ニューロンのイラスト。
KATERYNA KON/SCIENCE PHOTO LIBRARY
- 最新の「人体脳アトラス」に関する論文が発表された。
- 3000種類以上の脳細胞をマッピングしたこの地図によって、人間の脳が他の動物とどう違うのかといったことについて解明が進むと考えられている。
- また、アルツハイマー病やうつ病といった神経疾患に対するより良い治療法への道も開けるかもしれない。
脳細胞は、我々がこれまでに経験したあらゆる思考、感情、身体的行動の構成要素となっている。それでも脳は未だに謎の多い器官だ。だが今、このブラックボックスに関する新たな知見が得られたようだ。
2023年10月12日、研究者たちは「人体脳アトラス」作成の一環として、3000種類以上の脳細胞をマッピングしたと発表し、その成果を3つの科学雑誌に24本の論文として掲載した。
人体脳アトラスの作成によって、人間の脳が他の動物(最も近い種であるチンパンジーなどの霊長類も含む)とどのように違うのかを突き止めることができる。また、人間の脳が時間の経過とともにどのように変化するのか、ある人の脳が他の人の脳とどの程度似ているのか、なぜうつ病やアルツハイマー病などを発症する人がいるのかなどについて理解するのにも役立つだろうとワシントン・ポストが報じている。
「ヒトとして何がユニークなのか、個人として他の人と何が違うのか、脳がどのように発達するのかといったことを理解するには、この種の情報が必要だ」と、シアトルにあるアレン脳科学研究所の上級研究員で、この研究に参加したエド・レイン(Ed Lein)はアメリカ公共ラジオのNPRに語っている。
脳は1700億個の細胞で構成される
この研究は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けて「BRAINイニシアチブ(Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies Initiative)・細胞センサスネットワーク」の一環として2017年に開始された。
ワシントン・ポストが報じたところによると、スタンフォード大学の法学教授で、以前このプロジェクトを指導する評議会に参加していたヘンリー・グリーリー(Henry Greely)は、860億個のニューロンを含む1700億個の細胞で構成される脳について「これまでのところ、この宇宙で我々が知る限り最も複雑な物体」である可能性が非常に高いと語っている。
また、アレン研究所の神経科学者であるトリグヴェ・バッケン(Trygve Bakken)は、「人間の肺には、脳とは違って100種類ほどの細胞しかない」と語っている。
ニューヨーク・タイムズによると、研究に使われた脳細胞は死去したドナーや、脳手術を受けた患者から同意を得た上で採取され、遺伝子発現の違いによって分類された。
発表された一連の論文では、脳内で発見された免疫細胞の一種であるミクログリアや、絵の具が飛び散ったように見えることから「スプラッター・ニューロン」と呼ばれる奇妙でまだよく分かっていない細胞についても説明されている。
「人体脳アトラス」が病気治療への新たな道を開くかもしれない
人間の脳の細胞をマッピングすることで、アルツハイマー病や自閉症、うつ病などの神経疾患の治療法を見つけやすくなるかもしれないとNPRが報じている。
多くの脳疾患はDNAの微小な変異によるものだが、これらの変異が個々の脳細胞にどのような影響を与えるのかについては不明のままだ。
BRAINアトラスによって、病気の進行を示すと思われる変化に関して、一連の目印が作成される。
「この地図を使えば、病気によって何が起きているのか、どのような種類の細胞が影響を受けやすいのか、あるいは実際に受けているのかといったことについて理解できるようになるだろう」とレインはNPRに語った。
この研究は、今回すばらしい成果を上げたが、まだ始まったばかりだ。ワシントン・ポストによると、NIHは1300以上のプロジェクトに資金を提供しているという。
今後、研究者たちはさらに多くの種類の脳細胞を発見し、すでに発見された細胞に関してもその機能をより深く理解したいと考えている。また、異なる脳細胞がどのように連携して働いているのかについても、さらなる理解が進むことが期待されている。