アマゾンの物流やロボティクスに関するイベント「Delivering the Future」が、アメリカ・シアトル近郊にある「BFI1」で開催された。BFI1はAmazon Roboticsの研究施設を兼ねたフルフィルメントセンター(物流倉庫)だ。
撮影:小林優多郎
アマゾンが10月18日(現地時間)、自社の配送倉庫で活用する最新の倉庫ロボットを公開した。
今回公開されたロボットは「Sequoia(セコイア)」と「Digit(ディジット)」の2種類。Digitに関してはアメリカのロボットメーカー・Agility Robotics(アジリティー・ロボティクス)が開発したもので、同社は2022年4月にアマゾンの10億ドルファンドから出資を受けている会社の1社だ。
1年前にも、アマゾンはあらゆる商品をつかめるロボットや、人間と共存できるロボットなどを発表していた。アマゾンの最新技術はどうなっているのか、現地からレポートする。
商品管理の次世代システムを担う「セコイア」
パッと見ただけでは大型の作業台にしか見えない「Sequoia(セコイア)」。
撮影:小林優多郎
セコイアの見た目は大型の機械だ。わかりやすい人型や掃除機のような形はしていない。
人から見える範囲は大型の荷台のようなスペースしかない。稼働中は「トート」と呼ばれる青いかごが流れてきて、人がトートに商品を入れていき、中身が一杯になるとまた背後にトートが流れてくる……ということを繰り返す。
運ばれていったトートは裏で「ガントリー(Gantry)」という金属製の荷台に複数格納され、ドライブ(Drive)という日本でも使われている荷台を運ぶロボットが所定の場所まで運んでいく……という流れになっている。
商品を入れるためのカゴであるトート。
撮影:小林優多郎
Amazon RoboticsのバイスプレジデントのScott Dresser(スコット・ドレッサー)氏は、セコイアについて「次世代のシステムとして考えている」と話す。
従来、こうした商品を荷台に出し入れする作業は人間が担ってきた。例えば、商品を保管する時、ドライブが運んできた荷台(従来は「ポッド」と呼ぶ)の所定の位置に、人間が商品を手で入れている。
目的の商品を手で掴んで、管理コードをスキャンして、カゴに入れる。多様な商品を扱う上でこうしたピッキング作業は人間がした方が効率的だからだ。
ポッドに商品を入れるアマゾンの従業員。現在のスタイルでは、足元や自分の背より高い位置にある棚に商品を入れる場合もある。
撮影:小林優多郎
ただし、ポッドは高さがあり、しゃがんだり、スタンドを使ってアクセスしないといけない場合もある。筆者も荷入れの作業の体験をしてみたが、独特の身体的な負荷があるのは実感できた。
その負荷を解決するのがセコイアだ。人間は単に流れてくるカゴに商品を入れたり出したりするだけでいい。トートが流れてくるスペースも人間が無理な姿勢にならないように傾斜がつけられている。
トートをまとめるガントリー。ガントリーもそれなりの高さがあるが、どの位置にもセコイアが入れてくるので、特に問題はない。
撮影:小林優多郎
アマゾンによると、セコイアを使用すると、商品の保管作業が従来と比べて最大75%高速化し、消費者が注文して配送までかかる時間も最大25%短縮するという。
また、セコイアの担当者は「すでにあるロボットをうまく使えるようにデザインした」と話しており、ガントリーは既存のポッドを運ぶドライブがそのまま流用できるようになっている。
さまざまな商品を持ち上げられるロボットアーム「Sparrow」(2022年11月撮影)。
撮影:小林優多郎
加えて、2022年11月に発表したロボットアーム「Sparrow(スパロー)」とセコイアを組み合わせることも検討されている。
スパローは数百万個の商品のピックアップに対応しているため、セコイアとの連携が始まれば商品の出し入れの作業の中で人間が触れる機会は減ることになる。
従業員と働く二足歩行ロボ「Digit」
Agility Roboticsの開発するロボット「Digit」。
撮影:小林優多郎
セコイアがすでに具体的な作業フローが確立しているのに対し、「まだほんの初期の実験段階」(ドレッサー氏)なのが、もう一つの新型ロボット・ディジットだ。
