記録した水準よりは確かにマシです。しかし、その動きは極めてネガティブです。つまり、急落しているのです」
サンキーは後にこうも語る。
「石油市場が直面している最大の懸念は精製マージンです。これ以上の炭鉱のカナリアはありません」
精製マージンは、RIN(Renewable Identification Numbers: 再生可能エネルギー識別番号)を通じてエタノールとバイオディーゼル用に調整されたものを含め、最近劇的に低下している。
Paul Sankey, Sankey Research (based on Bloomberg data)
精製マージンは下落傾向にあるが、サンキーは、石油市場の長期的な下落が必ずしも既定路線ではないと述べる。
JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は最近、地政学的緊張はますます深刻な脅威となっており、突然の紛争勃発は原油価格の急騰を引き起こす可能性があると警告している。サンキーは、自分たちがそうしたいか否かにかかわらず、ロシアがカザフスタンの石油の供給を停止したり、自国の生産をさらに制限したりする可能性を挙げ、さまざまな地政学上の展開が供給を妨げる可能性があると指摘する。
「石油ではクレイジーなことが起きます。まだわれわれの分からない未知数が供給に影響を与えうるのです」
注目のエネルギー株トップ4
米連邦準備制度理事会(FRB)が景気後退を引き起こす可能性など、アメリカの石油生産者は多くのリスクに直面しているが、サンキーはアメリカの国内経済については比較的楽観的だ。
「中国の構造的な問題、インドの官僚的な課題、アフリカとラテンアメリカの政治的資本、そしてそれらすべての問題を抱えるヨーロッパのことを考えると、結局のところ、アメリカは世界最強の経済大国だという結論になります」(サンキー)
残念なことに、景気後退の懸念が再燃したせいで、最近の株価は低迷している。その中にはエネルギー株も含まれており、サンキーは「不況下で保有するのは酷だ」と指摘する。
しかし、エクソン(Exxon)やシェブロン(Chevron)といった大手の石油企業は、堅牢なバランスシートを持つ、キャッシュを生み出す企業であるため、市場が崩壊しても持ちこたえるだろう、とサンキーは述べる。
「極端に否定的な視点に立つなら、これらの企業のバランスシートは非常に強力なので、彼らは配当を払い続け、自社株買いを続けるでしょう」とサンキーは言い、こう付け加えた。
「長期的、構造的に見れば、石油はこれから生み出される利益に比べ過小評価されています」
1つの銘柄を5年から10年保有する余裕のある忍耐強い投資家にとっては、サンアントニオを拠点とする石油精製会社バレロ(Valero)や、中流エネルギー会社、プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン(Plains All American Pipeline)も投資対象として検討に値する。しかしサンキーは、どちらからもすぐに簡単にリターンが得られると期待してはいけないと言う。
「レイバー・デー(9月第1月曜日の祝日)の後という、季節的に石油が弱くなる時期に、こうした銘柄を押し売りするのは避けたいです。『これらはすでに過剰に売られたに違いない』となる前の、2024年1月から2月にかけてを見ていきたいですね」