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シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。読者の方にこちらの応募フォームからお寄せいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。
30歳県庁職員です。独身で、今まで異性との交際経験はありません。趣味は読書や旅行や映画鑑賞などですが、熱中して打ち込んでいる自信はありません。他者と会話をするのは主に仕事の時だけで、休日はほとんど買い物をするだけという孤独な毎日を過ごしています。
生意気かもしれませんが、昔から何事も意味について考えてしまう癖があり、特に生きる意味についてよく考え込んでしまいます。
学生の頃に佐藤さんの著作に出逢い、そこからできるだけ読書をするように努めてきたのですが、最近生活に余裕が出てきたのと、また30歳という節目を迎えたこともあり、生きる意味について再び考え込むようになってしまい、読書などの趣味にも力が入らなくなりました。
その分、できるだけ新しいことにチャレンジをしようと努めてはいます。一人で知らない居酒屋やBAR巡りをしたり、車を買ってドライブに出かけたり、マッチングアプリや結婚相談所に登録して新しい出会いを求めたりしています。また、昔から聖書に興味があったため、これから教会にも通い始めようかと考えています。
ただ、私自身の性格やこれまでの行いなどもあるので、恋人ができなくても、将来的に結婚ができなくても、友達ができなくても仕方がない、孤独のままでも仕方がないと考えています。
しかし、生きる意味について悩みながらこの先何十年も生きていくことには耐えられそうにありません。このような、生きる意味を考えてしまう私にアドバイスを頂けないでしょうか?
(可不可、30代前半、男性、地方公務員)
独身だっていい。価値観や視野を広く持とう
シマオ:可不可さん、お便りありがとうございます。何事も意味を考えてしまい、いま一つ積極的になれないご自分に嫌悪感を持たれているようですね。
佐藤さん:大前提として、いろいろなことの意味を考えるということはとても大切なことです。自己嫌悪に陥る必要なんてありません。
シマオ:おお!
佐藤さん:むしろ、どんなに楽しい人生を送っているとしても、何も意味を考えない人生なんて、それこそあまり意味がないような気がしませんか?
シマオ:た、たしかに。楽しければそれでいいっていう人もいそうですけど、可不可さんのように意味を考えてしまうことは決して悪いことじゃないわけですね?
佐藤さん:人間として生きている限り、意味を考えるのは当然のことだと思います。
ただ、大事なことは結婚した方がいいとか、シングルだとまずいとか、そういう単純な価値基準で考えない方がいいということです。一生独身を貫くのも一つの生き方だし、結婚して子どもを作るということも一つの選択です。
シマオ:そうですよね。シングルを選択している人もいますし、結婚して籍は入れなくてもパートナーとして同居している人もいますもんね。それこそ、同性でパートナーシップ宣誓制度を利用する人もいますし。
佐藤さん:その通りです。一番重要なのはどのような選択であれ、人生設計をしっかり立てることです。例えば、シングルで行くと決めたなら、将来自分の体が思うように動かなくなったときどうするかを考える。
どのような介護サービスを受けるか? デイサービスなのか、小規模多機能施設にするのか? そのために必要な費用と、積み立てるべきお金は毎月いくらなのか、などです。
シマオ:なるほど。どのような形であれ、経済的に破綻したり困窮したりしない人生設計を立てればいいということですね?
佐藤さん:そういうことです。その点、可不可さんは公務員ですから、年金含めて生涯年収はおそらく3億円くらいにはなるはず。いろいろな選択肢があると思います。
結婚相談所でも視点を変える
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シマオ:もちろん結婚という選択肢もあるわけですよね?
佐藤さん:もちろんです。その場合に私がお勧めしたいのはマッチングアプリではなく、結婚相談所に行くこと。真剣に結婚相手を探している人が集まっているからです。可不可さんはすでに通っているとのことなので、そちらでいいでしょう。
シマオ:その他にも可不可さんは一人で飲みに行ったり、旅行したりしているようですが、そういうところでの出会いにも期待していいのでしょうか?
佐藤さん:それもいいのですが、正直な話、飲み屋やバーなどではいろいろな女性がいますからね。飲んでいて楽しい人が、果たして結婚に向く相手かどうかは分かりません。
シマオ:たしかに。そもそも向こうに結婚の意思があるかも分からないですもんね。結局、相談所で本腰を入れて相手を探すのが一番だと。
佐藤さん:そう思います。ちなみに、結婚相談所で相手を探す時にはちょっとしたコツがあります。視点を変えると言ってもいいかもしれません。シマオくんは何だか分かりますか?
シマオ:え、何だろう。全然分からないです……。
佐藤さん:バツイチの女性まで候補に入れるのです。もっと言えば、小さなお子さんがいらっしゃる女性まで視野を広げることです。
シマオ:えーっ!? そうなんですか? 失礼かもしれないですが、正直ちょっと抵抗があるような……。
佐藤さん:そう思うかもしれませんね。でも、女性に限った話ではなく、バツイチで再婚希望の人の方がパートナーを大切にする人は多いと私は思いますよ。
バツイチとか、子どもがいる人というのは人生経験が豊かだし、異性に対する目も肥えています。見た目がいい相手だから選ぶ、といった短絡的な思考ではありません。
シマオ:なるほど……。以前の連載でもお話しされてましたけど、佐藤さんも離婚からの再婚を経験されていますよね?
