不動産投資家でデベロッパーのリッキー・ベリボー氏は、FHAローンとハウスハックを利用して起業した。
Courtesy of Ricky Beliveau
2010年、大学4年生だったリッキー・ベリボー(Ricky Beliveau)氏は複数世帯向け不動産の投資方法についての論文を執筆した。
「研究の総仕上げとして実際の事例が必要だったのですが、当時住んでいた場所のすぐ近くで売りに出ていた物件を選びました」とベリボー氏はInsiderに語る。
「試算を行い、財務データをまとめ、また教授とも共同作業した結果、『すごい、これは大儲けできるかもしれないぞ』と思ったんです」
ノースイースタン大学に在籍していたベリボー氏が住んでいたボストンでは、その時がたまたま、複数世帯向け住宅を購入するのに良い時期だった。
「2009年、ボストンでは複数世帯向け住宅の価格は横ばいかわずかに下落していたのに、家賃は上昇し続けていました」とベリボー氏は言う。
「しかし不況だったにもかかわらず、多くの人は依然として大学に進学し、そしてさらに多くの人が学校に戻っていたため、ボストンには人口が流入していたのです」
ベリボー氏はこれを、自分のような新米投資家にとってのチャンスだと考えた。彼によると、経験豊富な投資家の多くは「2008年に打ちのめされるような痛い目に遭い、傍観者になっていた」という。
「でも私には失うものがまったく何もなかったので、この投資機会を検討することにしたんです」
卒業から半年後、ベリボー氏は自身の研究を青写真として、複数世帯向け住宅を実際に購入した。
FHAローン(連邦住宅局の債務保証がついているローン)と母親からの資金(当時相続したばかりの大金を投資しようとしていた)のおかげで、ベリボー氏は2010年12月にボストンに3世帯住宅を買うことができた。
当時金融業界でフルタイムで働いていたベリボー氏は、当時のガールフレンド(現在の妻)と3戸のうちの1つに引っ越し、残りの2戸を賃貸に出した。家賃収入で住宅ローンをカバーできたとベリボー氏は言う。つまり、入居者に住宅ローンを返済してもらいながら、実質無料で居住していたことになる。
またベリボー氏は、各住戸を段階的に改装することで、物件の価値を高めていった。
まずは自分たちが住んでいた住戸から改装を始めた。改装が完了すると、最上階の入居者と住戸を交換することを申し出た。改装されたスペースに賃料が変わらないまま住めるので、入居者は喜んで引っ越した。その後、ベリボー氏は最上階の住戸も改修し、最下階の住戸でも同じプロセスを繰り返した。
3戸を改装した結果、物件はそれまでの寝室9個、バスルーム3個から、寝室12個、バスルーム6個へと様変わりした。
1棟目の3世帯住宅を購入してから1年後、ベリボー氏は2棟目の複数世帯向け住宅を購入。以降もポートフォリオを拡大し続けている。2015年には本業を辞め、不動産投資に全力を注ぐことにした。現在36歳の彼は、ヴォルネイ・キャピタル(Volnay Capital)やEVOリアル・エステート・グループ(EVO Real Estate Group)など、いくつかの不動産関連会社を経営している。
Insiderが確認した保有資産に関する資料によると、ベリボー氏が個人的に所有する物件に加え、ヴォルネイ・キャピタルのポートフォリオ、そしてビジネスパートナーらと共同所有する物件を合わせると、ベリボー氏が現在所有する住戸の数は1000戸以上にのぼる。
最初の購入費を賄う「ハウスハック」戦略
ベリボー氏が自宅に実質無料で住むためにとった手段は「ハウスハック」と呼ばれる。実際のところ、成功した不動産投資家の多くがこの方法でスタートを切っている。
ハウスハックでは、自宅の一部を賃貸に出し、その家賃収入で住居費の一部(または全額)を賄う。
このハウスハックの費用対効果が高いのは主に2つの理由からだ。1つは、実際にその物件に住んでいるので、FHAローンの対象となる可能性があること。FHAローンは政府支援の住宅ローンで、わずか3.5%の頭金で住宅を購入できる。
現在のベリボー氏は不動産投資家兼デベロッパーとして、ボストンを拠点に活動している。
Courtesy of Ricky Beliveau
このローンを使えば、初期費用を大幅に抑えることができる。特にベリボー氏がポートフォリオを拡大したボストンのような高価な住宅市場に住む場合はなおさらだ。30万ドル(約4500万円、1ドル=150円換算)の住宅を購入する場合、3.5%の頭金と20%の頭金では、1万500ドル(約157万5000円)と6万ドル(約900万円)という大きな差が生まれることになる。
ハウスハックには、住居費を削減する効果もある。あるいはベリボー氏の場合のように、完全に消し去ることも可能だ。ポートフォリオを拡大させたいなら、ハウスハック戦略をとることで次の物件を買うための頭金を早く貯めることができる。
2世帯用住宅や3世帯用住宅のような多世帯向け住宅を購入して自分の住戸に住めば、一定のプライバシーを確保できるためハウスハックには理想的だが、もし購入する余裕がない場合(あるいは住んでいる地域に該当する物件がない場合)には、他の選択肢もある。
不動産投資家のトッド・ボールドウィン(Todd Baldwin)氏が初めの頃にとった方法を紹介しよう。
今や億万長者であるボールドウィン氏は23歳のときに最初の住宅を購入した。ワシントン州シアトル郊外の一戸建て住宅で、寝室6個、バスルーム4個を備えており、価格は50万6000ドル(約7590万円)だった。頭金はその3.5%、つまり約1万9000ドル(約285万円)を前払いしたという。
ボールドウィン氏と当時のガールフレンド(現在の妻)は、主寝室に入居し、一番小さな部屋はオフィスとして残し、他の4つの部屋を賃貸に出した。月々の住宅ローンの支払いは家賃収入で十二分にカバーできた。つまり、居住者として家賃を払う立場から、住居費ゼロで暮らしつつ、利益が転がり込んでくる立場になれたというわけだ。
このような形のハウスハックを実践するには、相性の良いルームメイトを見つけ、居住スペースを大幅に縮小する必要があるが、住居費を節約し、最終的に一軒目の購入費をまかなうには効果的な方法だ。
ベリボー氏がハウスハックで特に気に入っているのは、通常は住宅ローンという費用がかかる自宅を、正味の資産に変えられる点だ。
「不動産を所有することは富を築く上で非常に重要ですが、問題は、自分の家というものは改めて見ると本当の意味での資産ではないということです」とベリボー氏は語る。
「自分の家はお金を生み出しているわけではありません。あなたが住宅ローンを支払っているわけで、つまり出費に他ならないのです」
だが、自宅が賃貸物件を兼ねれば「資産になる」とベリボー氏は言う。
「自らお金を払うことなく、家賃収入で住宅ローンを返済するのです。たとえ自分の居住費がゼロでなくとも、たとえ自分の住戸のために月額500ドルを支払っていても、その住戸が本来は月額3000ドルもかかるものなら、価値を生み出していることに変わりはありません」