東証の「カーボンクレジット取引市場」初日の取引終了。脱炭素プロジェクトへの投資加速なるか

市場開設のテープカット

撮影:湯田陽子

東京証券取引所は10月11日、企業・自治体などの二酸化炭素(CO2)排出削減量を取引する「カーボンクレジット取引市場」を新設し、売買を開始した。

カーボンクレジットとは、再生可能エネルギーや省エネルギー設備の導入、森林整備などによる「CO2排出削減効果」を他者と取引できるようにクレジット(排出権)化したものだ。

近年、気候変動枠組条約に基づく目標「2050年ネットゼロ(脱炭素)」や、投資家・NGOなどステークホルダーからの圧力の強化などによって、ニーズが急増している。

脱炭素プロジェクトへの投資を促す手段としても注目されており、各国の排出削減目標の達成に利用できる政府主導のクレジットや、ボランタリークレジットと呼ばれる民間主導のものなど、さまざまなクレジットの取引が世界的に活発化している。

東証のカーボンクレジット市場ではまず、日本政府が認証している(政府主導の)「J-クレジット」が取引対象となる。J-クレジットはボランタリークレジットと比べて流通量が少なく、国内プロジェクトに限られるなど制約も大きいが、地球温暖化対策推進法(温対法)で義務付けられている報告に活用できるメリットもある。9月の段階で、企業や団体など188者が参加手続きを完了していた。

今回東証が開設する市場では、午前は9時〜11時29分、午後は12時30分〜14時59分まで注文を受け付け、11時30分と15時にそれぞれ約定する。

東証によると「従来の相対取引では契約書の作成や与信チェックなどで約1カ月かかっていたが、取引所ができたことで、売買成立(約定)から決済まで6営業日と大幅に短縮する」効果が期待できるという。

取引自体は当初から活発に行われるというよりも、「企業らの年間CO2排出量が確定する12月末や3月末といった期末に向けて増えてくるのではないか」(東証)と見ている。

tosho Carbon Credit  Market

東京証券取引所のカーボンクレジット取引市場に参加する企業・団体の業種別内訳。

出所:東京証券取引所

市場が機能する否かの目安は「50万トン」

J-クレジットには現在、マーケットプレイス形式で売買されるボランタリークレジットと同じくクレジットの売り手やプロジェクト概要が明記された形で、1000超のプロジェクトが認証されている。ただ、株式市場のような市場取引の場合、マーケットプレイスのような個別プロジェクト明記型だと取引が成立しにくい側面があるという。

そのため、東証が2022年9月〜2023年1月に行ったカーボンクレジット市場の実証実験では、個別プロジェクト単位ではなく、再エネ、省エネ、工業プロセス、農業、廃棄物、森林など約70種類に区分を集約して売買。それでも、参加企業から「種類が多くて流動性が低い(取引しにくい)」といった意見が多かったため、途中で省エネ、再エネ(3種)、森林、その他の計6種類に変更したところ、取引が活発化した。

この結果を受けて、10月11日スタートの市場でも6種類の売買区分で取引することになった。再エネに関しては、日本企業も多数参加している再エネ発電推進に関する国際イニシアティブ「RE100」などにも活用できるよう、太陽光・風力などの「電源としての再エネ」とバイオマスなど「熱源としての再エネ」、「両者の混合」の3種類に分けている。

東証は将来的な取引高の目安について、「50万トン程度が流通すれば市場の機能が発揮されると考えている」と語った。

カーボンクレジット市場に関しては10月4日、SBIホールディングスとアスエネが設立した合弁会社・Carbon EXがカーボンクレジット・排出権取引市場のサービス提供を開始。すでに、300社以上が事前登録しているという。

同社はまずマーケットプレイスの形で運用する予定で、J-クレジットのほか、ボランタリークレジット、非化石証書など幅広い商品を取り扱う。登録済みのクレジットは130万トン以上。5年後に年間取扱高1000億円を目指す。

tosho Carbon Credit  Market  1st day

東証「カーボンクレジット取引市場」初日の売買結果。セッション1は午前、同2は午後の結果。

出所:東京証券取引所

東証は11日の取引終了後、初日の売買結果を公表した。

それによると、合計3689トン(炭素換算)の取引が成立。再エネ(電源)の売買高(取引数量)が最も多く、全体の9割超を占めた。約定価格は再エネ(熱源)が最も安い2480円、森林の9900円が最高値だった。

編集部より:初日の売買結果について追記しました。2023年10月11日 17:47

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