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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
小規模なスタートアップで働く方から、「入社時の約束と違う」という嘆きの声が届いています。
Aさん
小規模なスタートアップに勤務している者です。転職して1年半が過ぎたところですが、最近モヤモヤしていることがあり、ご相談させてください。
転職のきっかけは、社内の人(もともと面識がありました)から声をかけられたことです。仕事内容は私のコアスキルとは多少違う部分もあったのですが、「あなたが得意なことだけ取り組んでもらえばいいから」と入社前に言われ、それならばと転職を決めました。
でも入社して1年近く経ったところで、私を誘ってくれた方が退職してしまいました。新しい上司は最近になって部署内のリプレースメントを進めていて、私にも見当違いの業務を割り当てようとしているのを知ったため、あわてて入社前の経緯を説明したのですが、「そんなことは聞いていなかった」と言われてしまいました。
文書に残しておかなかった自分もいけないとは思いますが、なんだか釈然としません。私が受け入れられない場合、転職するしかないのでしょうか。
(Aさん/40代前半/女性/クリエイティブ職)
Aさんが納得いかないお気持ち、よく分かります。
ただ、お聞きしたかぎりの状況では、残念ながらAさんは不利な立場にあるようです。
仮に、入社前の約束を文書に残してあったとしても、「会社の存続のための方向性の転換」といった正当な理由がある場合、入社時の契約内容から変更されても法律違反などとは見なされません。
新しい上司の方と話し合いをして、ご自身の仕事やキャリアに対する思いやこだわりをしっかり伝えることで納得してもらえればいいのですが……上司も上司なりの役割や責任において仕事の割り当てを行っていると考えられます。
「Aさんにこの業務を担ってもらいたい」という目的や理由があるはずですので、まずはしっかり耳を傾けてみましょう。
詳しい話を聞いて納得できれば、自身の幅を広げるチャンスと捉えてチャレンジしてみてはいかがでしょうか。しかし、どうしても受け入れられないのであれば、転職を検討したほうがいいでしょう。
リファラル採用では「口約束」にとどまりがち
さて、Aさんのような状況に陥ってしまう方は決して少なくありません。
スタートアップとなると、短期間で戦略をガラリと転換し事業モデルをピボットすることもありますし、成長フェーズが急速に発展することもあります(逆に業績が急速に悪化することも、もちろんあります)。
入社時の状況とは大きく変化し、「当初の話と違う」となるケースは多いのです。
これから転職を考えるみなさんが同じ落とし穴にはまらないようにするために、どのような対策をすればよいかをお話しします。
昨今、労働人口減少に伴い、企業は採用に苦戦しています。そこで、さまざまな採用手法を駆使しており、その一つとして「リファラル採用」の制度を導入する企業が増えています。
リファラル採用とは、その会社の社員が自身の友人・知人に声をかけ、自社への応募を促すというもの。採用コストがかからないことからも、スタートアップの多くはリファラル採用を取り入れています。一昔前でいうところの「コネ入社」ですね。
友人・知人を通じて「リファラル入社」をする場合、労働条件について口約束となるケースが多いと言えます。
本来、企業には、応募者に内定を出すと同時に「労働条件通知書」を発行し、業務内容や労働条件を文書で明示することが義務付けられています。
しかし、そもそもスタートアップでは「人事部」がまだ機能しておらず、人事の専門ノウハウもないことから、このような文書が交わされないケースも多いのです。
発行された場合も、外資系企業などの「ジョブディスクリプション(職務記述書)」のように役割範囲が細かく明記されるわけではなく、業務内容については配属部署名程度の記載にとどまっていたりします。
「業務内容を詳細に記した労働条件通知書を発行してほしい」と要望を伝える手もありますが、もし「面倒くさい人だな」と思われてしまうと入社後の人間関係がぎくしゃくしてしまう可能性もあり、言い出しづらいでしょう。
入社時点で「社長」と話し合っておく
では、どのように対策すればいいのでしょうか。
先ほど、スタートアップは「変化が激しい」とお伝えしましたが、その中でも変わらないのが「社長」です。
自分を誘ってくれた上司の場合、異動や退職などでいなくなってしまう可能性がありますが、オーナー社長であればM&Aなどで会社を売却しないかぎり、いなくなることはまずありません。
ですから入社の段階で「社長と握っておく」ことをお勧めします。
スタートアップの採用であれば、最終面接には社長が出てくるため、近い距離で話すことができます。その際に、自身の仕事へのこだわり、入社後に担いたい役割、発揮したい価値を、しっかりと伝えておきましょう。
そうすれば、入社後に直属の上司が変わったとしても、社長から新しい上司へ「この人にはこの仕事をお願いしているから」と伝えてもらえると期待できます。
とはいえ、過度の期待は禁物です。
このステージの会社であれば、短期間で経営戦略が変わっていくのは当然のこと。株主が変わって経営方針が変わるケースも多々あります。
それに伴い、活躍できる人材のスキルセットも変わっていくため、自身の経験・スキルが活かせなくなること、得意分野以外の仕事も担っていく必要が生じることは、覚悟したうえで入社すべきと言えるでしょう。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。