習近平の「一帯一路」は本当に“破たん”したのか? イタリアの離脱後も続く中国の拡大戦略

「一帯一路フォーラム」で会談し、握手を交わすロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席。

「一帯一路フォーラム」で会談し、握手を交わすロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席。

Sputnik/Sergei Guneev/Pool via REUTERS

10月17日から2日間、中国の首都北京で第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(一帯一路フォーラム)が開催された。今回の一帯一路フォーラムは、2013年9月に中国の習近平国家主席が一帯一路構想(当時は「シルクロード経済ベルト」)を提案してから10年という節目を迎えて開催されたこともあって、国際的に高い注目を集めた。

一帯一路構想を巡っては、スリランカのハンバントタ港の事案が象徴するように、中国による投融資が新興国の過剰債務問題(債務の罠)につながるという批判が、欧米からなされていた。一方で中国に対しても、戦略的価値に乏しい資産を引き取らざるを得ないという意味で、同国自身が「不良債権の罠」に陥ることへの警鐘が鳴らされている。

もともとこの一帯一路構想に関しては、中国の習近平国家主席自身にも確たる戦略ビジョンがなかったように感じられる。そのため、この10年間、中国政府が主導する対外投融資は、必ずしも戦略的に実施されてこなかったというのが現状だろう。その意味で、欧米による一帯一路構想への懸念や批判は、いささか過剰反応だったといえなくもない。

そして不動産価格の下落が象徴するように、10年の間に中国経済そのものが変調し、かつてのような高成長も見込めなくなった。一帯一路フォーラムで習近平国家主席は、一帯一路構想に基づく投融資を量から質に転換すると表明したが、ある意味で中国はようやく、政府が主導する対外投融資を戦略的に実行していく意思を表明したことになる。

一帯一路構想の性質の変化は、今回の一帯一路フォーラムに出席した各国首脳らの数にも反映されているといえる。一帯一路フォーラムサミットに首脳を派遣した国の数は24カ国にとどまり、2019年に開催された前回の38カ国から大幅に減少した。量的な拡大が見込めなくなった一帯一路構想から、距離を置く国が増えてきたわけだ。

離れるイタリアと留まるハンガリー

一帯一路フォーラムで会見するハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相。

一帯一路フォーラムで会見するハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相。

Wolfgang Kumm/dpa via Reuters Connect

一帯一路に関しては、この構想に賛同していた唯一のG7加盟国であるイタリアが離脱の意思を示したことが話題となった。

確たる経済的な果実、具体的には中国からの投資の流入や対中輸出の増加が実現しなかったためだが、一方で引き続き、中国による対外投融資に期待を寄せる国も少なからず存在する。ヨーロッパの小国ハンガリーはその典型だ。

今回の一帯一路フォーラムでは、出席する各国の指導者の数が大幅に減ったが、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相は北京を訪問し、習近平国家主席や李強首相と個別に会談した。欧州連合(EU)は中国に対する姿勢を硬化させているが、オルバーン首相は中国との経済関係を重視しており、今回の訪中を実現させた。

実際に、ハンガリーと中国の経済関係は深まっている。ハンガリーの直接投資流入額(投資の最終的なリスクがどこに所在するかを示す最終リスクベース)の推移を確認すると、中国からの投資流入額は2014年から2021年の間に10億ユーロから34億ユーロまで拡大した(図表1)。それに香港を加えると、日本からの投資流入額を上回る。

図表1ハンガリーの直接投資受入額

【図表1】ハンガリーの直接投資受入額。最終リスクベースで集計。

出所:ハンガリー国立銀(MNB)

EVを通して関係が深まる中国とハンガリー、その理由

ハンガリーにあるNIOの欧州初の工場で働く従業員

ハンガリーのビアトルバギにある中国EVメーカーNIOの欧州初の工場で働く従業員(2022年9月撮影)。

REUTERS/Bernadett Szabo

他方で、ハンガリーの対中貿易収支を確認すると、ハンガリーから中国に対する輸出はそれほど増えていない。が、中国からハンガリーへの輸入は急増しており、ハンガリーの対中貿易赤字も急増している(図表2)。とはいえ、ハンガリーが中国から輸入しているモノは、いわゆる完成品ばかりではなく、部品や中間財といった仕掛品も多い。

ハンガリーでは今後、中国の電気自動車(EV)関連メーカーが生産工場を相次いで稼働させる。そうなればEV関連を中心に、部品や完成品を輸入する流れが強まる。一方、中国のEV関連メーカーの工場が稼働すれば雇用が生まれ、ハンガリー経済の成長を押し上げることになる。ハンガリーは中国による対外投融資の恩恵を着実に得ているわけだ。

【図表2】ハンガリーの対中貿易収支

【図表2】ハンガリーの対中貿易収支。

出所:国際通貨基金(IMF)、世界銀行

中国にすり寄るロシア、一定の距離を置く中国

ハンガリーのオルバーン首相は、一帯一路フォーラムへの参加に伴う訪中で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談を設けた点でも注目を浴びた。ハンガリーが加盟する欧州連合(EU)は、ウクライナとの戦争を巡ってロシアと対立を深めている。にもかかわらずプーチン大統領と会談を設けるオルバーン首相の姿勢には、賛否の両論がある。

一方でロシアは、中国への経済面での依存度を急速に高めている。

一帯一路フォーラムで演説をしたプーチン大統領は、一帯一路構想の実績を高く評価すると同時に、自らが主導する「ユーラシア経済連合」(ロシアを含む旧ソ連5カ国による経済同盟)と一帯一路構想を照らし合わせるなど、対欧米を念頭に中ロ主導の国際秩序の形成に期待を寄せている。

ユーラシア経済連合には、旧ソ連から独立した諸国のうち、中央アジアからはカザフスタンとキルギスが参加している。両国は中国と国境を接しているとともに、鉱物資源が豊富な資源国でもある。そのため中国にとっても、両国との間で友好関係を維持し、経済的なつながりを深めることは国益に適うものであり、投融資の優先対象となる。

とはいえ中国としては、ロシアとの協力関係はあくまで是々非々での判断に基づくものであり、両国が一体となって欧米と全面的に対立する構図が出来上がることを望んでいるわけではない。

ロシアは中国に対して折に触れて強いラブコールを寄せているが、中国はあいまいな態度に終始することで、欧米とロシア、両方との関係の維持に努めている。

より戦略性を帯びてくる中国の対外投融資

そもそも明確な戦略ビジョンがあったかさえ疑わしい一帯一路構想が、当初のイメージ像から萎んでいくことは、ある意味で当然の帰結である。

とはいえこのことは、中国による対外投融資路線が完全に破たんしたこと意味するものではない。「量」から「質」への転換のとおり、中国による対外投融資は、今後より戦略性を高めることになるだろう。

一帯一路構想から距離を置く国は確かに増えているが、同時にこのことは、中国による対外投融資の方向性を見守ろうという国が増えているということでもある。言い換えれば、今後は「量」から「質」に転換することになる中国の対外投融資が、やはり経済的に魅力的なものだと判断する国が、増える可能性も十分あるということだ。

その意味では、一帯一路構想から離脱するイタリアが、将来的に再び中国の対外投融資構想にコミットする展開もあり得る。一帯一路構想にとどまり続けるハンガリーが、経済的な利を得続ける可能性もある。

中国による対外投融資路線は確かに岐路に立っているが、それが完全に破たんしたという見方は、やはり間違いといえよう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

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