ポール・アレックス氏は、ATMの機械に投資する副業を始めた。
Paul Alex
現在35歳のポール・アレックス(Paul Alex)氏は、サンフランシスコ・ベイエリアで警察官としてのキャリアを築くつもりで警察に入った。
アレックス氏は仕事に全力で取り組み、麻薬捜査班の刑事となり、その後、特殊事件捜査班に配属された。Insiderが閲覧したカリフォルニア州の公文書によると、2020年までに彼は13万3000ドル(約1862万円、1ドル=140円換算)の年俸を得るまでになり、福利厚生を含めると年収の合計は27万2000ドル(約3808万円)以上になった。
キャリアを積んで経済的に安定する一方で、彼の週の労働時間は60時間から100時間に及ぶこともあった。
「個人的な自由はまったくありませんでした。私生活がおろそかになっていました。愛する家族と一緒に過ごす時間もありません。家族が大好きなのに。最終的に、こんな人生であってはいけないと気が付きました」
サラリーマンとしてのキャリアを生涯続けるべきではないということをより深く実感したのは、残業が禁止され、給与が大幅にカットされた時期だったという。隔週で支給される控除後の給料が2000ドル(約28万円)という月もあった。そのような収入が低い月に毎月5000〜6000ドル(約70万〜84万円)にもなる支払いをカバーできるよう、彼は常に節約しなければならなかったという。
「人生を前に進めたいと思っているのに、それができない状況に陥ると本当に心がすり減ってしまいます。自分は立ち止ったままだと感じるのです」
アレックス氏は、キャッシュフローを生み出す資産に投資することで、給与の変動に影響を受ける生活から抜け出そうと考えた。そうすれば、給与はレジャーや車、追加の投資などの裁量的な用途に充てることができる。
当初は不動産投資も検討したが、それには多額の現金と住宅ローンが必要になり、さらに借金が増えることになると思い、やめた。また、不動産を維持するための諸経費で余計にストレスがたまると思ったという。家賃滞納や修理が発生した場合でも住宅ローンを支払い続けるために、現金を保持しておく必要もある。
2017年、アレックス氏はビジネスを研究していた同僚を通じて「ATMへの投資」というアイデアに出合った。このビジネスに関するSNSグループに参加し、実践者のYouTube動画を見たり、あらゆる資料を読んだりし始めた。
何も知らない彼の感覚からすると意外なビジネスモデルだった。しかしその魅力は、不動産を購入するのに比べて低コストで始められることだった。ATMの購入は3000ドル(約42万円)もかからない。また、ATMの収益が上がらない場合は、ATMの設置場所を変えられるためリスクも低い(彼は「流動資産」と呼んでいる)。そして、ひとたびATMを設置すればすぐに収益を上げられるため、副業として手っ取り早い方法でもあるのだ。
アレックス氏は2018年、副業としてこのビジネスを追求することを決めた。その後、2021年3月には警察を退職し、同様にこのビジネスを始めようとする人たちにATMを提供することをフルタイムの仕事とした。
Insiderが閲覧した2021年1月から2023年4月までのアレックス氏の損益計算書によると、ATM機とサービスを提供する彼の会社「ATM Together」の総売上高は1200万ドル(約16億8000万円)、純利益は約350万ドル(約4億9000万円)だった。彼はクレジットカード端末を提供する会社「Merchant Task Force」も経営しており、同社の同期間の売上は84万4000ドル(約1億1816万円)、純利益は74万2000ドル(約1億388万円)となっている。
まずはロケーション探し
2018年、アレックス氏は仕事を2週間休み、理想的なロケーションを探すために街を偵察した。
彼が探したのは、ATMを設置するメリットがある、人通りの多い場所だ。これには、飲食店のボーイやスタッフのチップを狙った、ナイトクラブやレストランなどが集まる繁華街や観光スポットも含まれる。また、レジで現金を扱う小さな店舗も探した。こういった店舗では、レジに常に十分なドル紙幣を用意しておく必要があり、それはビジネスにとって厄介な作業だからだ。
アレックス氏はまるでサービスを提供するかのようにこのビジネスを売り込んだ。彼は無料で機械を提供し、維持する責任を負っている。彼は100回以上電話をかけ、20箇所以上に直接足を運んだと述懐する。
「この副業を始めて、実際に現場に出て、ノーとイエス、勝ちと負けを繰り返すうちに、本業に戻ってもつい副業のことを考えてしまっていました。自分のために何かを育てているという事実と、それを育て続けたいと感じたことが私の心を捉えたのだと思います」