ディジットは元々、アジリティー・ロボティクスが開発していた二足歩行するヒューマノイド・ロボット。ディジットをアマゾンの倉庫内業務で使うためのテストが始まった、というのが今回のニュースだ。
カゴを持つディジット。
撮影:小林優多郎
ディジットは、置き場所に合わせて足を屈伸のようにして位置を調整できる。
撮影:小林優多郎
ディジットは平な地面を自由に歩き回り、サイドにあるアームで商品が入るカゴを移動できる。また、しゃがんだり、少し背伸びもできるので、多様な位置にものを運べるようになっている。
デモでは、要所要所に貼られた二次元コードで場所を認識しており、掴んだかごを所定の位置に動かして離す、といった動作ができていた。
ディジットは目のついた顔のようなパーツを持っているが、二次元コードで位置を把握している。
撮影:小林優多郎
ドレッサー氏はディジットに対しては基本的に「物を運ぶ用途での活用を期待している」と述べていたが、アマゾンは将来的には「従業員と一緒に作業する」ことに期待を寄せている。
例えば、前述のような商品の出し入れの際には空のカゴが発生するが、空のカゴを都度回収スペースに持っていく作業をディジットにやってもらえれば、人間は別の作業に集中できる。
ロボットは人間の仕事を奪う。だがメリットはある
「Delivering the Future」の2日目基調講演に登壇したAmazon Roboticsのチーフテクノロジスト・Tye Brady氏(右)と、同リサーチ&ディベロップメント部門ディレクターのEmily Vetterick氏(左)。
撮影:小林優多郎
最新技術が登場すると「人間の仕事を奪う」という話になることがよくある。画像生成AIであればクリエイター、そしてアマゾンのロボットであれば、倉庫で今働いている従業員といった具合だ。
こうした見方に対し、アマゾンは明確に否定的な立場だ。
今回のロボットが発表されたアマゾンのグローバルイベント「Delivering the Future」の2日目基調講演に登壇したAmazon RoboticsのチーフテクノロジストであるTye Brady(タイ・ブレイディ)氏は「ベストなロボットとは、協力できるロボットだと思う」と発言している。
「生産性を上げるためには、機械をツールとして使って、人間の能力を拡張する必要がある。それによって問題を解決する。あくまで人間中心の考え方が大事だ。
また、職場の生産性を向上させるだけでなく、安全性も向上させることができると信じている。
私たちは、2019年から2022年にかけて、安全性について10億ドル以上投資をした。これによって8000人の従業員が安全に作業ができている。(倉庫内での商品の)紛失率も18%減少している」(ブレイディ氏)
Amazon RoboticsのバイスプレジデントのScott Dresser氏。
撮影:小林優多郎
また、イベント同日のインタビューに応じたドレッサー氏も、ロボットの導入によって「700種以上の新しい仕事が生まれた」と話す。
「ロボットの信頼性が増したとしても、必ずいつかは壊れてしまう。そのためにメンテナンスや修理をする技術員が必要になった。技術員をトレーニングする仕組みも作った。
また、ロボットには対処しにくい問題も絶えず存在する。そういう時に人間が必要だ」(ドレッサー氏)
デモの途中、異常が発生してディジットがその場で姿勢を崩し、スタッフが応援に入るという実証中らしいシーンがあった。ただ、ディジットの名誉のために言えば、何かにつまづいて転んだわけではない。
撮影:小林優多郎
日本の物流業界は、働き手の不足と法改正によって働き方が変わる「2024年問題」に直面している。
日本でEC事業をするアマゾンにとっても他人事ではない。同イベントの1日目には免許不要で短距離の配送に適した「リヤカー付き電動自転車」も発表している。
セコイアやディジットといったロボットが日本に導入される具体的な計画は今のところ明かされていないが、全体の効率化という意味では、遠くない将来にこうしたロボットが活躍することは想像に難くない。
(取材協力・アマゾン)