撮影:三ツ村崇志
「完全栄養食(のパン)は、小麦粉で作られるパンほど完成度が高くはありません。風味、食感、あるいは工場で生産するときの扱いやすさなどがまだまだ発展途上です」(ベースフード・橋本代表)
完全栄養食をうたうパンやパスタなどを開発するベースフードの橋本舜代表は、決算会見でこう語った。
ベースフードでは、完全栄養食の「不完全さ」を伸びしろと捉え、R&Dを積み重ねて開発した「より美味しい(完全栄養食の)パン」を起点に新商品を展開し、高い売り上げ成長を続けている。
画像:ベースフード2024年2月期第2四半期決算資料
10月13日、ベースフードは2024年2月期(2023年3月〜2024年2月)の上半期決算を発表。累計売上高は前年同期比で約8割増の81億1000万円。営業損益は1億2600万円の赤字(前年同期は3億7800万円の赤字)と、売上高・営業損益ともに大きく向上している。第2四半期単独で見ると営業利益は2.5億円の黒字だ。
好調の決算に伴い、通期の業績予想も上方修正。売上高は当初の160億円から171億円に、営業損失も8億円から4億2700万円に改められた。
この7月を境に上場後下落していた株価も上昇に転じるなど、好調のベースフードの理由を紐解いていこう。
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定期購入、店舗販売ともに新商品効果で拡大
ベースフードの四半期別売上高。高成長を続けている。
画像:ベースフード2024年2月期第2四半期決算資料
橋本舜代表は好調の要因について
「新商品のリリースや商品改善、また原材料高騰などを踏まえた商品値上げの効果が出る期でもありました。また、広告宣伝費を抑えたというのと、以前から進めていた 売り上げ成長の効率性の改善で今四半期の営業利益はプラスの2.5億円と黒字で着地いたしました」
と、着実に進めてきた戦略が功を奏した結果だと話す。
ベースフードは、自社ECサイトでの会員向けの月額サブスクリプションでの販売を中心に、近年はコンビニやドラッグストアといった小売店での販売を拡大してきた。
2024年2月期の第1四半期には、サブスクリプション会員数が16.1万人から20.1万人と想定以上に増加。第2四半期にはその分広告宣伝費をある程度調整したことで、サブスクリプション会員数こそ20.4万人と微増にとどまったものの、自社EC単独での四半期別売上高は第1四半期の22.4億円から25.9億円と着実に増加している。
5月の値上げに伴い7.9%まで上昇した解約率は、第2四半期では7.7%と微減。この間、新商品を投入するなどして購入数を増やす戦略が功を奏し、月間の平均購買単価が前四半期の約5000円から約5200円に上昇した。
セクション別の売り上げ。第2四半期単独で見ると、黒字に転じている。
画像:ベースフード2024年2月期第2四半期決算資料
コンビニチェーンやドラッグストア、スーパーなどへの展開も加速している。8月末段階で、商品の展開店舗数が4万9252店舗にまで拡大(前年同期は1万7878店舗)。リテールチャネルの四半期別の売上高は第1四半期の11.9億円から第2四半期は14億円まで成長した。
小売店1店舗当たりの月間売上高も、展開商品数の拡大や新商品の投入によって第1四半期の8800円から9500円に上昇。シリーズの累計販売数はこの9月に1億5000万袋を突破した。
今後、すでに配荷率が81%と高水準にあるコンビニでの伸びしろは限定的であるものの、
「(コンビニで)これだけの配荷率があるということは、やはり求められている商品なのだと考えています。ドラッグストアやスーパーでも引き合いをいただいておりますので、そちらの導入も進めていけると考えています」(橋本代表)
と、コンビニ以外の小売店での展開拡大を進めていく考えを示した。
また、2022年より続いていた「燃料費の高騰などによる売上総利益率(の圧迫)が底を打った」(橋本代表)ことに加えて、並行して進めてきた利益率の改善も実を結び始めた結果、第2四半期単独では営業利益が2.5億の黒字の着地となった。
