不要衣類などの回収ボックス「PASSTO(パスト)」。
ECOMMIT提供
アパレル店舗でよく見かける、不要になった衣類の回収ボックス。集まった衣類はどこへ行くのか、気になったことのある人も多いだろう。
「循環商社」を掲げるECOMMIT(エコミット、鹿児島県)は、こうした不要になった衣類を企業から回収・再販している企業だ。年間の回収量は6000トン、リユースとリサイクルを合わせた再資源化率は98%以上に上る。
同社は10月20日、伊藤忠商事や日本郵政キャピタルなどを引受先とする第三者割当増資で、シリーズAで合計9.4億円を調達したと発表した。
エコミットは2007年創業。17年目を迎えた今、大型投資を進める狙いは何か。川野輝之CEOに聞いた。
廃棄衣類の1%を救出
エコミットが集めた衣類の再流通先。国内だけでなく海外もあり、多岐にわたる。
出典:ECOMMIT事業概要資料
エコミットは全国約3000カ所に衣類や不用品の回収拠点を持ち、アパレル企業のデッドストック品や、ブランドが店舗で回収した不要衣類などを回収する。スーツブランドのはるやまやAOKI、サザビーリーグが展開するESTNATION(エストネーション)などのほか、グローバルブランドとも取引がある。
衣類の98%以上はリユースやリサイクルで再販する。日本で年間に廃棄される衣類(約50万トン)の1%程度に相当する約6000トンを回収。少なく感じるかもしれないが、業界ではトップクラスだ。
同社が回収した衣類はまず、全国7カ所にある自社の循環センターに運ばれ、手作業で52種類に仕分けがなされる。選別基準はブランドや着用シーズンなどによって細かく標準化されている。
仕分け後の衣類の行先は、7割がリユースだ。最も多いのが古着店への卸販売で、チェーン展開する大手の古着店などが顧客だ。シミや汚れで再販できないものはリサイクルへ。2022年に業務提携した伊藤忠商事への原料供給が最も多い。
回収した衣類の出口(再販・再資源化先)は100を超える。回収しても廃棄されたり、選別されないまま海外に販売したりするケースもある中、どこに販売あるいはリサイクルされたかが分かる独自の追跡システムによる透明性の高さも強みだ。
儲かりにくかった「選別力」が生かせる時がきた
エコミットの川野輝之CEO。
撮影:土屋咲花
エコミットはこれまで長い間、VCなどからの資金調達を受けずにきた。大型投資を進めるにあたって、エクイティ調達をした理由について、川野CEOは、
「自社のポジションを、資源を循環させるインフラに徹すると決めたからです。
でも、循環のバリューチェーンを作ることは1社じゃできない。川上から川下まで、それぞれのキーとなる企業様にチームになってもらいたかった」
と話す。主な出資者である伊藤忠商事は、「大量消費社会への対応、持続可能な産業成長の実現のために欠かすことのできない取組み」とコメントする。
冒頭で述べたように、同社の強みは丁寧な選別とトレーサビリティだ。それゆえのリピート客もいるわけだが、川野CEOは「選別をすればするほど儲からないんですよ、実は」と話す。
細かい選別は生産性が落ちる。だからこそ、多くの廃棄物処理業者は選別をせずに重量単位で再販する。ただ、そうして販売された古着や不用品は海外で環境を汚染する。川野CEOはその実態を現地で目の当たりにした経験があるからこそ透明性を重視してきた。一方でビジネスとの両立は難しさもあった。
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「色々な人に『環境事業は儲からない』と言われていましたし、経済性を担保しながら事業を拡大させていくことに苦悩の日々でした。どこで勝っていけるのか?を模索している期間が長かった」
という。
エコミットの売上高は約10億円。この数年は横ばいで、成長の糸口を探しあぐねていた。
自社でリサイクル素材の製造まで担ったり、研究開発に特化したりする事業展開も考えたというが、結果的に「原料の供給者に徹すること」に方向性を定めたのは、世の中の環境意識の変化が大きい。
ファーストリテイリングは、2030年度までに全使用素材の約50%をリサイクル素材とする目標を発表している。アダストリアも同様の目標を掲げる。
