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アメリカの金融業界では第3四半期の決算シーズンが始まり、JPモルガン(JPMorgan)とシティグループ(Citigroup)は従業員数が増加していると発表した。しかし、騙されてはいけない。好景気が戻ってきたわけではないのだ。
JPモルガンは第3四半期決算発表で、従業員数は前年同期比7%増の30万8669人になったと発表した。シティは前年同期比1%増の24万人と発表した。
しかし、第3四半期のこの採用ラッシュは、フロントオフィスの技術系職種がその一因となっているようだ。
例えばJPモルガンは、商業銀行部門の経費が15%急増したのは「フロントオフィスとテクノロジー投資などに関する人員増」によるものだと述べている。また、シティのマーク・メイソンCFO(最高財務責任者)は、同社のテクノロジー投資はプロセスの自動化に寄与し、長期的には人員削減につながると述べている。
「テクノロジーへの投資、当社が導入している自動化……これらすべてが人員削減にもつながるだろう」(メイソン)
投資銀行でのレイオフは継続中
他の銀行、特に投資銀行に関しては、雇用環境の見通しは依然として暗い。加えて、中東で起きている地政学的対立を見れば、ディールメーカー、ひいては投資銀行部門の採用が2024年に回復するかは不透明だ。
クレディ・スイス(Credit Suisse)は10月12日に公表した文書の中で、ニューヨーク労働省に対し、ニューヨーク市マディソン街11番地の米国本社付きの人員254人を年内に削減すると通知した。スイスのライバル企業、UBSに先ごろ買収されたクレディ・スイスは、本社の現在の従業員数を2000人以上としている。同社にコメントを求めたが回答はなかった。
シティのジェーン・フレイザーCEO。
Julian Restrepo/Citigroup via AP
シティ役員らは10月13日、大規模な組織再編の一環として先日発表されたレイオフを実施するため、同行の従業員数が減少する見通しを示した。解雇される人数は明らかではないが、ジェーン・フレイザーCEOは四半期決算発表で、人員削減は「業務の重複と複雑さ」の低減に寄与すると述べた。レイオフの実施は9月に始まり、2024年初頭まで続く。シティはコメントを控えた。
フィナンシャル・タイムズの報道によると、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)も早ければ10月中にも、毎年恒例の業績不振者の「間引き」を実施する。通常1〜5%の人員削減を行うこの恒例行事はパンデミックの間は休止していたが、2022年に再開、約500人の従業員が解雇された。
一方、ロイターの報道によると、バークレイズ(Barclays)は10月、年次評価の一環として、グローバル投資銀行部門の従業員を3%削減するレイオフを開始した。これにより、最大300人の従業員が影響を受けると予想される。
背景にM&A、IPOの低迷
銀行がこうしたレイオフを実施する背景には、M&A市場やIPO市場の低迷がある。JPモルガンは貸出金利と預金金利間の利ざやが改善したため、収益は21%増の406億9000万ドル(約6兆1000億円、1ドル=150円換算)で、全体としては増益となった。しかし、投資銀行部門の収益は6%減の16億ドル(約2400億円)だった。これは、金利高や株式市場の変動のなか、事態が好転するのを待って、企業が取引や株式売却を控えているためだ。JPモルガンはコメントを控えた。
JPモルガンとシティの経営幹部は10月13日、ディールメーキングが活発化する兆しがあると述べた。
JPモルガンは同日午前に行われた決算説明会で、バンキング・チームについて「前四半期よりも少し楽観的になっている」とし、グローバル投資銀行手数料ランキングで1位になったことを報告した。シティでは、投資銀行業務手数料は前年比18%減となったが、企業が債券や株式の売却拡大を検討するなか、引受手数料は改善していると発表した。
しかし、M&AやIPOは全体的に落ち込んでいると両社の幹部は警戒感をにじませる。また、これらが2024年には復活するという見通しに、緊迫したイスラエル・パレスチナ情勢が水を差している。
JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは10月13日朝の決算発表で次のように述べた。
「地政学的リスクは、われわれが対処しなければならない特別な問題だと考えている。地政学的リスクは通常、深刻な不況か、穏やかな不況か、世界の一部の不況か、市場の大幅な下落として顕在化する」
シティのフレイザーCEOはこう付け加えた。
「こうしたマクロの力学はすべて、明らかに顧客のセンチメントに影響を与えている。9月はいつもクライアントに会うのに忙しい月だが、各社CEOは概して2024年について、数カ月前より楽観的でなくなっているのが印象的だ」