売上3兆円間近、アドビが非クリエイターの能力を激変させる理由

Shantanu Narayen

Adobe MAX 2023に登壇したアドビ会長兼CEOのShantanu Narayen(シャンタヌ・ナラヤン)氏。

撮影:小林優多郎

PhotoshopやIllustratorなどを展開するアドビは、売上絶好調で通期予想は192億ドルの売上予想を公表している。

そんなアドビは10月10日から12日まで開催した「Adobe MAX 2023」の基調講演で、さまざまなAI新機能を発表。会場の話題はほとんど「生成AI」一色だったと言っていい。

「AIを使った仕事」は先進的な企業の従業員や一部のフリーランスだけではなく、一般の社員でも当たり前になる未来は、すぐそこまで来ている。

クリエイティブ製品の詳細な新機能については既報の通り。本稿ではそれらを下支えしている新しい「Adobe Firefly Model」と、単なる「AI=新しい便利な道具」に留まらないアドビのビジネス戦略について解説する。

MAX 2023で「生成AIが活躍できる場面」が増えた

Adobeの新しいFireflyモデル

アドビは新しいFireflyモデルを3つ発表した。

撮影:小林優多郎

アドビは3月に独自の画像生成AI「Adobe Firefly」を発表した。今回のAdobe MAX 2023では、さらに改良と細分化した新しい3つの生成AIモデルを発表している。

まず、新しいモデルは画像生成AIモデルである「Firefly Image 2 Model」。これは従来から「Firefly」と呼んでいたモデルの改良版だ(なお、今回のMAX以降でFireflyは画像に限らず生成AIサービスや技術の総称になっている)。

3月からFirefly Image 2 Modelの発表に至るまで、Photoshopに搭載される「生成塗りつぶし」などの機能を通して、30億枚もの画像が生成されている。

Fireflyが生成した画像の数

Fireflyがローンチされてから生成した画像の数は10月には約30億になる。

撮影:小林優多郎

今回のAdobe MAXの発表では、Fireflyで「できること」が2つ増えた。ベクター画像専用の「Firefly Vector Model」とデザインテンプレート専用の「Firefly Design Model」だ。

これはFireflyが活躍できる領域が増えたことを意味する。今回のAdobe MAXに合わせて発表された機能に照らすと、Illustratorの「テキストからベクターを生成」機能、Webベースの初心者向けクリエイティブツールの「Adobe Express」の「テキストからテンプレートを生成」機能にそれぞれ使われている。

テキストからテンプレートを生成

Adobe Expressで「テキストからテンプレートを生成」機能を使って「猫のエマの誕生パーティーの招待状」のデザインテンプレートを生成している場面。

撮影:小林優多郎

個人的に着目したのは、いずれの機能も基調講演直後からCreative Cloudの契約があれば誰でも使えて、かつ「商用利用が可能」になっている点だ。アドビの生成AI機能は登場当初は商用利用ができなかったが、9月14日(日本時間)から商用利用も可能になっており、今回の新機能群も同様の扱いとなる。

デジタルメディア担当CTOのイーライ・グリーンフィールド(Ely Greenfield)氏は報道関係者向けのグループインタビューで「正直今は休みたい」と冗談めかしながら、一連のFireflyの素早い展開についてアピール。

今後の展開

今後「音声」「動画」「3D」の生成AIモデルが予告されている。

撮影:小林優多郎

グリーンフィールド氏は今後も継続して生成AIに関する投資を続けていく意向を示し、Adobe Fireflyを「ビデオ、3D、音声。どんなコンテンツも生成できる基盤的なモデルにしたい」と語った。

生成AIがクリエイターとマーケターをつなぐ

コンテンツサプライチェーン

アドビはクリエイターが作った成果物を管理、配信、分析するコンテンツサプライチェーンの構築に取り組んでいる。

撮影:小林優多郎

生成AI技術を向上させてCreative Cloudユーザーであるクリエイターの生産性を上げ、それによって自社のビジネスも拡大していくことは、アドビのWin-Win的な戦略の柱になっている。

