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イーロン・マスク(Elon Musk)はここ数週間、欧州委員会が制定した新たな規制を回避するため、ヨーロッパでのXへのアクセスを停止する可能性があることを示唆している。
Xの事情に詳しい人物によれば、マスクはデジタルサービス法(DSA)を遵守しなければならないことに不満を募らせているという。
1年前にX(当時はTwitter)を440億ドル(約6兆6000億円、1ドル=150円換算)で買収したマスクは、欧州域内でサービス提供を停止することや、EU圏のユーザーのアクセスを遮断することを検討してきたと、その人物は語る。EU圏ではメタ(Meta)の新アプリ「Threads(スレッズ)」が今も利用できないが、マスクの発想はこれに似ている。
8月に発効したDSAは、Xのような大規模なオンラインプラットフォームに対して、偽情報、誤解を招く情報、有害情報を是正および削除できる、実効性と透明性のあるシステムを導入することを求めている。X上ではイスラエルとハマスの軍事衝突に関する誤った情報が相次いで拡散しており、すでにDSAに違反している疑いがある。
有害コンテンツへの監視強化進むEU
欧州委員会のティエリー・ブルトン(Thierry Breton)委員は先ごろ、欧州委員会は公式にXの新法への「遵守について調査」していると述べ、悪影響のある、または有害な情報を是正および削除する行動に関する詳細情報をXに正式に求めた。
Xは資金繰りに窮しているが、DSA違反が判明した場合、罰金が科される可能性がある。欧州委員会は、企業が世界で得ている収益の最大6%にあたる「定期的課徴金」、つまり罰金を科すことができる。
Xには「信頼・安全」担当の部門があり、かつてここには数百人が所属してプラットフォーム上の論争の緩和と監督に努めていたが、マスクは同部門のメンバーの大半を解雇している。
マスクがXの使用範囲を大幅に制限する考えを持ち出すのは、これが初めてではない。Twitter買収直後には、コスト削減策としてTwitterの事業をアメリカ国内に限定することを提案していたと、同社に詳しい別の2人の人物が明かす。
消息筋の一人は、マスクがTwitterのオーナーになってから何千人もの従業員をレイオフや解雇の対象にしたことに触れ、「それもあって、マスクは最初にめぐってきた機会で、海外担当チームを骨抜きにしたんです」と話す。
2023年に入ると、Twitterの海外展開をふるいにかける動きが再浮上した。この時マスクは、ヨーロッパとインドの大部分、さらにオーストラリア、アフリカ、韓国などを対象に、20あまりある自社保有の海外オフィスのほぼすべてを閉鎖することを決めた。当時のマスクは、Twitterが最も受け入れられているアメリカ、イギリス、日本でのみ事業展開するように移行すべきだと提案していた。
InsiderはマスクとXの広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。Xの広報担当の連絡先からは「ただいま多忙につき、後ほどご確認ください」との自動返信があった。欧州委員会の担当者にもコメントを求めたが、まだ回答は得られていない。
マスクが実際にXを撤退させた国はまだないが、パリ、マドリード、ベルリンのオフィスが閉鎖されたため、事実上ヨーロッパには従業員が残っていないと消息筋の一人は話す。ただしダブリンオフィスは開いているほか、EUから脱退したイギリスでも、ロンドンオフィスは同国がDSAとは別に定めた大規模プラットフォーム向けの法案に対応しようとしている。
EUでの利用は減少傾向
モバイルアプリのパフォーマンス計測を手がけるアップトピア(Apptopia)のデータによると、Xの世界全体のMAU(月間アクティブユーザー数)のうち、ヨーロッパは約9%を占めている。だが、過去3カ月間で1日当たりの通信量は大幅に減り、ヨーロッパ全体で10〜40%減となった。ダウンロード数と通信量はXが利用できるほぼすべての国で減少している。
Xの従業員は今や、マスクが思いついたことならどれほど論理的でなくても即実行されうることを心得ている。ユーザーへの課金もマスクが初期の時点で思いついたアイデアで、こちらはすでに実装されている。
マスクは気まぐれで何かにすぐ反応することでも知られている。マスクは2023年に入って、XのDSA遵守をめぐりブルトン委員と少なくとも2回面会しているが、消息筋の1人によれば、マスクはこの問題に対処する忍耐力を失っているという。
マスクはXで、DSA遵守に関するブルトン委員の投稿に対し、皮肉を交えて何を求められているのか分からないと反応し、「裏取引」には関わらないとしている。マスクをよく知る人物は次のように話す。
「彼は気に入らない人間や、自分に異議を唱える人間にはすぐさま鉄槌を下すんです」