シドニーで開催されたテックや音楽の複合イベント・SXSW。米HPは大規模ブースを出展した。
撮影:横山耕太郎
「パンデミック以降、ここ数年で人々の働き方は大きく変わり、オフィスでの仕事からハイブリッドなライフスタイルへの変化を私たちは生きてきた。そしてPCはさらに必要不可欠なものとなっている」
HPで中国とインドを除くアジア地域を担当する、グレーターアジアリージョン副社長兼パーソナルシステムカテゴリー責任者のKoh Kong Meng氏は、日本では11月中旬から発売される新製品の説明会でそう口火を切った。
米HPの2023年度第3四半期決算(5〜7月)によると、売上高は前年比9.9%減の132億ドル(約1兆9782億円)。パソコン部門の不調もあり、通期の業績予想を下方修正している。
国内を見てもパソコン市場は好調とは言い難い。民間調査企業・IDCによると、日本国内のPC市場の出荷台数は、2022年通年で1257万台、前年比11.3%減と大幅に減少した。
HPは改めて、最新のパソコンは「コロナによる生活の変化」を全面に打ち出し、HPブランドの強化を狙う。
大規模ブースを出展
記者発表会で発言するKoh Kong Meng氏。
撮影:横山耕太郎
今回の日本メディア向けの新製品説明会は、シドニーで開催される音楽やテックなどの複合イベント・SXSW(サイスバイサウスウェスト)に合わせ、現地シドニーで開催された。
HPはSXSWで新モデル展示を含む大規模なブース出展に加え、野外にも特設の展示場所を設けた。また現地の説明会に日本や韓国、インドネシアなどのアジア系メディアを呼ぶなど、ブランド強化のメッセージングにコストを投下していることも見て取れる。
1台で3役。広げて使えるディプレイ
日本では12月に発売予定の「HP Spectre Foldable 17」。
撮影:横山耕太郎
HPの新型PC「HP Spectre Foldable 17」(日本では12月中旬に発売予定)は、ノートパソコンとタブレット、デスクトップの機能を併せ持っており「3in1」をうたっている。
薄型で小さめなパソコンに見えるが、キーボードを取り外すことができ、また半分に折りたたんだ本体を広げることで「17インチのデスクトップPC」としても使える。
日本での直販価格は79万8600円(税込)とかなり高額だが、前出のKoh Kong Meng氏は「1つで三役ができる利便性を考えると、当然一般的なノート型PCよりは価格が高くて当たり前だという考えている」と説明する。
持ち運びしての利用を想定した「HP ENVY Move All-in-One」。
撮影:横山耕太郎
もう一つの新作「HP ENVY Move All-in-One」(日本では11月中旬以降に発売)は、簡単に持ち運べる23.8型の一体型PCだ。価格は22万円(税込)。
4時間駆動可能なバッテリーが内蔵されており、上部にはハンドルがつけられており、持ち運びがしやすいようにデザインされている。
「例えばヨガをするときに持ち運ぶこともできるし、キッチンで何かを作りたいときもこれまでのように小さい画面でYouTubeを見る必要はない。映画もみれるし、狭い机でも使い終わったら移動もできる」(Koh Kong Meng氏)
アフターコロナの生活を想定
Consumer Notebook Category ManagerのSash Vrgleski氏。
撮影:横山耕太郎
HPがアピールするのが、コロナによる生活の変化に対応した製品である点だ。
「複数の環境を行き来しながら仕事をするため、複数のデバイスを使用することは珍しいことではなくなった。自宅でソファやベッドではタブレット、仕事で出張するときはノートPCのように。しかし私たちはこのすべてに最適なデバイスを手に入れた」
オーストラリア・ニュージーランドでコンシューマーノートブックカテゴリーマネージャーを務めるSash Vrgleski氏はそう強調する。
実際に今回の新製品には、外出先での仕事や、在宅勤務をより快適にする機能も搭載されている。
具体的には、外出先でのリモートワークを想定しカメラによるセキュリティが強化された。利用者がデバイスから離れたことをカメラが検知するとスクリーンのロック。また他の人が画面をのぞき込んでいることをカメラが認識すると画面をぼかしたり、のぞき見を通知したりするという。
またパソコンがより生活に溶け込むような工夫もある。持ち運んで使うことを想定している「HP ENVY Move All-in-One」は、オーディオや画面の明るさを自動で調整してくれる。
「場所が変われば環境も変わり、使い方も変わってくる。私とスクリーンまでの距離を検知し、それに応じてオーディオを調整します。書斎で仕事をしているとき、オフィスからリビングに移動したとき、子供や恋人が一緒にいるときなど、私たちは違う環境にいるので、オーディオは床で調整され、新しい部屋での最高の体験ができる」(Sash Vrgleski氏)
日本市場、ゲーミングPCに期待
シドニーで開催されたSXSW。HPの横では、インテルがゲーム用のパソコンを展示していた。
撮影:横山耕太郎
民間の調査企業IDCの発表によると、2022年の日本におけるPCシェアはブランド別にみるとHPが首位だが、国内ではパソコンの需要が低迷している。
しかし、Koh Kong Meng氏は、コロナはパソコン業界にとってプラスに働いたと強気だ。
「パンデミックをきっかけに、仕事にとっても、学習にとっても、娯楽にとっても、PCはなくてはならないということを気付かされた。パンデミック中は世界で年間2億5000万台のPCが売れた。2年前がピークだったが、特にパンデミック前と比べると需要が大きく伸びている」
日本市場については、「日本は世界でも有数のゲーム市場がある。ゲームブームが起きており、アジアでも需要が非常に伸びている国の一つだ」と説明する。一方、今回の新製品の日本でのマーケティングについては「マーケティングや販売について、どう展開していくべきかは検討中。それぞれの国にあったマーケティングをしていく」と述べるにとどまった。
また約70万という高価格帯については「非常に革新的で、他の会社が持っていない価値がある製品。そのための価格設定」とした。
またWindows10のサポート期間は2025年10月と残り3年に迫っている点について「製品を押し出す機会になる」とした。
「日本でもWindows7のサポートが切れた時には大きな問題になった。特に企業向けに関してはサポートが切れるのを待たずに、早めに仕掛けていきたい」
(取材協力・HP)