【新NISA、私ならこう使う#8】iDeCoファーストを前提に、新NISAは「つみたて一択」で老後出費に備える

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ファイナンシャルプランナー・山崎俊輔氏。本記事はご本人へのインタビューを元に聞き書きされている。

Syunsuke Yamasaki

  • 新NISAよりもiDeCoへの投資を優先する、ファイナンシャルプランナー・山崎俊輔さんは、常に「iDeCoファースト」だ。
  • そのため、新NISAの使い方はシンプル。つみたて投資枠一択で、極力「ほったらかし」が基本だという。
  • 投資先の選び方も「どれが伸びるか分からない」と割り切り、インデックスファンドに絞るそうだ。

iDeCoファースト、それが私の資産形成の基本です。

これは書籍や講演でもいつも伝えていることですが、私個人の資産形成においても変わりません。その理由は、少額から積立で運用できるし、全額所得控除となるため節税方法としても優秀だからです。

NISAは、それを踏まえたうえでの、さらなる選択肢と捉えています。ちなみに、制度が始まった翌年から、つみたてNISAをずっと続けていますが、ほぼほったらかし。こうしたスタンスは、新NISAでも同様です。

資産形成を説く立場にいながら、消極的なスタンスに思われるかもしれません。それは、資産形成の負担をあまり重くしたくないと考えているからです。目の前の生活の楽しみや家族との時間をなによりも大事にしたいと考えているからです。

確定拠出年金のスペシャリストとして

さて、私の新NISAの使い方という本題に入る前に、私のキャリアについて共有しておきましょう。

私は老後資産形成についてのアドバイスを中心とするファイナンシャルプランナー、あるいは「お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー」というポジションで活動しています。キャリアの振り出しは、企業年金研究所という退職金や企業年金のシンクタンクでした。

専門は、確定拠出年金を中心とした企業年金制度と投資教育。現在は個別のFP相談は行っておらず、執筆と講演を中心に活動しています。毎日原稿の締め切りに追われていたり、年に数冊本を書いたり、年間40回くらいのペースで講演を行ったりしています。

いまの仕事に対しては、労働時間も仕事の内容もコントロールできているし、アウトプットも世の役に立っていると感じています。つまりは十分にやりがいを感じているので、基本的に今の仕事を長く続けていきたい。だから、アリーリタイアなどは考えていません。

それを踏まえて、私が現状で考えている新NISAの使い方について、述べてみたいと思います。

いざというときのために新NISA

私たち夫婦は共働きで、2人とも厚生年金に加入しています。そのため新NISAは、「リタイア後の生活資金の不足分を補う資産形成手段」の一つだと捉えています。

つまり、日常の生活費として「徐々に切り崩して使う」ような形ではなく、「まとまった出費への対策」です。例えば、困ったときに老人ホームに入ろうとすれば、一時金や敷金で1000万円単位の出費が掛かります。また、突然要介護状態になれば、やはり介護費用や生活資金でまとまった出費が生じます。そのための備えです。

バッファーとしてのお金があれば経済的余裕が生まれ、未来の不安が軽減されます。不安の軽減は、すなわち幸福度の向上につながる。お金を貯めることは、現在と未来の幸せ作りにつながるのです。

老後2000万円問題の本質

「老後30年間で約2000万円が不足する」という“老後2000万円問題”が、ひところ話題になりました。ですが、金融庁の資料をよく読み解くと、不足するのは「教育娯楽費」や「交際費」の部分です。日常生活費はおおむね公的年金でまかなえています。

平均寿命が長くなったことで、セカンドライフ期間も長くなりました。公的年金だけでも最低限の生活はできますが、旅行に行ったり孫と遊んだり、美術館に出かけて食事をしたり、ちょっとした豊かさであってもお金がかかります。「自分らしくセカンドライフを過ごすための資金が足りない」というのが、老後2000万円問題の本質です。

「住宅ローンは完済して、子どもも独立して学費負担もなくなったけれど、自分の老後の生活に充てる予算がない」という悩みを持つ方は少なくありません。私にとって新NISAの役割は、まさにその不安を軽減するものだといえるでしょう。

「iDeCoファースト」の理由

老後資産形成にもいくつか方法があります。書籍や講演でもいつも伝えている「iDeCoファースト」という投資スタンスは、個人としても同じ。iDeCoはリーマンショック前から月額2.3万円の積立を続けていて、私の資産形成の中でも一番存在感があります。

iDeCoファーストを掲げる理由は、投資額の上限が、会社員であれば1.2万〜2.3万円と少額であり「ここをまず満額まで頑張る」というイメージが持ちやすいです。しかも全額所得控除になりますから、老後のために投資をしておくと所得税や住民税が節約されることになります。

特にサラリーマンが税金を減らす方法は、ほかに住宅ローン減税くらいしかありません。そのため、まずiDeCoの投資枠を満額使い切るのが最優先だと思っています。

それを踏まえて、さらなる運用の選択肢として新NISAがあります。

私の場合、個人オフィスの経営者になるので、iDeCoとNISAに加えて、小規模企業共済を老後資産形成に活用しています。こちらも所得控除が得られるので、利用できる人は合わせて活用してみてください。

旧NISAと同じようなペースで

新NISAを使い勝手の面から見ると、一番心配なのは1800万円という非課税投資枠を持て余してしまう点です。つみたて投資枠だけでも年間120万円、成長投資枠が年間360万円。この枠を使い切るくらい投資を続けるのは、普通の会社員にとってはなかなか難しいでしょう。それは、私にとっても同じです。

