Vadim Sadovski/Shutterstock
- 北極圏の溶岩流にヘリウム同位体が多く含まれていることが発見された。
- これは地球のコアがヘリウムを「漏らしている」ことを示唆している。
- この発見は、密閉されていると考えられていた地球のコアについて、これまでの認識を覆す可能性がある。
地球の神秘的なコアは、その奇妙な振る舞いで再び科学者たちを困惑させている。
北極諸島のバフィン島(カナダ)で6200万年前の溶岩流から、ヘリウムの同位体であるヘリウム3(³He)が異常に高いレベルで検出された。
これに関する研究論文によると、希少なヘリウム3は地球のコアから漏れ出している可能性がある。この発見は、地球中心部にある溶けた鉄の巨大な球は密閉されているというこれまでの考え方を覆すものとなっている。
ウッズホール海洋研究所の地球化学者で、この論文の筆頭著者であるフォレスト・ホートン(Forrest Horton)は「我々が思っている以上に地球深部はダイナミックであることが示唆され、とてもエキサイティングだ」とオンラインメディアのViceに語っている。
地球内部を知る手がかり
ヘリウム3が岩石の中に閉じ込められた状態で発見されると、科学者たちはそれが地球の歴史のごく初期に太陽から浴びた物質に由来すると考えることが多い。というのも、地球自体はヘリウム3をあまり生成しておらず、それが地球から漏れると、そのまま宇宙空間に飛び出してしまうからだ。また、今でも太陽からヘリウム3が放射されているが、それは地球の磁場によって宇宙に跳ね返されている。したがって、現在岩石に見られる高レベルのヘリウム3は、地球が誕生した頃から存在していたことになる。
岩石にヘリウム3が含まれることはそれほど珍しいことではない。その含有量は、同じ岩石に含まれるヘリウム4(ヘリウムのもうひとつの安定した同位体)との存在比率として表される。ヘリウム3を多く含む岩石のほとんどは、地球のマントルに由来するものだとされる。
バフィン諸島での研究で科学者を困惑させたのは、カンラン石玄武岩に含まれるヘリウム3の存在比率だった。
地球内部のイメージ。
iStock / Getty Images Plus
バフィン諸島で発見されたヘリウム3の存在比率はありえないほどの高さだった
マントルは静止しているわけではなく、常に溶岩を地表に噴出させ、地殻の一部を飲み込んでいる。そのような動きによって、もともと地球内部に保存されていた同位体の一部が、時間の経過とともに漏れている。
しかし、マントル由来の岩石に含まれるヘリウムの量には限りがあるという。その限界を超える場合、ヘリウムは他の場所から来た可能性が高い。
「驚いたことにヘリウム4に対するヘリウム3の存在比率は、これまで考えられていたよりもはるかに高い値となった」とホートンは言う。
そうなると「岩石は地球のコアから来たものだ」という論理的仮定が設定される。これは、地球に関するこれまでの認識を塗り替える可能性がある挑戦的な仮定だ。
「従来、地球のコアと外側の層(マントルと地殻)は、地球科学的に隔離されている(物質が行き来しない)と考えられていた」とホートンはメールでViceに語っている。
しかし、この発見は「物質、少なくともヘリウムがコアから漏れているという考えに信憑性を与える」とホートンは指摘した。
「地球深部は我々が認識していたよりもずっとダイナミックであることが示された。物質が地球の金属部分と岩石部分の間を移動しているのだ。これはエキサイティングなことだと思う」
ホートンはさらにこう続けた。
「重要な疑問は、ヘリウムがコアから漏れているとすると、他の物質もコアから漏れているのだろうかということだ。そして、これらの物質はいつ地球の岩石部分に移動したのだろうか」
この研究論文は、Natureに8月30日付で掲載された。