2021年9月22日にハンガリーのブダペストにあるグラフィソフト・パークに展示された、ビットコイン創始者サトシ・ナカモト(偽名とされている)の像。
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- ビットコイン発明者と言われるサトシ・ナカモトは2008年、その暗号資産の概念を示す原論文を書いた。
- その正体について新たな説が次々と浮上するなか、2023年4月に暗号資産ファンたちはナカモトの48歳の誕生日を祝った。
- 本記事では、世界最大の暗号資産システムを支える
サトシ・ナカモトは、世界最大の暗号資産であるビットコインを発明したとされる個人または集団の名前だ。その伝説は謎に包まれている。
いまだナカモトの正体は明かされていないが、P2Pファンデーション(P2P Foundation)のプロフィールによると今年の4月5日は48回目の誕生日だった。
その週には、ナカモトの正体をAppleの共同設立者である故スティーブ・ジョブズだとする説も出た。2018年以降に出荷されたMacコンピューターのOSの書類にビットコインの原論文資料が含まれているとわかったことがきっかけだ。
「今日、プリンターを修理しようとしていたら、サトシ・ナカモトのビットコイン原論文のPDF資料が2018年のMojave以降のすべてのMacOSの書類に含まれているらしいことを発見した」と、技術者のアンディ・バイオは4月5日のブログに投稿した。
ナカモトの論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(ビットコイン:ピア・ツー・ピア電子通貨システム)」は、2008年10月に発表された。要旨にはこう記されている。
「純粋なピア・ツー・ピア(P2P:端末同士の直接的なやり取り)の電子マネーがあれば、金融機関を通すことなく直接相手に送金するオンライン決済が可能になるだろう」
それ以来、ビットコインは世界最大の暗号通貨となり、10月のコイン・マーケット・キャップ(CoinMarketCap)のデータによると、時価総額は約5277億ドル(約78兆円)に上る。
サトシ・ナカモトについてわかっていること
ビットコインの複雑なソースコードを考案し、原論文を執筆し、オンラインフォーラムでユーザーとやりとりしたナカモトは、確かに存在している。
P2Pファンデーションのプロフィールでは、所在地は日本となっている。本人は日本人を自称するが、ナカモトの投稿にはイギリス英語の綴りや表現が使われていたこともあり、本当は日本人ではないと考える人もいる。さらに、ナカモトの投稿の日時を根拠に挙げて、日本にはいないはずだと指摘する声もある。
2011年、ナカモトのアカウントは「もう他のプロジェクトに移った」と投稿した。
ナカモトは数多くの暗号資産ウォレットも所有していると考えられる。一部の推定によると、それらのウォレットに保管されているビットコインは110万枚を超える。2021年11月にビットコインが史上最高値の6万8000ドル(当時約770万円)をつけたときには、その保有資産の価値は約730億ドル(当時約8兆2700億円)まで上ったことになり、ナカモトは当時の世界の大富豪15人の中に入ったことになる。
ビットコインのソースコードの複雑さを考えると、ナカモトが1人である可能性は低いと推測する者もいる。
「チームであれ個人であれ、ナカモトは天才だ」と、インターネットセキュリティ研究の第一人者であるダン・カミンスキーは2011年にニューヨーカー(NEWYORKER)に語った。
ナカモトは論文で、ブロックチェーン技術の発明に貢献したとされるコンピューター科学者スチュアート・ヘイバーの研究を引用している。一方でヘイバーは、ビットコインの背後にいるプログラマーは「鋭い知性」を持つ者だろうというカミンスキーの考えに同意している。
ナカモトの正体だとされてきた人物たち
2013年、1998年にビットコインの前身である「ビットゴールド」の研究を発表したコンピューター科学者、ニック・サボがナカモトの正体かもしれないとして注目を集めた。しかしサボはそれを否定しており、金融ライターのドミニク・フリスビーも2人を結びつける証拠は存在しないと述べている。
それでもジャーナリストのナサニエル・ポッパーは、2015年のニューヨーク・タイムズ(New York Times)で、「最も強力な証拠を辿ると、表立った活動をしていないニック・サボというハンガリー系アメリカ人男性に行き着く」と述べている。
2014年のニューズウィーク(Newsweek)の記事は、カリフォルニアに住む日系アメリカ人男性、ドリアン・プレンティス・サトシ・ナカモトが謎めいたビットコインの発明者だとした。記事は彼が物理学を学んで機密の防衛プロジェクトに携わっていたと伝えたが、彼もまた疑惑を否定した。
記事掲載後、ナカモトのアカウントは数年ぶりに復活し、「私はドリアン・ナカモトではない」とコメントした。
2015年12月にワイヤード(WIRED)は、オーストラリアの研究者クレイグ・スティーブン・ライトについて、「ビットコインの発明者であるか、あるいは自分が発明者だと人々にどうしても信じさせたい有能な詐欺師」と呼んだ。
同日にギズモード(GIZMODO)は、ライトとコンピューター科学者のデイヴ・クレイマンが共にビットコインの発明に関わったという記事を掲載した。
2016年5月、ライトはブログの投稿で確かに自分がビットコインを発明したと公に述べたが、暗号資産業界の大物たちは虚偽だと指摘した。
アップルのジョブズの他、ナカモトの正体だとされた人々には、政府関係者、他のさまざまなコンピューター科学者、そして2017年のツイートでナカモトであることを否定したイーロン・マスクまでもが含まれる。
10月11日の水曜、ビットコインの価格は2万7046ドル(約400万円)前後で推移した。2023年に入ってから61%も急騰している。