ですから、60歳くらいまでにつみたて投資枠・成長投資枠の合計1800万円分が貯まればいい。そのくらいの気持ちでいます。

私は制度が始まった翌年から、つみたてNISAをずっと続けています。個人オフィスは資金繰りがどうしても不安定になりがちですので、NISAへの投資資金はいざとなったら崩してもいい枠と捉えています。ご存知の通り、iDeCoは60歳になるまでは受け取れません。なので、そのように使い分けているのです。

新NISAにおける投資ペースは、現状のつみたてNISAの投資枠になっている年間40万円くらい。引き続き、月額で約3.3万円を目安に積立投資していこうと思っています。

「分からない」と認めることが大事

次に、どこに投資するかという問題も出てきます。私にとって、その判断の根本にあるのは、「どの投資対象、どの投資信託が一番伸びるかは、私には分からない」と素直に認めることです。多数ある選択肢の中から最善の投資先を考え抜くよりは、分からないと認めてしまったほうが、投資は楽になると考えているのです。

理論上は、一番伸びる投資対象を見極め、そこに投資をする投資信託に全額投資すれば一番儲かることになります。でも、そんなことは普通の人には不可能です。なので、予想が外れても続けられるようにすることが、個人の資産形成では重要だと考えています。

市場の平均、複数の投資対象を組み合わせた全体では、長期的にはプラスになっていきますので、「大当たりを毎年当てる」のではなく「大外れを堅実に回避し、平均点は確実に確保していく」ためにインデックス運用が中心となっています。

私自身はアクティブファンドは基本的に選びません。今がピークなのか、この先さらに成長するのか、他にもっといいアクティブファンドがないかなど、私自身がいくつも判断しなければならないからです。そのリソースは家族との時間や趣味のアニメやマンガを読む時間に使いたい。だから、インデックスファンドで十分と考えています。

ほったらかしで、無理せずに

つみたてNISAを始めてからは、ほぼほったらかし状態。購入しているのも基本的に6つのグローバルファンドで、それぞれ毎月5000円ずつ入れています。こまめにチェックすることなく、基本は入れ替えもしません。

ただ、今回の企画をきっかけに改めて見直してみて、「この投信はもうやめどきかな」というのも若干混ざっていました。それを、最近、新しく登場したものと変えてもいいと思ったくらいです。それくらい、ほったらかしにしているのです。iDeCoも同様に、運用の見直しをしたのは10年以上の積立で一度だけです(低コストの投資信託が追加設定されたので、全額乗り換えた)。

新NISAでも、つみたて投資枠だけを使い、成長投資枠は無理に使う必要はないと捉えています。小学生の子どもが2人いて、これからますます教育費の負担が高まるので、そちらがまず優先ですから。自分の将来のためにつぎ込む予算は、新NISAが始まってからも増やすことなく、現状のままに抑えておきます。

子どもの教育費を含めてNISAで資産形成するという判断もありえます。ここは判断が難しいところですが、わが家の場合、高校進学前に利益確定を意識すると投資期間が短すぎるので、教育資金を無理にNISAで作ることは考えていません。

目の前の生活も楽しもう

老後の生活を考えるうえで資産だけ貯めておけばいいわけではない、というお話も普段からしています。その点も個人のスタンスとシンクロしています。目の前の生活の楽しみと、将来の資産形成とのバランスをどのように意識するかが大事なのです。

iDeCoファーストを踏まえたうえで、さまざまな資産形成方法もトータルで考えたときに、運用の選択肢として第一に上がってくるのが新NISAなのは間違いありません。運用益非課税という税制優遇は、iDeCoの所得控除に次ぐメリットですし、新NISAになってこれまでのNISAにあった非課税期間という制限も考えずにすむようになりました。

メガバンクや地方銀行にもつみたて投資枠用の低コスト投信がラインアップされるようになっています。つまり、金融機関選びで著しい不利益が出ることは少なくなっているのです。つみたて投資枠だけを利用するつもりなら、ネット証券でもメガバンクでもいいでしょう。

新NISAの金融機関を選ぶ基準があるとすれば「成長投資枠で株式を購入するかどうか」の1点だけ。私のようにつみたて投資枠だけの運用を考えているなら、いま使いやすい金融機関を選べばいいと思います。一方、成長投資枠を利用し、個別株投資も視野に入れているのであれば、売買手数料無料の取り組みを進めている証券会社を選ぶといいでしょう。

山崎俊輔:1972年生まれ。フィナンシャル・ウィズダム代表。ファイナンシャルプランナー、消費生活アドバイザー。確定拠出年金を中心とした企業年金制度と投資教育が専門。2017年2月からは、厚生労働省の確定拠出年金の運用に関する 専門委員会で委員を務め、DC法改正の議論にも参画している。ファイナンシャルプランナーとしては分かりやすく読みやすいお金のコラムが人気で、Yahoo!ニュース、日本経済新聞電子版、東洋経済オンライン、プレジデントオンラインなど、連載12本を 抱える人気FPのひとり。近著に『共働き夫婦 お金の教科書』(プレジデント社)、『スマホ1台で1000万円得する!マネーアプリ超活用術』(PHP出版社) などがある。 近著に『大人になったら知っておきたいマネーハック大全』(フォレスト出版)などがある。



※本記事は取材対象者の知識と経験に基づいて投資の選定ポイントをまとめたものですが、事例として取り上げたいかなる金融商品の売買をも勧めるものではありません。本記事に記載した情報や意見によって読者に発生した損害や損失については、筆者、発行媒体は一切責任を負いません。投資における最終決定はご自身の判断で行ってください。

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