ヤフーのリスキリング講座「費用の7割」国が補助。ただし条件は“転職すること”

LINEヤフーアカデミープロダクトオーナー兼推進室長・佐野ひかり氏

記者会見に参加したLINEヤフーアカデミープロダクトオーナー兼推進室長・佐野ひかり氏。

撮影:横山耕太郎

LINEヤフーは2023年10月12日、未経験者からITエンジニアへの転職を支援する新たなリスキリングプログラム「LINEヤフーテックアカデミー」を開設した。

ヤフーは2022年11月、プログラミングスクール運営などを手がけるキラメックスと共同で、リスキリング事業に参入した。アカデミー1期生として140人が参加したが、新しいプログラムでは定員の上限をなくし、いつでも申し込み・オンライン受講が可能な形式に変更する。

また経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」に採択されたため、条件を満たせば最大で受講料の7割が支給される。LINEヤフーのリスキリング講座の場合は、税込み55万円の受講費用のうち、35万円が補助される形だ。

ただし“費用の7割補助”を受けるためには、「リスキリング講座を受けた上で、転職すること」が条件となっている。「転職を考えていない人」は、リスキリング補助の対象にならない制度設計になっていることから、経産省のリスキリング支援のあり方を疑問視する声もある。

ヤフーのノウハウ、カリキュラムに

テックアカデミー

LINEヤフーテックアカデミーでは10月12日から受講者の申し込みを開始した。

撮影:横山耕太郎

「LINEヤフーテックアカデミー」が10月12日から申し込みを開始したのは「Webアプリケーション開発コース」。

このコースでは16週間で、Java、Web基礎、Spring Boot、Linux、システム開発基礎、個人開発演習などに取り組む。学習期間中は1日約2〜3時間の学習を想定しており、学習時間の目標は320時間。

カリキュラムの内容は、Yahoo! JAPANが培ってきたノウハウを反映した実践的なものだとしており、現役エンジニアがメンターとなり週に2回、25分のオンライン面接を実施するほか、毎日チャットで相談できるサポートサービスもある。またヴァーチャル空間を活用し、受講生同士の交流イベントも企画するという。

1期生は8割が未経験。転職成功率は「非公開」

2023年1月〜5月に受講した第1期生は、募集開始からの3日間で当初の定員100人を超える申し込みがあったため、定員を140人に拡大。その上で抽選で受講生を選出した。

1期生の87%がプログラミング未経験だったが、美容師やホテルマンからIT企業のエンジニア職に転職した事例もあるという。一方、現状の転職成功率や、将来的な転職成功率の目標については「回答できない」とした。

経産省「最大で費用7割」補助

記念撮影

LINEヤフーの佐野氏(左)と、キラメックスの伏田雅輝・取締役。

撮影:横山耕太郎

今回発表されたLINEヤフーのリスキリング講座のポイントは、国の支援事業に採択されたことで、受講者の金銭的な負担が大きく減ることだ。

経産省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」は、在職者のキャリア相談、リスキリング、転職までを一体的に支援する制度だ。

2023年6月に始まった新しい取り組みで、2022年度補正予算では753億円が計上された。補助金を受け取る認定業者は公募で受け付けており、1次公募で51事業者、2次公募で36事業者がすでに採択されており、現在3次公募を受け付けている。

この補助金は、受講者ではなく認定業者に支払われ、受講者がリスキリング講座を修了した場合、40万円を上限に受講費用の2分の1の補助を受けられる。またリスキリング講座後に実際に転職し、その後1年間継続的に就業していることなどを確認できる場合には、16万円を上限に講座の受講料の5分の1が、追加で補助される。

LINEヤフーのリスキリング講座の場合、受講費用は税別50万円のため、受講を終えた時点で25万円が支給され、転職して1年勤務している場合にはさらに10万円が支給される(転職支援の期間は学習期間の終了後約5カ月間)。

経産省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」

経産省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」では、リスキリングから転職までを一体で支援する。

撮影:横山耕太郎

「転職ありき支援」の使いにくさも……

逆に言えば、転職を考えていないリスキリングの場合は、この支援の対象にならない。

LINEヤフーテックアカデミーの申し込み要項にも、国の補助を受ける場合には「登録時や初回面談時に転職を目指していない方は支援対象の条件を満たしません」と明記されている。

一方で転職は考えていないものの、IT分野のリスキリングをしたいというニーズは多い。

実際にアカデミーの1期生は、経産省の補助制度の対象にはなっていなかったが、受講者のうち転職希望者は38%に留まる。6割以上が転職を考えていない状況で受講していた。

経産省の支援については「転職が最終目的となっているため、転職を考えていない場合には役立たない」という声も聞かれる。

「転職サポート者からまずはサポート」

この点について、LINEヤフーアカデミープロダクトオーナー兼推進室長・佐野ひかり氏は記者会見で、転職を考えていない場合でも、国の補助なしでの参加を歓迎していると説明した。

必ずしも転職の方だけではなく、スキルアップやプログラミングスキルを身につけたいという方にも有益なコースだと考えている。

ただ補助の対象となるという観点では、転職支援を受けていただく方でないと、対象にならない。条件をご理解いただいた上で、補助を受けられなくてもこのコースをご利用いただける方には十分にエンジニアとしてのスキルは身につけてもらえると思っている」

経産省の補助制度について佐野氏は、「IT分野への未経験からの転職をハードルと感じる人も多い。その意味では転職意向の高い人からまずはサポートしたいと思っている」と話した。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み