サントリーが山崎蒸溜所を刷新。世界で品薄のジャパニーズウイスキー、鳥井社長「需給釣り合うのまだ先」

外観

サントリー山崎蒸溜所。

撮影:土屋咲花

2023年は、日本で本格的なウイスキーづくりが始まって100年の節目にあたる。

今やジャパニーズウイスキーは国内外で評価される存在になった。一部のブランドはオークションで高値がつき、入手困難な商品も多い。

人気ブランドの一つ、「山崎」などを手掛けるサントリーは、日本で最初に本格的なウイスキーの製造を始めた企業だ。1923年、創業者の鳥井信治郎が、名水の地・山崎(大阪府三島郡島本町)で蒸溜所の建設に着手した。サントリー山崎蒸溜所は第二次世界大戦の戦火を免れ、同じ場所で操業する。今では工場見学ツアーも人気だ。

100周年でリニューアルされた山崎蒸溜所に投じた資金は、山梨県の白州蒸溜所と合わせて約100億円と巨額だ。サントリーとしても力を入れた刷新だということがわかる。

報道陣に公開された蒸溜所の内部を取材した。

100周年リニューアルで「100億円の設備投資」

鳥井社長

サントリーの鳥井信宏社長(中央)、チーフブレンダー福與伸二氏(左)、サントリー山崎蒸溜所の藤井敬久工場長(右)。

撮影:土屋咲花

「サントリーのような消費財メーカーのことを英語ではFast Moving Consumer Goodsと言いますが、ウイスキーはスロームービングの商品。地に足をつけて、これまでと同様に真摯にものづくりをしていきたい」

サントリーの鳥井信宏社長は、山崎蒸溜所で開かれた取材会でこう意気込みを語った。

リニューアルには、山梨県の白州蒸溜所と合わせて約100億円を投じた。

改修によってこれまで見学できなかったエリアに入室できるようになったほか、樽や蒸留器を再利用した内装やインテリアが各所に設置された。11月からは、3000円の「山崎蒸溜所ものづくりツアー」と1万円の「山崎蒸溜所ものづくりツアー プレステージ」の2種類の見学ツアーを実施する。

改修ポイントを見ていこう。

テイスティングラウンジ

蒸留器をバーカウンターに再利用したテイスティングラウンジ。現在稼働している蒸留器と比べて、昔のものは大きいという。

撮影:土屋咲花

サントリーの各種ウイスキーや原酒を味わえる「テイスティングラウンジ」は、かつて山崎蒸溜所で稼働していた蒸溜器「ポットスチル」をバーカウンターとして再利用した。

これまで入室できなかった発酵室は、見学できるようリニューアルされた。木桶の中には麦汁と酵母が入っていて、3日間かけて発酵を行う。

発酵室

発酵室。見学時は、発酵開始から1日経ったタイミング。炭酸ガスが発生し、木桶の中で液体が泡立つ様子が見えた。

撮影:土屋咲花

貯蔵庫は樽板の絵柄を描きなおした。見学エリアだけで約2000樽の貯蔵樽が眠っている。蒸溜所全体の貯蔵量は非公開だが、貯蔵力は増設によって10年前と比べて6割増加しているという。

貯蔵庫

貯蔵庫。リニューアルに合わせて、樽板の絵柄を描き直した。

撮影:土屋咲花

新ゲストルーム

新しくなったゲストルームには、樽材を再利用した机と椅子を備える。

撮影:土屋咲花

樽材の机

原酒が染み出したことによる色の変化を見ることができる。

撮影:土屋咲花

2023年は改修による閉鎖期間があったため、約半年の稼働で5万人の来場を見込んでいる。

2024年は13万5000人の受け入れを掲げ、コロナ禍前の2019年比で104%の集客を目指す。コロナ禍前はツアー利用客のうち約3割が外国人だった。インバウンド客の取り込みも狙う。

原酒不足の解消「まだ先」

熟成樽

1924年に詰められた最初の樽。ツアーで見学できる。

撮影:土屋咲花

「山崎」など日本のウイスキーは2000年ごろから、世界的なウイスキーのアワードで評価されるようになった。

輸出が伸び始めたのは2015年ごろから。2022年の輸出金額は610億円で、前年比で約3割増の成長を見せている。国内でも2008年にハイボールが再流行して以降、需要が高まる。

一方で、国内外での人気の高まりに伴い、国産ウイスキーは原酒不足による価格の高騰や品薄が続いている。

鳥井社長。

鳥井信宏社長。

サントリー提供

鳥井社長が「スロームービング」と言うように、ウイスキーは仕込んでから市場に出回るまでに数年から10年以上かかり、需給予測が難しいビジネスだ。

サントリーホールディングスの佐治信忠会長は、経営者として最大の失敗として「2000年代中盤までのウイスキーが売れない時期に生産を極力少なくする判断をしたこと」を挙げている。

鳥井社長は今後のウイスキーの需要についてどう考えているのか。

「80年代に色々とそういうこと(※1980年代ごろから約25年間にわたるダウントレンドの時期)はありましたが、当時のサントリーグループは日本国内のいち企業だったのに対し、今は世界の販路を持っているという大きな違いがあります。

全体的に市場を見ますと、経済発展に伴ってホワイトスピリッツ(無色の蒸留酒)から色のついた蒸留酒へと需要がシフトするのが見て取れますので、ウイスキーに対する需要は世界的に続くと見ています

という。

原酒不足解消の見通しについては、

「ウイスキーブームがしぼんだら明日にでも解消します。ただ、そうはならないことを考えると、10年ものでしたら10年以上熟成させなければいけないので、需要と供給のバランスが取れるのはまだしばらく先だと考えています」

と話した。

(取材協力:サントリー)

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