「リサイクル素材の技術は研究開発が進んでいますが、原料の選別と安定供給が課題で実装が進んでいない。僕らはどこでどの程度の不用品が集まるかというデータを持っていますから、作り手(リサイクル素材のメーカーなど)に対して想定供給量が提示できます。今まで得意としていた部分がそのまま活かせる」(川野CEO)
最近はアパレルブランドが顧客から回収した自社の洋服を再販するケースも出てきた。ユニクロや無印良品が代表例だ。この動きが本格化すれば、
「店頭での自社回収では物量が足りなくなるはずです。我々がそういった企業様のインフラとなって、再生原料やリセール品を調達できるような仕組みにしていきたい」
という。
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衣類選別を自動化
約1000カ所に設置している不用品回収ボックス「PASSTO」。大型商業施設やマンションにもさらに展開していく計画で、「箱をつくるのが間に合わないくらい」という。
ECOMMIT提供
エコミットは今回の資金調達によって、事業拡大を加速させる。
調達資金の多くは、循環センターにおける選別の自動化に充てる。ベルギーの企業と自動選別のシステムを開発し、2024年秋に処理能力を現在の1.7倍に高める。バージョンアップを重ね、最終的には1カ所のセンターにつき現在の3倍となる毎月300トンの処理能力を持たせる計画という。
それに伴い、回収量の拡大も進める。
「選別のキャパシティ自体は、実は今もまだまだあるんですね。どちらかというとまだ捨てられているものを救い出せてない。それは今後1年、徹底的にやっていきます」
川野CEOによると、回収ボックスを置くだけでは衣類は集まらないという。
矢野経済研究所の調査では、手放される衣料のうち、回収などによってリサイクル・リユースできているのは35.5%。それ以外は廃棄されている。
「回収拠点ができても、お客様が持ってきてくれないと回収量は増えず、不要な衣類はゴミとして結局捨てられてしまいます。そこにある課題ってなんだろうと言うと、家からの遠さもそうですし、もうちょっと深掘ってみると、店舗のスタッフがそもそも味方になってくれていなかったりもします」(川野CEO)
アパレル店の場合、集まった衣類を回収してもらうのにコストがかかる。顧客が不要衣類を持ち込むほど店舗の利益を押し下げることになるため、店長が消極的なケースが多かったという。エコミットではアパレル店長向けに回収した衣類の行き先や意義を説明する動画を作り、理解促進に努める。
より消費者の身近に回収拠点を増やす取り組みが、2023年4月に開始した不要品の回収・選別・再流通を一気通貫で担うサービス「PASSTO(パスト)」だ。今回出資を受けた日本郵便のほか、商業施設、マンションなどと連携し、人が集まる場所に不用品の回収ボックスを設置している。「パスト」関連で既に1000カ所以上にボックスを設置した。
「置くだけでは不用品は集まらない」という観点から、パストは設置者とボックスの利用者双方がメリットを感じられる設計になっている。
例えば商業施設に設置する場合は、不用品を持ってきた人にクーポンやポイントを付与することで販促ツールとしての役割も持たせる。大型マンションへの設置では、自治体の集団回収報奨金制度の活用のほか、雑貨など回収品の一部を有価物として買い取ることで設置者への経済的なメリットをもたらしている。
エコミットが類似事業者と比べて高い回収量を実現しているのは、こうした環境面と経済性の両面を追求していることも大きい。
回収拠点数は2024年9月までに1万カ所、回収する衣類は今の倍となる1万2000トンを目指す。
「これまでのアパレルは数を売れば売るほど儲かるという、いわゆる大量生産、大量消費モデルだったと思います。
回収を前提に、長く使えるものを売った方が儲かるよね、っていう世界観を作っていきたいんですよ。新品を売ってまず儲かる、さらに、中古としてブランドに返ってきたものに価値がついて、それをもう1回売って儲かる、みたいなサイクルに売り方を変えていきたい」(川野CEO)