エア・ストリート・キャピタルの創業者兼パートナー、ネイサン・ベナイチ氏。
Air Street Capital
新たなレポートによると、金融機関は今後12カ月以内に「GPUデットファンド(GPU debt funds)」を立ち上げる可能性が高い。これは、グラフィックス処理装置へのアクセス資金を必要とするスタートアップ企業からの膨大な需要に応えるためである。
ChatGPT-3の発表から約1年が経過し、AI(人工知能)の利用とさまざまな応用が急増している。
エア・ストリート・キャピタル(Air Street Capital)が先ごろ発表したAI現状レポートによると、生成AIスタートアップ企業は特にブームの恩恵を受けており、2023年にはベンチャーキャピタル(VC)から180億ドル(約2兆7000億円、1ドル=150円換算)超を調達している(これは、2022年にVCがこの分野に投じた39億ドル〔約5800億円〕の約5倍にあたる)。
現在、AIスタートアップ企業が直面している主な課題の1つは、高品質なアウトプットを生成するために大量のデータを処理する必要があることだ。同レポートによると、これらのサービスへの需要が高まるなか、スタートアップ企業は「計算能力」という名の新形態の通貨を手に入れようと先を争っている。
スタートアップ企業は、半導体メーカーからGPUを購入したり、クラウドプロバイダーを通じてGPUへのアクセスをレンタルしたりすることで、計算能力を活用することができる。ハードウェアの競争は激しく、半導体市場で確固たる地位を築いている市場大手のエヌビディア(Nvidia)は、半導体不足に悩まされている。GPUへのアクセスは決して安くはなく、スタートアップ企業の資金調達要件に影響を与える可能性がある。
同レポートの共著者であるエア・ストリート・キャピタルのパートナー、ネイサン・ベナイチ氏は、次のように述べている。
「データセットとモデルサイズのスケーリングの両方が、パフォーマンス向上をもたらす大規模AIの時代に確実に突入したことから、大規模AIモデルを開発するスタートアップは、Nvidiaチップを強化するためにできることを行っている。
これには、プライベートクラスターの買収資金を調達するためのメガラウンドの調達も含まれる」
ベナイチ氏はInsiderの取材に対し、大規模な計算を必要とするスタートアップ企業の中には、クラウドプロバイダーからGPUアクセスをレンタルするために、VCに株式を売却することで資金を調達しているところもある、と語った。
「これはファウンダーや投資家にとっては良くないことだ。これによって、早期にバリュエーションを上げすぎてしまい、将来のバリュエーションを正当化するために企業が達成しなければならない商業的期待値を、非現実的な値に設定してしまうことになる」(ベナイチ氏)
同レポートの共著者たちは、銀行などの金融機関が「GPUデットファンド」を立ち上げ、これが計算能力向上のための資金調達に使われるであろうVCのエクイティに取って代わる可能性もあり得る、と予測している。
レポートによると、GPUの寿命は長く、10年先まで使用することができる。GPUデットファンドは、「責任ある、希釈化されない資金調達を奨励したい」規制当局にとっても魅力的な選択肢であり、通常は「エクイティ・ファイナンスよりも規制要件が少ない」とベナイチ氏は述べている。
これは簡単な解決策ではないが、選ばれた一部のスタートアップ企業が、半導体をローンの担保として使うという試みを始めている。コアウィーブ(Coreweave)は、自社のH100チップを23億ドル(約3450億円)の債務枠の担保として使っているが、同レポートの共著者は、こうした動きにはリスクがあると指摘している。
「GPUデットファンドが一夜にして実現するとは思いませんが、依然として金利が高いため、プライベートクレジット(投資会社などのノンバンクが行う融資)の魅力が増してきています」とベナイチ氏はInsiderに語る。
エア・ストリート・キャピタルによる10の予測
エア・ストリート・キャピタルは、AI企業が2023年、さらに主流になると予測している。同レポートの共著者は、例えばAIに特化した分析会社データブリックス(Databricks)がIPOを申請する可能性があると予測しているほか、2024年にはAIが生成した曲がビルボード100のトップ10入りを果たすだろうと確信している。
以下では、エア・ストリート・キャピタルによる今後12カ月間のAI予測10項目を紹介しよう。
- ハリウッド級の作品では、視覚効果に生成AIが活用される。
- 生成AIメディア企業が、2024年の米大統領選挙キャンペーン中に悪用されたとして調査される。
- 自己改善型のAIエージェントが、複雑な環境(例:AAAゲーム、ツールの使用、科学)でSOTAを圧倒する。
- テック業界のIPO市場の状況が改善し、AIに特化した企業(データブリックスなど)の大型上場が少なくとも1つ実現する。
- 生成AIのスケーリングブームでは、1つの大規模モデルのトレーニングに10億ドル(約1500億円)以上を費やすグループが現れる。
- 米連邦取引委員会(FTC)またはイギリスの競争市場庁(CMA)が、競争の観点からマイクロソフト(Microsoft)とOpenAIのディールを調査する。
- グローバルなAIガバナンスについては、高水準な自発的コミットメントを超えた進展は限定的と考えられる。
- 金融機関がGPUデットファンドを立ち上げ、計算能力向上のための資金調達方法としてVCのエクイティに取って代わる。
- AIが生成した曲が「ビルボード・ホット100トップ10」または「Spotifyトップヒット 2024 10」に入る。
- 施行と解釈の問題により、EUのAI法は、AI規制のモデルとして広く採用されるには至らない。