パナソニックコネクト樋口CEOが、本気でDEIに取り組む理由 ——女性管理職の次は「介護」

panasonic connect DEI forum 2023 higuchi yamaguchi sakai

4回目となったパナソニックコネクトのDEIフォーラム。樋口泰行CEO(右)と山口有希子CMO(左)、リクシス創業者兼取締役の酒井穣氏とのトークセッションも行われた。

写真提供:パナソニックコネクト

人材争奪戦が激化するなか、「選ばれる企業」になるための重要な要素として、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)への注目が高まっている。

リクルートグループのレポートによると、18〜34歳の約7割が「上司にDEIへの理解がない職場だと分かったら離職を検討する」と回答。海外中心に行われた調査だが、グローバルに展開する企業にとっては他人事ではない。

その1社であるパナソニックコネクトは、2017年にパナソニックの社内カンパニーとして設立され、当初からDEIを重視してきた。

全従業員を対象に、年1回のペースで「ダイバーシティ&インクルージョンフォーラム(D&I Forum)」を開催。2021年以降は「パナソニック コネクト DEIフォーラム」に名称を変更し、LGBTQ+や女性活躍などをテーマに計3回実施してDEIリテラシーの向上に努めてきた。

2023年は3月に行った第3回フォーラムに続き、10月を社内DEI月間「コネクト DEI Month2023」と銘打ち、10月2日から31日にかけて、ワーキングペアレンツ支援や障がいのある人への配慮、LGBTQ+など計80もの情報発信・ワークショップを開催している。

女性管理職比率に次いで関心が高い「介護」

panasonic connect DEI forum 2023 higuchi yamaguchi sakai

フォーラムには会場に約30人、オンラインで400人以上が参加した。

撮影:湯田陽子

DEI月間の中間地点となる18日、メインイベントの第4回フォーラムが会場とオンラインのハイブリット形式で開かれた。

今回のテーマはフォーラム初となる「介護」だ。

フォーラムの冒頭、パナソニックコネクトの樋口泰行CEOは、介護をテーマにした理由について、

「パナソニックコネクトの年齢構成を見ると、40代以上が73%。その結果だと思いますが、(パナソニックコネクトのDEIとして注力すべきことは何かという)皆さんの関心事として、女性管理職比率向上に次いで2番目に介護が上がっています

と語った。

樋口CEOの挨拶に続き、『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』の著者で、介護と仕事の両立を支援するリクシスの創業者兼取締役の酒井穣氏が講演。

酒井氏は2022年まで33年間、実母の介護をしながらキャリアを築き、うち9年間はエンジニアとして勤務していたオランダから「遠距離介護」をしていたという。

その経験やデータを交え、ビジネスケアラーの現実、仕事と両立させるための心構えやマネープランなどについて解説した。

両立に必要な5つの介護リテラシー

panasonic connect DEI forum 2023 lyxis sakai

介護と仕事の両立に必要な5つのリテラシーについて語った酒井氏。自身は33年の介護を経験、うち9年間は海外からの「遠距離介護」だったという。

撮影:湯田陽子

酒井氏は「介護はいまや準医療なので、素人の自分たちにできると思わないでほしい」と述べ、介護のリテラシーを高める重要性を指摘。

「介護のリテラシーを身につけることは本当に大事。良かれと思って間違えてしまうなど、リテラシーの有無によって大きな差が出てきます」(酒井氏)

具体的には、介護と仕事を両立させるためのリテラシーとして、「できるだけ身体介護に関わらないこと」「優秀な(相性の良い)ケアマネジャーを見つけること」「民間のサービスにもアンテナを張り、活用すること」「精神的なケアを心がけること」「介護を理由とした同居は(可能なら)避けること」の5つを挙げた。

酒井氏によると「介護を理由とした同居は、介護業界では成功事例がほとんどないと言われている」という。また、健常者が同居している場合、掃除や洗濯、病院への付き添いといった生活支援サービスが介護保険で使えないため、経済的な負担が増大するデメリットもある。

ただ、精神的なケアは子どもにしかできないとして、

「あなたにしかできないのは、親子であることを喜び合えるようなケア、家族であることを楽しむことです。一緒に食事をしたり、旅行をしたり。これはぜひやってほしい。

それ以外のこと、例えばおむつ交換はあなたより上手な人(プロ)に任せたほうがいいに決まっていますから」(酒井氏)

と強調した。

フォーラムには、会場とオンライン合わせて430人以上が参加。これまで開催した中でも特に参加者が多く、注目の高さがうかがわれたという。

樋口CEO、DEIは「ベーシック中のベーシック」

panasonic connect DEI forum 2023 higuchi CEO

フォーラム終了後に取材に応じた樋口CEO。

撮影:湯田陽子

樋口CEOはフォーラムのなかで、パナソニックコネクトがDEIに本気で取り組む理由について「人権は尊重されなければならない。まずはそれが第一。そして、多様性のある状況から競争力の向上が図れる。この2つの目的で推進している」と語った。

同社はDEIにどう取り組んでいるのか。樋口CEOに聞いた。

——パナソニックコネクトにとってDEIとは。

樋口泰行CEO(以下、樋口):社員一人ひとりが人権が守られていると感じ、心理的安全性が高い状態で仕事ができること。これがないと企業の発展はないと思っています。ベーシック中のベーシックです。いい人材も集まらないし、みんなの活力も出てきません。

——今回のフォーラムについて。

樋口:酒井さんは、みんなで介護のニーズのある人を支えようということのみならず、仕事との両立という観点で考えておられる。日本が競争力を失っていった「失われた30年」の文脈で考えると、やはり介護と仕事の両立という考え方が(競争力を高める方策として)一番ピタッときます。

——パナソニックコネクトとして今後、ビジネスケアラー問題の解決につながるようなソリューションを提供する可能性は。

樋口:十分ありえるかなと思います。

(社員には)平素から「強くて優しい会社になろう」と言っています。やはり日本の競争力・経済力が高まっていかないと、いろいろな貢献もできないし社員に還元もできません。まずは会社として強くなって、利益を出していく。利益を出せるということは世の中に認められていることでもありますから。優しい会社とは「ここで働きたいと思える会社」ということです。

従来の日本企業というのは、トップが「これをやれ」と指示する形になりがちな企業文化があると思うんです。でも、それだとやれることが広がっていきません。

——パナソニックコネクトは違いますか?

樋口:一人ひとりが自分で考えながら、強くて優しい会社になるんだという気持ちを持っていると思います。そうしたなかで、DEI月間で80ものイベントが企画されたり、顔認証の新技術(※)が出てきたりしている。社員の皆さんが自律的にやっているという姿になっていると思います。

※10月10日、以前から顔認証の問題点とされてきた「特定の人種や女性の顔認証精度の低さ」を抑制する新技術を開発したと発表した。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み