他にはない生成AI機能を持つ製品を出し続けることは、ユーザーにとっても「アドビを選び続ける」大きな理由になる。サブスクリプション形式のCreative Cloudにとって重要な観点だ。

一方で、基調講演ではアドビが狙うもう1つの大きな目的に触れられていた。

そのターゲットになっているのは、個人のクリエイターではなく、クリエイティブをビジネスで展開する大企業への取り組みだ。

Adobe GenStudio

アドビの持つ複数のジャンルの製品を集めた「Adobe GenStudio」。

撮影:小林優多郎

そのために、アドビはマーケティングツール群である「Adobe Experience Cloud」とCreative Cloudの連携を進めている。

そして、そのExperience CloudとCreative Cloud、そしてAdobe Expressをまとめたソリューションが、MAX 2023に合わせて日本向けに発表された「Adobe GenStudio」になる(アメリカ向けには9月に発表済み)。

GenStudioの最大の特徴は、アドビが「Content Supply Chain(コンテンツサプライチェーン)」と呼ぶクリエイティブを制作・配信し、分析する流れが、デザイナー、マーケター双方でスムーズにできることだ。

マーケティング担当の業務フローがAI生成で変わる

登場人物

クリエイターだけでなく、実際のプロジェクトに参加するさまざまな役割の人間がツールを使う。

撮影:小林優多郎

例えば、自社の商品の購買促進戦略をWebで実施したいとする。

デザイナーは使い慣れたPhotoshopやIllustratorなどで従来通りバナー画像などを作成する。直しの具体的な指示などもツール上に表示されるため、デザイナーは作業に集中できる。

一方、マーケターはデザイナーがExperience Cloudにアップした画像を確認して問題がなければそのまま配信。多少手直しを加えたい場合でも、Adobe Express等を使って修正を加えられる。

Photoshop

例えば、デザイナーはPhotoshopの画面で、会社やチームで蓄積している素材やタスクの確認などができる。

撮影:小林優多郎

従来であれば、例えば画像の色を1つ直すだけでもデザイナーに作業を依頼する場合もあった。しかし、Adobe Expressのような、専門的な知識がなくても使えるツールがあれば、デザイナーの手を煩わせることが少なくなる。

また、生成AI機能もデザイナーとのコミュニケーションに役立つ。マーケターが言語化の難しいイメージをデザイナーに伝えるのに生成AIを使ったり、デザイナーも「複数の色のパターンを出してほしい」などの要望に瞬時に答えられる。

Adobe Express

Adobe ExpressでFireflyで生成した山の写真に、商品の素材を合成してキャンペーンバナーを作ろうとしているところ。

撮影:小林優多郎

特に生成AIについては、個人向けと同様に、商用利用が可能。また、Experience Cloudに貯まったその企業のロゴや色パターン、過去のクリエイティブなどを学習させて、自社だけのカスタムモデルをつくことも可能になっている。

Amit Ahuja

Adobe Experience Cloud プラットフォーム兼製品担当シニアバイスプレジデントのAmit Ahuja(アミット・アフジャ)氏。

撮影:小林優多郎

Adobe Experience Cloud プラットフォーム兼製品担当シニアバイスプレジデントのAmit Ahuja(アミット・アフジャ)氏はFireflyで出力されるものの安全性について「非常に重要で、多くの資金を費やしてきた部分」だと語る。

また、アドビはFireflyのエンタープライズ版のライセンスを契約している企業に対しては、AIが生成したもので何らかのトラブルが発生した場合、一定の補償をすることを明言している。

補償の内容は、Fireflyによるアウトプットが第三者の知的財産権等(著作権など)を直接侵害している場合、権利者に対してユーザーが支払うべき損害賠償金を代わりにアドビが負担する、というものだ。

なお、この補償プログラムは、エンタープライズ版の内容になるため、個人向けの契約では補償の対象にはならない点は留意する必要がある。

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