記者会見の冒頭、謝罪する全銀ネット幹部。左から全銀ネットの辻松雄理事長、同企画部長の千葉勇一氏。
記者会見のスクリーンショット
全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営する「全国銀行データ通信システム」(全銀システム)に、約50年間の歴史で初めてという障害発生が社会を揺るがせている。
10月11日18時から記者会見を開いた全銀ネットによると、10月10日から続く、一部の金融機関で他行宛振込などの取引ができない障害は、少なくとも12日午前まで継続する見通しを明らかにした。
全銀ネットの辻松雄理事長は、問題が全銀ネットのRC(中継コンピューター)で使われる特定のプログラムにあったと説明。12日午前8時30分までの段階で臨時の改修を実施し、取引の再開を優先する方針だ。
10月12日午前9時追記:
全銀ネットが午前8時半からの復旧見通しを公表。ロイターは障害が解消し、一部銀行が通常通り取引できることを確認したと報じた。
10月12日午前11時30分追記:
全銀ネットは午前9時45分配信のリリースで、改めてモニタリングで全行の稼働を確認していることを公表した。
※復旧が確定したため、記事タイトルを改めました
全銀システム初のトラブル、現在の状況
撮影:今村拓馬
今回の障害は10月10日朝8時30分に発生。三菱UFJ銀行やりそな銀行など11の金融機関が影響を受けた。全11行のリストは下記の通りだ。
- 三菱UFJ銀行
- 三菱UFJ信託銀行
- りそな銀行
- 埼玉りそな銀行
- 関西みらい銀行
- 山口銀行
- 北九州銀行
- 日本カストディ銀行
- JPモルガン・チェース銀行
- もみじ銀行
- 商工中金
障害が発生した11行では、他行宛の振込ができない状況。さらに自行宛の振込も受け付けられなくなった。結果として、例えば給与振込口座への振込がされない、引き落とし口座への残高の入金ができない、などの問題が発生した。
10月10日には他行への振り込み(「仕向」と呼ぶ)で150万件、自行への振込(同「被仕向」)では152万件の取引が影響を受けた。10月11日には、さらに仕向で105万件、被仕向で99万件が影響を受けた。
全銀ネット記者会見の配付資料より。会見時点では、10日、11日の合算で「未処理」も87万件が残っている。11日夜のモアタイム中に処理が行われるため、12日朝の時点で未処理が何件残っているかは不明。
記者会見資料のスクリーンショット
そのうち、10月10日分は仕向で49万件の未処理が発生し、11日まで未処理が継続。11日分では38万件の未処理が発生した。被仕向は、10日中に152万件が処理され、被仕向は11日中に全件の処理が完了する見込み。
基本的に、送金元(仕向)と送金先(被仕向)はセットの処理だ。他人からの振込だけでなく、自分の2つの口座間で送金する場合もあるため、「影響件数」は単純な合算では表現しづらい。
仕向側は2日間で255万件、被仕向は2日間で251万件の取引が障害の影響を受け、2日間で87万件の仕向取引が未処理のまま残っている、というのが原稿執筆時点(11日21時)までの状況だ。
全銀システムに何が起きたか
全銀システムとは、日本のほぼ全ての金融機関が参加して、ネットワークで相互に接続するインフラで、1973年4月から稼働している。
8時30分から15時までの「コアタイム」と、それ以外の時間帯の「モアタイム」という2つのシステムからなり、約50年にわたって大きなトラブルなく稼働し、モアタイムが導入された2018年以降は24時間365日為替取引を処理してきた。
全銀システムでは、定期的にシステムの更新を実施している。コアタイムで使われている「RC」(Relay Computer/中継コンピューター)は2017年に更新しており、耐用年数などから順次更改の時期になっていた。そのため、10月7日~9日の3連休で、新たなソフトウェアへの最初の更新を実施する予定となっていた。
全銀システムの構造。図の「銀行接続センター」にあるRCという設備の置き換えに伴い、今回の障害が発生した。
全銀システムパンフレットより
全銀ネットの説明によると、まずは三菱UFJ銀行やりそな銀行など14行が接続するRCの更新となり、3連休でバックアップ用を含めた2系統のRCを置き換えた。置き換え自体は無事に成功し、連休明けの10月10日のコアタイムとなってシステムが稼働し始めた。