当初は3台のATMから始めることを考えていたアレックス氏だったが、最終的には、サンフランシスコのベイエリアで酒屋3軒、理髪店2軒、ネイルサロン1軒の計6カ所を確保することができた。最初の3軒はキャッシュバック、後者の3軒は現金のチップが設置の動機になった。
ATM機が設置場所に到着すると、彼は2000〜3000ドル(約28万〜42万円)程度の現金をATMに入れた。
すべての場所が大当たり、というわけにはいかなかった。アレックス氏は、ATMは最低でも1台あたり月200ドル(約2万8000円)以上の収益が必要だと言う。だが最初の1カ月でリターンがあったのは酒屋に置いた3台だけだった。それらは、引き出しにかかる手数料から、1カ所あたり月に250〜500ドル(約3万5000〜7万円)程度の利益を上げていた。それに対して人通りの少ないところでは、月に25〜100ドル(約3500〜1万4000円)程度の利益しか出ていなかった。アレックス氏は2カ月間ほど様子を見たうえでATM機を移動させた。
アレックス氏はさらに、同じビジネスで成功しているメンターをFacebookで見つけた。彼はメンターのアドバイスに基づき、3台のマシンを2軒のコンビニエンスストアと、他の酒屋1軒に移した。移動させたマシンはすぐに利益を出すようになり、最高で月に600ドル(約8万4000円)のリターンがあったという。突如として、6台のマシンが稼働して月に最高約3000ドル(約42万円)の純利益をもたらすようになったのだと彼は語った。彼は約半年で投資を回収した。
クレジットカードで事業資金を調達
アレックス氏は、ATMを購入できるだけの資金は十分にあったが、それに加えてATMに入れておく紙幣が必要であることに気がついた。そこで彼は、個人用のクレジットカード(最初の12カ月間は無利息のカードだった)を2枚契約して借金をし、ATMマシンの購入に充てたという。これによって、毎月の利息を発生させずに、キャッシュフローを作るのに十分な時間が生まれた。
最初の6台をセットで購入したとき、ATM機1台あたりは2100ドル(約29万4000円)と、かなりの割引が受けられたとアレックス氏は思い込んでいた。しかし後になって、これはあまり良い取引ではなかったことに気づいた。というのも、この契約では彼のATMが稼いだ手数料から30%の手数料を支払う必要があったからだ。契約していた販売代理店の説明ではこれが一般的なやり方とのことだったが、それが唯一の方法ではないと彼は後になって気づいた。
次のマシンは、彼のメンターから購入することにした。新品と再生品との両方があり、価格は機種によって違い、1800〜2200ドル(約25万2000〜30万8000円)だった。
ATMにかかる追加費用としては、インターネットのワイヤレスモデム150ドル(約2万1000円)、月々のインターネット使用料6.99ドル(約980円)、技術者による設置費用300ドル(約4万2000円)などだ。
アレックス氏は、ATMで得た利益で少しずつマシンを買い足していき、2020年時点でサンフランシスコのベイエリア全域に30台のATMを保有するまでになった。それぞれのマシンは月250〜1500ドル(約3万5000〜21万円)の利益をもたらした。
アレックス氏によれば、30台のATMは合わせて毎月9000〜1万2000ドル(約126万〜168万円)のキャッシュフローを生み出した。給料の代わりにはならないが、その利益で生活費は十分にまかなうことができた。このことをきっかけに、彼は2021年に仕事を辞めて、この分野でビジネスを立ち上げた。
この間、彼はATMプロバイダーと出会ってパートナーシップを組み、自らもATMプロバイダーになった。これで彼は自身のマシンを売却し、リモートで活動することが可能になった。
副業が軌道に乗り始めた頃も、アレックス氏の頭には疑念がよぎっていた。周囲の意見のせいで、これをやり抜くことはできないのではないかとずっと感じていたのだ。同僚の中には、よく分からない商売に手を出すのはやめたほうがいい、もっと長時間働けばいいじゃないかと言う者もいた。今にして思えば、やり続けてきてよかったと彼は思っている。
「自分に投資しましょう。学ぶことがすべてです」と、アレックス氏は自分の体験を振り返る。
「すべて、友人がくれたアイデアから始まりました。私はそのアイデアを取り入れ、デューデリジェンスを行い、調べたり、本を買ったり、ビデオを見たりして、そして読んで読んで読み漁って、自分自身で実践できると感じられるまで、それを続けたのです」
※この記事は2023年6月23日初出です。