森美術館の床がホタテの貝殻で埋め尽くされる…。20周年記念展「私たちのエコロジー」が開催中

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撮影:荒幡温子

ビジネスと環境問題は今や切っても切れない関係にあるが、それはアートシーンにおいても同様だ。

開館20周年を迎える森美術館では、このメモリアルな年にあわせて、環境問題にフォーカスした展覧会「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」を、10月18日(水)より開催している。

ホタテの貝殻を踏む

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ニナ・カネル、《マッスル・メモリー(5トン)》

展覧会タイトルにもある、エコロジー。ここでは単に環境を表すのではなく、私たち人間を含む生物、ひいては植物や水などの非生物までを含む、すべての循環を意味する。

第1章は、そんなつながりを意識させることから始まり、章を追うごとに過去から未来へと時間軸が動いていく構成となっている。

会場に入ってすぐ、小屋のような建物が目に留まる。床を覆うように埋め尽くされているのは、なんとホタテの貝殻たちだ。北海道から運ばれた5トンのホタテの貝殻が敷き詰められた、ニナ・カネルの《マッスル・メモリー(5トン)》は、実際にその上を歩くことができるインスタレーションだ。

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砂利道以上に足がおぼつかない空間を、決して気持ち良くはない音を立てながら、歩いていく。

北海道では、毎年20万トンのホタテ貝が廃棄されており、さまざまなアプローチでの再利用が試みられている。

だが、実は再利用だからといって手放しに喜べない矛盾をはらんでいるのだ。例えば、建材へのリサイクルの場合、洗浄や焼成のプロセスには重油を原料とする化石燃料を膨大に消費する必要がある。

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実際に来場者の足によって粉砕されたホタテの貝殻は建材に使われるという。だが、建材になるまでの背景を知るだけで、その使い道だけでなく、製造過程における環境汚染についても意識が向く仕組みになっている。

「お好み焼き」と「生け花」

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殿敷侃、《山口ー日本海ー二位ノ浜 お好み焼き》。展示を解説する、企画担当のマーティン・ゲルマン氏。

第2章「土に還る」では、高度経済成長や放射能汚染など、戦後日本における環境問題を考える作品が並ぶ。

森美術館から眺める東京のシティービューに対峙するのは、二つの巨大な土の塊。

一つは、《山口ー日本海ー二位ノ浜 お好み焼き》と名付けられた殿敷侃(とのしきただし)の作品。海岸で集めたゴミを巨大な穴に放り込み、燃やすことでプラスチックを溶かし、この塊を生み出したという。

お好み焼きというポップな響きとは裏腹に、退廃的で、どこか怪物のような恐ろしいイメージを感じさせる。

広島生まれの殿敷は原爆による被爆者で、生涯原爆症に悩まされ1992年に亡くなった。彼の生涯を重ねると、この塊が怪物を想起させたことにも納得がいく。

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谷口雅邦、《発芽する?プリーズ!》

一方で、黄土色の土が鐘のように押し固められ、そこからトウモロコシの茎がもしゃもしゃと生えている土の塊も。《発芽する?プリーズ!》の谷口雅邦は、華道の龍生派に所属しながらも、独自の世界観で生け花をアートに昇華した作品を発表してきた作家だ。

同じ土を使った作品でも、谷口の作品は有機的でのびのびと奔放な印象を受けるだろう。企画担当のマーティン・ゲルマン氏も、この相反する2作品が同一空間に存在するのがユニークだとコメントする。

巨大な真珠が伝えるもの

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モニラ・アルカディリ、《恨み言》。

《恨み言》のモニラ・アルカディリは、クウェートで生まれ、日本の美大で学んだバックグラウンドを持つ。

実は、クウェートは古代から天然真珠が主力産業だったという。だが、20世紀初頭に日本の養殖真珠に取って代わられ、衰退を余儀なくされ、のちの石油産業の台頭によって経済発展していったという歴史がある。

巨大な真珠たちは、両国と作家のアイデンティティをつなぐアイコンとして機能し、巨大な亡霊となって、「侵入」「搾取」「干渉」「劣化」「変貌」と恨みの段階をボイスメッセージとして伝える。

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保良雄、《fruiting body》

保良雄(やすらたけし)の《fruiting body》は、石灰岩が結晶化して生まれる大理石と、産業廃棄物を高温で溶融させたことでできた人工的な非品質スラグといった、有機物と無機物を同じ空間に並置させる。

さらに非連続のリズムで聞こえてくる音にも耳をすませてみてほしい。これは「デジタル化した鳥の鳴き声」とのことで、大理石と非品質スラグをつなぎとめるような役割を果たしており、ただの不気味な電子音といった印象は受けない。

どちらも、産業革命以降の加速度的発展をテーマとした第3章「大いなる加速」における展示だ。

2章からゆるやかに引き継がれている、技術革新と環境破壊という命題に、さらに第4章「未来は私たちの中にある」で作家たちが向き合う。

修理もエコシステムのうち

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アサド・ラザ、《木漏れ日》

4章、そして展覧会の最後を飾るのは、アサド・ラザの《木漏れ日》。館内に設けられた天窓のロールスクリーンを修理する際に組み上げられた、伝統的な足場がただそこにある“だけ”の作品だ。足場はあくまで脇役で、メインは太陽光だ。

だが、なんてことのない修理のワンシーンを、森美術館のエコシステムとして捉えることで、私たち鑑賞者も日常に潜むエコシステムに目を向けることができるのではないだろうか。

展覧会が終わった後も、木漏れ日は館内に差し込み続け、足場も寺社仏閣を手掛ける職人によって再利用されるそう。作品はなくならないというのも、まさにエコロジーを感じる面白いコンセプトだ。

サステナブルな会場設営

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塗装途中の壁。

アサドが森美術館のエコロジーを示したように、森美術館側でもアップサイクルな取り組みを実施する。

アーティストの制作を国内で実施することで、海外関連輸送を前展覧会「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」の半分にまで削減したという。

あわせて、全展覧会の仮設壁の再利用や、パネルの塗装工程の省略など、資源を極力削減した会場設営をおこなう。

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世界16カ国から34名の作家が参加する。

「美術館が果たすべき社会的な役割が、森美術館の開館した20 年前と比べるとはるかに大きくなりました。単にその作品を収集して展示をするだけではない、配慮すべき事柄がたくさん出てきています。

現代美術館として、今後も社会の大きな変化に応答する形で、緩やかに変化を続けていきたいという風に思っています(森美術館館長・片岡真実氏)」

森美術館開館20周年記念展「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」

会期:2023年10月18日(水)~ 2024年3月31日(日)

会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)

開館時間:10:00~22:00 (最終入館は閉館時間の30分前まで)

※火曜日のみ17:00まで。ただし、2024年1月2日(火)、3月19日(火)は22:00まで。10月26日(木)は17:00まで。

料金:[平日]一般 2000円(1800円)、学生(高校・大学生)1400円(1300円)、子供(4歳~中学生)800円(700円)、シニア(65歳以上)1700円(1500円)

[土・日・休日]一般 2200円(2000円)、学生(高校・大学生)1500円(1400円)、子供(4歳~中学生)900円(800円)、シニア(65歳以上)1900円(1700円)

※専用オンラインサイトでチケットを購入すると( )の料金が適用されます。

展覧会公式サイト

編集部より:初出時、アーティスト名を「保良雄(ほらたけし)」としていましたが、正しくは(やすらたけし)でした。また、壁の画像のキャプションについて、「塗装途中の壁」ではなく、「展示壁も前展覧会のものを再利用し、塗装仕上げを省いている。」としました。お詫びして訂正致します。 2023年10月25日

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