佐藤さん:はい。私自身の経験や、周りの人たちを見ていると、そこまで視野を広げた人がうまくいっているケースがよくあるんですよ。
バツイチの人たちは再度結婚のチャレンジをするわけですから、よりよい関係を築くために頑張ろうという人が多い。しかも子どもがいるとなれば、しっかり向き合ってくれると思います。
結婚は恋愛の成就ではなく「生活保全」である
佐藤さん:もう一つ大事なことは、結婚を恋愛の延長として考えないということです。
シマオ:よく「結婚と恋愛は別ものだ」と言いますね。
佐藤さん:はい。そもそも結婚というのは生活を一つにすることで互いに助け合うもの。生活保全、リスク分散という側面が強いものでした。恋愛感情は二の次で、まずは生活の安定が目的だったのです。
シマオ:経済的にもそうですが、先ほどの老後の話などにも関係するわけですよね?
佐藤さん:その通りです。恋愛至上主義的な考え方は戦後から一般的になった考え方です。むしろ結婚の本義は生活のほうにあった。ですからお見合いという制度は、ある部分においてとても合理的なわけです。
シマオ:つい時代遅れの制度だと思ってしまいがちですが、理にかなっていたと。
佐藤さん:はい。あとは、婚活をしている女性からすれば、可不可さんはとてもいい環境にいるということをもっと認識していいと思います。
シマオ:と、言いますと……?
佐藤さん:なんといっても公務員ですから。今の時代安定した収入が得られるというのは大変なアドバンテージですよ。
シマオ:確かに!
佐藤さん:しかもとても真面目でしょう。お酒や女性、ギャンブルに溺れているわけでもない。人生の意味を深く考えるという性格も、逆に、誠実で嘘をつかない人だと信用してもらえるかもしれません。
シマオ:なるほど……もっと自信をもって婚活に臨んでもよさそうですね。
コミュニティよりもアソシエーションに属する
シマオ:ところで、可不可さんは結婚だけでなく人付き合いそのものが苦手なような気がします。友達を作る方法なんかもあるでしょうか?
佐藤さん:友達を作るとしたら、コミュニティ的な集団よりもアソシエーション的な組織に属することを考えてみるといいでしょう。
シマオ:えーっと、まずコミュニティというのは自治体や町内会など地縁的なつながりのことですよね?
佐藤さん:そうですね。自然発生的に生まれて、比較的少人数で互いの人間的なつながりや絆が深い関係性をコミュニティと呼びます。その意味でどうしてもコミュニティには閉鎖的で排他的な側面があります。
それに対して、アソシエーションというのはある一つの目的で集まっている集団で、人為的に生まれたものです。コミュニティよりも規模が大きいケースが多く、いろいろな人が集まっている集団と考えてください。
シマオ:勉強会や趣味のサークルから、宗教団体とか政治団体のようなものまで、全部アソシエーションと考えていいのでしょうか?
佐藤さん:はい、いいと思います。何か共通の目的を持っている人たちの集まりですね。つねに門戸を開いていますから、ポッと顔を出しても歓迎してくれるはずです。
シマオ:可不可さんも何か一つのテーマや興味を持つことで、そこから同じ興味やテーマを持った人と出会うことができるということですね?
佐藤さん:その通りです。たんに漠然とドライブをしたり、飲みに行ったりするのではなく、自分のテーマや興味のあることと絡めるのです。例えば、テーマを持った旅という点では巡礼の旅などはその最たるものでしょう。
シマオ:お遍路さんですか! 四国の巡礼などは有名ですよね。そういう旅をするとそれこそ途中で仲間ができて、強い絆につながるかもしれませんね。
佐藤さん:そういうことです。もっと身近なものなら、テーマ性の高いツアーに参加する。仏像巡りだとか、植物や花を見るツアーとかいろいろありますよね。クルーズ船のツアーなんかもいいかもしれません。
シマオ:クルーズ船の旅というと、ピースボートのような船に乗って何カ月もかかって世界を回るようなイメージがありますが……。
佐藤さん:いえいえ、そこまでじゃなくても、2〜3日で神戸から北海道を回るツアーとかがありますよ。船の中ではどこにも行けませんから、船内の人と話をするしかなくなります。互いにそういう環境ですから、親密になりやすい場だと思います。
シマオ:そうなんですね。他にも、好きな作家やテーマなんかがあれば、それに関する勉強会や読書会に参加してもいいわけですよね。
佐藤さん:そう思います。それと、聖書に興味があって教会に行こうと考えているということでしたね。クリスチャンの私が言うのもなんですが、教会の神父や牧師の人よりも、お寺のお坊さんなどの方が相談相手にはいいと思います。
シマオ:お坊さんですか? どうしてでしょう?
佐藤さん:お寺のお坊さんの方が、どちらかというと世間一般の生活に合わせた話ができるんです。
教会の場合はどうしても話がキリスト教中心で、聖書とイエスの話になりがちです。キリスト教のような一神教は教義がかっちり決まっているのでどうしてもそうなってしまう。仏教の場合はもっと緩い分、より世間的な目線で話してくれるお坊さんが多いと思います。
シマオ:いまグーグル検索してみたのですが、人生相談ができるお寺は結構出てきますね! 誰か信頼できて親身に相談に乗ってくれる人が見つかれば、かなり環境が変わりそうです。
佐藤さん:そう思います。まとめると、可不可さんは結婚相談所で視野を広げつつ、自分のアドバンテージを認識することが大切です。下手に悩む必要などありません。
あとは可不可さん自身が好きなことを見つけ、目を輝かせて生きていたら、女性だけじゃなく同性だって自然に可不可さんに寄ってくるようになると思いますよ。
シマオ:確かに。好きなことに生き生きと向き合ってる人って魅力的ですもんね。何だか僕も元気をもらえました!
「佐藤優のお悩み哲学相談」、そろそろお別れのお時間です。引き続き読者の皆さんからのお悩みを募集していますので、こちらのページからどしどしお寄せください! 私生活のお悩み、仕事のお悩み、何でも構いません。それではまた!