イスラエルとアメリカの国旗を焼き焦がし、パレスチナへの連帯を示すレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボッラーの構成員たち。
REUTERS/Alaa al-Marjani
長期化の様相を呈するロシア・ウクライナ戦争に続いて、パレスチナ自治区のイスラム組織ハマスとイスラエルの大規模な軍事衝突が発生。一段と混迷の深まるマクロ環境が、運用中のポートフォリオにどんな影響を及ぼすのか、投資家たちは頭を悩ませている。
それ以前、景気後退入りの懸念が薄れていく中で、S&P500種株価指数は年初来の上昇基調を長く維持し、ウォール街からは過去最高値の更新も間近との声が上がっていた。
ところが、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は9月の連邦公開市場委員会(FOMC)後に記者会見。インフレが持続的に減速していると確認できるまで政策金利は引き締め的な水準にとどまるとの見方を示したため、景気後退懸念が再燃して株価は急落した。
10月に入っても米市場の調整局面には大きな変化が見られず、その最中にハマスの大規模攻撃が始まった。「戦争状態」に突入したとするイスラエルの報復も熾烈(しれつ)で、紛争は深刻さを増している。
石油市場ではすでにその影響が表面化しており、軍事衝突がそのうち周辺の中東産油国を巻き込んで供給が途絶えるとの懸念から、早くも原油価格が上昇を見せている。
急激なマクロ環境の変化に投資家たちは頭を悩ませているが、米金融大手モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)によれば、そんな状況の下でも安心を得られる投資先があるという。
それは「高配当株」だ。
同社のマイク・ウィルソン最高投資責任者(CIO)は、9月下旬の顧客向けメールの中で、高配当株が相場環境やインフレレジームを問わず収益の安定性をもたらすことは歴史的に証明されており、先行きを不安視する投資家にとって賢い選択だと指摘する。
「高配当株」のトラックレコード
2000年以降、配当株は無配当株を(時には大差をつけて)アウトパフォームしてきた【図表1】。
【図表1】ラッセル1000種指数の推移。配当株(青線)は2000年以降、長期一貫して無配当銘柄(黄線)を上回るパフォーマンスを残してきた。
Morgan Stanley
事実として、配当株は相場低迷時にこそ無配当株を大きく上回る傾向があると、ウィルソン氏は指摘する。
「具体的に言うと、2000年、08年、15年、20年に発生した相場急落の際に、配当株のアウトパフォームが集中的に確認されています」
厳しい相場環境において、そうした力強いパフォーマンスが発揮される理由は二つある。カギとなるのは「現金」と「クオリティ」だ。
「第一に、配当株は、配当金を受け取れることでプラスのリターンが保証されている(現金収入を確保できる)ため、相対的に安定度が高いのです」(ウィルソン氏)
ウィルソン氏はさらに次のように説明を続ける。
「根拠として第一には劣後するものの、第二にクオリティ・バイアスが挙げられます。
配当株の長期的な株価上昇(パフォーマンスの向上)を生み出すのは、配当金を受け取れることそのものではありません。
むしろ、毎年継続して配当金を出すという(場当たり的ではない)長期に係る意思決定をしたコホート(群)に属する企業であることや、大型株インデックスの構成銘柄であること、相場低迷時にボラティリティが低下することこそが、株価上昇の源泉なのです」
ただし、配当金を支払っていればどんな銘柄でも恒久的にアウトパフォームが続くというわけではないとウィルソン氏は強調する。
実際、高配当(配当利回りの高い)株は2021年、22年に通年でアウトパフォームを記録したものの、2023年は巨大テック企業が堅調なリターンの伸びを見せたため、高配当株はアンダーパフォームで推移しているという。
ウィルソン氏はまた、配当利回りの高さだけでインカム投資の良し悪しを判断してはならないと警告する。同氏が推奨するのは、(過去25年間連続して毎年増配を実現してきた優良大型株の動向を示す)「S&P500配当貴族指数」構成銘柄のような「配当成長株」だ。
なぜなら、株価が下落すると、それに比例して(1株当たりの配当金を株価で割って算出する)配当利回りは上昇するので、下駄を履いて見えるケースもあるからだ。
そうした注意点はあるものの、足元の荒れ模様の相場で安定した収益を得たいと考える投資家にとって、ウィルソン氏のアドバイスは役立つに違いない。
同氏は顧客の投資家向けに、配当利回りが高く、ボラティリティが低い銘柄をリスト化している。堅実なリターンとディフェンシブなクオリティを武器に、変動の激しい相場を乗り切るコンビネーションと言える。
以下では、配当利回りが時価総額規模別の上位25%以内で、なおかつ、短期/長期ベータ値(価格感応度)やボラティリティ、自己資本利益率(ROE)のボラティリティ、相場下落時の平均アンダーパフォーム幅などから算出するモルガン・スタンレー独自の指標に基づき、ディフェンシブ銘柄の上位25%以内に入っている銘柄を紹介する。
なお、米国版記事では上記の条件を満たす47銘柄をリストアップしている。日本語版では、その中でもモルガン・スタンレーがレーティング(投資判断)を最上位の「オーバーウェイト」としている強気の8銘柄だけに絞り込んで紹介する。
各銘柄には、所属セクター、業種、時価総額も付した。
フィリップモリス(Philip Morris)
Markets Insider
[セクター]生活必需品
[業種]飲食料品・タバコ
[時価総額]1430.3億ドル
メドトロニック(Medtronic)
Markets Insider
[セクター]ヘルスケア
[業種]ヘルスケア機器・サービス
[時価総額]1012.9億ドル
CVSヘルス(CVS Health)
Markets Insider
[セクター]ヘルスケア
[業種]ヘルスケア機器・サービス
[時価総額]897.9億ドル
アッヴィ(AbbVie)
Markets Insider
[セクター]ヘルスケア
[業種]製薬・バイオテクノロジー・ライフサイエンス
[時価総額]2615.5億ドル
L3ハリス・テクノロジーズ(L3Harris Technologies)
Markets Insider
[セクター]資本財
[業種]資本財
[時価総額]310.0億ドル
ジョンソン・コントロールズ・インターナショナル(Johnson Controls International)
Markets Insider
[セクター]資本財
[業種]資本財
[時価総額]356.2億ドル
ゲーミング・アンド・レジャー・プロパティーズ(Gaming & Leisure Properties)
Markets Insider
[セクター]不動産
[業種]不動産投資信託(REITs)
[時価総額]119.6億ドル
クラウン・キャッスル(Crown Castle)
Markets Insider
[セクター]不動産
[業種]不動産投資信託(REITs)
[時価総額]395.3億ドル