ところが新RCとなった14行の内の11行で、他行宛の振込取引ができない状況が発生。原因究明をしたところ、銀行間の取引の手数料である「内国為替制度運営費」を参照するプログラムで不具合が発生していることを確認したとする。
不具合発生日の10日の夜中になり、修正したプログラムを作成して2回の試験を実施したが、不具合は解消できなかった。
その後、コアタイムでは「そのほかの為替取引に支障が出る」として障害対応は停止し、不具合が残ったままの状態で翌11日の取引を継続した。このため、当初2日間にわたって、一部の金融機関で他行宛の振込ができない障害が続いた。
全銀ネットでは、11日の夜中から、新しく作成したプログラムを適用して、12日のコアタイム(8時30分)から不具合の解消を目指す。
障害解消の「新プログラム」は回復優先の「暫定版」
この新プログラムは、本来とは異なる「簡易的な仕様」で作られると全銀ネットは説明する。
具体的には、本来は取引のバリエーションによって異なる内国為替制度運営費を参照する動作をやめ、復旧を優先するため、「費用をすべて0円とみなす」ことで処理を継続させる。
プログラムが簡素化されたことで「改修がうまくいく蓋然性が高い」(辻理事長)と判断。ベンダーであるNTTデータとも協議して、「恐らくうまくいく」(同)と期待している。
なぜ障害発生で銀行の明暗が分かれたのか
記者会見のスクリーンショット
今回の障害では、新RCに接続する14行のうち、障害が起きたのは11行。つまり3行では障害が発生していない。
この理由について、全銀ネットは、障害が発生した11行は、内国為替制度運営費をRC側で計算しており、一方で障害が発生しなかった3行は自前のシステムで手数料を計算していたと説明する。
この説明からも、ほぼ内国為替制度運営費のプログラムの問題だと、問題箇所は絞り込まれている。
しかし、全銀ネットは、復旧策のうち、システムを更新前に戻す「“新RCへの切り替え”の切り戻し」は選ばず、あくまでプログラムの改修が適切だと判断した。会見では、この理由も見えてきた。
新RCには14行が接続しており、不具合発生で旧RCへの切り戻しをしようにも、「成功した3行」も含めて銀行側とも協議ながら切り戻し作業が必要になる。全銀ネット側をただ元通りに戻せば良いわけではないため、全銀ネットでは切り戻しよりもプログラムの改修の方がリスクは低いと判断した。
10月11日夜時点でも問題が解消していない以上、「どんな対応が正解だったのか」は明らかではないが、結果としてプログラムの修正に2回失敗し、復旧が長期に及ぶ形になっているのは事実だ。
全銀ネットでは、RCの更改を「レベルアップ」と表現。今回、ハードウェアの更新もしていたが、あくまで障害は「ソフトウェアの障害」だとする。
レベルアップの大きな変更点はソフトウェア面で、特に仮想化も導入していて、「何度も試験をやってきた」(同)という。テストでは個別銀行と接続して相互運転も実施したが、内国為替制度運営費の計算プログラムにおける不具合は、テストで発見できなかった。
正確な原因は11日時点でも判明していない
辻理事長は、「既存のRCでは内国為替制度運営費のプログラムに問題はなかった。旧RCと新RCを比べると、差異として仮想化の部分があり、そこに影響が合ったかもしれないが、まだ推測の段階」と説明する。
今回のトラブルでは、2系統のRCを同時に更新しているため、プログラムに不具合があると2台とも不具合が発生する。
つまり、システム的には「冗長化がされていない」形だ。全銀ネットの企画部長・千葉勇一氏は、「RCは両系移行を前提としていた」として、従来からの移行手順だったという。
それでも結果として障害は発生してしまい、商取引などの決済が集中する5の倍数の日「ごとうび(五十日)」だったこともあって、社会に多大な影響が出てしまった。
今後はこうした作業手順の見直しも検討する必要があるだろう。新RCへの移行は4回にわたって実施する予定で、次は2024年1月に実施する。それまでに、不具合の解消は当然として、「暫定版」のプログラムへの対処、新たな試験、そして実施手順の見直しも必要となりそうだ。
なお、銀行などへの補償の問題も残る。全銀ネットでは、現時点で不具合が解消していないため、まずは復旧を優先し、今後障害の影響範囲を確認して補償などの対応を検討していく考えだ。