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2023年に世界で誕生したユニコーン企業のうち、多くを占めているのが生成AIスタートアップだ。
2022年11月にChatGPT-3がリリースされて以降、ベンチャーキャピタリストは画期的なテクノロジーに取り組む新しいスタートアップに何十億ドルもの資金を投じている。生成AIをめぐる売り込みが過熱化するなか、ミストラル(Mistral)のように創業から数週間しか経っていないスタートアップを著名な投資家らがこぞって支援するという事態も発生している。
カリフォルニアを拠点とするベンチャーキャピタル(VC)、アクセルパートナーズ(Accel Partners)が公開したレポート「Euroscape」の最新版によると、2023年はすでに10億ドル(約1500億円、1ドル=150円換算)以上のバリュエーションを持つ生成AIスタートアップが、アメリカで9社、ヨーロッパとイスラエルで3社誕生している。
VCの資金調達の落ち込み、テクノロジー分野での広範なレイオフやバリュエーションの低迷といった背景があるにもかかわらず、高い評価額のついた企業が新たに出現しているのだ。
生成AIは、比較対象のヘルスやフィンテックよりもはるかに健闘している。投資家は2023年に生成AI業界のスタートアップに180億ドル(約2兆7000億円)もの記録的な金額を注ぎ込んでいるが、これは2022年の投資額(39億ドル〔約5900億円〕)の5倍近くにのぼる。
アクセルのレポートによると、世界的には、SaaSおよびクラウド分野の新しいユニコーンの約60%が「生成AIから発展した企業」だという。この比率はアメリカでは75%と高く、2023年にはアンスロピック(Anthropic)、ジャスパー(Jasper)、ランウェイ(Runway)といった企業のバリュエーションが10億ドルを超えた。この数字は、シンセシア(Synthesia)やAI21といったユニコーンの拠点があるヨーロッパとイスラエルでは45%に下がる。
どちらの地域も、生成AI分野全体で有望なユニコーン企業群を売り込んでいる。アクセルのレポートは、これらの企業が持つ3つの重要な要素、つまりアプリケーション、インフラストラクチャ、基盤モデルに注目している。
アクセルのパートナー、フィリップ・ボッテリ。
Accel
アクセルのパートナーであるフィリップ・ボッテリは、生成AIはソフトウェアの可能性を再定義する「重要な動き」を生じさせたが、「さらに多くのものをもたらす」と見ている、と語る。
同レポートによると、フランスには生成AIにとって理想的な環境がある。シードラウンドで1億1300万ドル(約170億円)という巨額の資金を調達したミストラルなど、フランスのスタートアップは、資金規模でヨーロッパにおける資金調達ラウンドの上位3件を独占している。
しかし、ヨーロッパは資金調達のレイターステージにおいてはアメリカにまだ遠く及ばない。ヨーロッパの生成AIスタートアップは、欧州大陸で行われた上位7件のディールで9億ドル(約1350億円)を確保したが、アメリカのライバル企業は、オープンAI(OpenAI)が調達した100億ドル(約1兆5000億円)を含め、141億ドル(約2兆1200億円)という途方もない資金を集めたと同レポートは明らかにしている。
同レポートによれば、それでもEUとイスラエルは、豊富なAI人材を強みとし、AI関連の出版物をアメリカより50%も多く送り出してきた。スタンフォード大学のレポートによれば、2010年から2021年のAI関連定期刊行物の15%はEUとイギリスの研究者によるものだ。これに対して、アメリカは10%にとどまる。
生成AIはありふれたツールに
「生成AIは、より小型化した専用モデルと業界固有のワークフローで構築された、新しい垂直型アプリケーションを実現するだろう」
アクセルのレポートはこのように解説している。
通常、ハービー(Harvey)やヒポクラティックAI(Hippocratic AI)などのスタートアップは、モデルをトレーニングするためにニッチなデータセットを必要とする。アクセルによれば、特定のユースケースにAIを使用する可能性が最も高いのはヘルスケア、法律、創薬といった分野である。
同レポートはまた、合成動画、画像、音声生成を実現するツールが普及するにつれて、生成AIを利用するメディア制作が一般的になると予測する。特に注目すべき点として、イレブンラボ(ElevenLabs)、シンセシア、スタビリティAI(Stability AI)、ランウェイといったスタートアップがこれらのサービスを提供することで知名度を上げ、まもなく個人向けでもエンタープライズ向けでもメインストリームになるとの見解を示している。
さらに、企業は生成AIをさらにシームレスに自動化ツールに組み込むだろうと同レポートは指摘する。企業は、ドキュメント処理や通信物マイニングからコンテンツ作成にいたるまでの企業の活動を、AIによって合理化しうる。
マイクロソフト(Microsoft)、ユーアイパス(UiPath)、セロニス(Celonis)などのテクノロジー大手および既存企業は、「事業ユースケースにさらに幅広く対応するため、独自のAIとサードパーティの大規模言語モデル(LLM)を活用している」とも、同レポートは指摘している。