2025年2月期の黒字化「確度高まった」
この7月に新発売したベースブレッド「リッチ」。
撮影:三ツ村崇志
今回、単四半期で営業利益率が約5.8%と営業黒字になったとはいえ、橋本代表は「この5.8%の黒字化を(現段階で)ずっと続けるというつもりではない」と話す。橋本代表は今後の戦略として
「より重要なのは、高い売り上げ成長率を上げていくことです。
コストの投下の仕方はより効率的になればいいと思いますし、売り上げ成長率を下げさえすれば、一旦キャッシュが入ってくるという意味では、会社側のリスクもそんなに大きくはないと思います」(橋本代表)
とあくまでも、事業を成長フェーズととらえ、まずは売上成長率を高めていく考えだ。ただそれでも、利益率の改善が大きく進んだことで、2025年2月期に目標としていた通期での黒字化について「確度は高まったのではないか」(橋本代表)という。
売上成長の大きなエンジンとなったのは、ベースフードでの売り上げの9割以上を占める「パン」を中心とした新商品やリニューアル商品の市場投入だ。
5月と7月には、ベースブレッドの「ミニ食パン・レーズン」とベースブレッド「リッチ」が新発売。9月には従来商品のベースブレッド「カレー」がリニューアル発売された。
冒頭に書いたように「小麦粉で作られるパンほど完成度が高くない」未完成のパンだからこそ、R&Dの積み重ねによって美味しく、扱いやすくしていくことで、ほかのフレーバーへの大きな相乗効果を生みながら急成長してけると語る。
ベースフードの橋本舜代表(撮影:2022年11月)
撮影:竹下郁子
ベースフードでは、この成長戦略を実現するために、上場前後にR&D人材を多数獲得。現在、正社員の40%以上がR&D人材だ。今回の決算の好調は、こういった事前の「仕込み」が花開きつつある結果だと言える。
ベースフードでは、秋から冬にかけてさらに4〜5種類の新商品の発売を予定している。今後もさまざまなバリエーションの商品を投入することで、毎年60%成長を続けていきたいとしている。
また、海外展開についても、香港では半期で10万袋の販売を実現するなど好調を維持。この5月には中国での販売を開始し、第3四半期以降にはコロナ前に一度撤退した米国での販売も再開する計画だ。
「我々が工場の稼働率を上げていける」
ベースフードは、自社工場を持たずにOEMで製造を委託している。高成長を続ける中で、今後の生産キャパシティに不安はないのか。Business Insider Japanの質問に対しては、
「主食離れが進み、パンの消費量が落ちている中※で(ベースフードが)そこを埋めていくことで業界に貢献できると考えています。(既存のパン)工場の稼働率を我々の存在によって維持できる、なんなら上げていける存在として業界から温かく迎えていただいていると感じています」
※編注:矢野経済研究所の市場調査によると、コロナ禍で微減となったパンの消費量は2021年度以降プラスに転じている。
と回答している。
自社工場についても、現時点で言及できることはないとしながらも、研究施設という形で自社工場を作り、そこで開発した生産技術などをOEM先に展開するといった協力の形もあり得るのではないかと語った。
なお、ベースフードといえば2022年11月に東証グロース市場へと上場した直後から株価が下落。2023年1月には年初来安値である318円にまで落ち込んでいた。ただその後、2023年春に400円台に回復すると、7月を境に一気に株価は上昇傾向に転じた。一時は公募価格だった800円を超えるまで回復していた。
ベースフードに株価上昇に対する受け止めと、その要因について質問すると、次のような回答があった。
「1Q以降、好調な実績を出すことができており、その結果が徐々に数字として反映されていると思います。3Q以降においても引き続き良い業績を出し続け、企業価値を向上させるべく日々邁進して参ります」(ベースフード・IR担当)
※編集部より:株価上昇に対する受け止めとその要因について、ベースフードから回答があったため追記しました。2023年10月16日 16時55分