気候フィンテック企業、クライメート・アラインドのメンバー。
Climate Aligned
今、気候テックとフィンテックが交わる分野で活動するスタートアップ企業が多くの投資家の注目を集めている。
2023年はベンチャーキャピタル(VC)による資金供給が全般的にかなり低調だ。しかしそれでも、生成AIなど、一番ホットな資金調達ラウンドで席を確保しようとディールメーカーが躍起になっている業界がいくつかある。
投資家たちによれば、いわゆる「気候フィンテック」も、広範な資金調達不況がスタートアップエコシステムの足を引っ張っている状況の中で、投資が増えている分野の1つである。
フィンテックに特化したドイツのVC、コメルツベンチャーズ(CommerzVentures)は気候フィンテックの定義を、脱炭素化を加速させる企業、または気候変動リスクのマネジメントと適応を支援する企業としている。同社は、アメリカかヨーロッパを拠点としてVCによる投資に適したこうしたスタートアップ企業として、600社以上を挙げている。
その範囲は広く、エネルギー契約の価格設定や調達プロセスまたは契約構造の改善を促進する企業、クリーンエネルギーのポートフォリオマネジメントを支援する企業、請求業務を簡素化する企業、気候プロジェクトに資金調達の道を開く企業、気候に焦点を置く他のツールに決済を組み込む企業などが含まれている。
コメルツベンチャーズのマネージングパートナー、ポール・モーゲンタラー(Paul Morgenthaler)氏によれば、同社は、フィンテックが「金融業界をはるかに超える」影響力を持つ可能性があるという投資家としての見解を持っているという。
「気候危機によって求められる経済全体の変革の必要性を考えると、フィンテックは重要な触媒になると考えています。2020年以降、この分野で次々に新たな企業が生まれるのを見てきました。気候危機の大きさと緊急性を考えると、これが大きな新しい波になると確信しています」
実際に最近の動きは活発だ。太陽光発電企業が自社の技術をサブスクリプション契約で提供できるようにするクルーバー(Cloover)は、株式で200万ユーロ(約3億1600万円、1ユーロ=158円換算)と負債で500万ユーロ(約7億9000万円)を調達してラウンドをクローズしたばかりだ。
クライメート・アラインド(Climate Aligned)もつい最近、債券や発行人の持続可能性に関する詳細な資格情報を提供するAIデータ・プラットフォームのために150万ポンド(約2億7300万円、1ポンド=182円換算)を調達した。自社のプラットフォームを通じて、炭素除去プロジェクトの資金調達を支援するオプナ(Opna)は9月、650万ドル(約9億7500万円、1ドル=150円換算)を調達している。
「気候フィンテックが次なる注目分野と目されている理由の一つは、経済の多くの分野を横断しているからです」と、クライメート・アラインドのCEOで共同創業者のアレクシ・トゥキアイネン(Aleksi Tukiainen)氏は話す。
「炭素会計や気候認証などをエコシステムに組み込まれなければならないのであれば、多くのことを根本的に変えなければいけません。財務システムは企業システムを象徴するものなのです」
気候フィンテックはソフトウェア事業でもあるため、迅速かつ効率的に規模を拡大することができ、そこに多くのVC投資家が魅力を感じていると、モーゲンタラー氏は言う。
気候系およびジェネラリスト系のVCが、気候危機に対処する必要性が「強気市場であろうと弱気市場であろうと消えることはない」状況で、どちらも展開する必要のある未使用の資金を抱えていることもよい材料になっていると、アンセミス(Anthemis)の投資主任のジェレミー・ブラウン(Jeremy Brown)氏は述べる。
その投資対効果は、金融セクターに気候への影響とリスク、およびその緩和策を開示することを義務付ける新たな規制によって強化されているとモーゲンタラー氏は述べる。
「最大の課題は、これまで気候に関する予算が限られていたことと、銀行や企業内に明確な気候ロードマップがなかったことです。しかし、この状況は急速に変化しており、市場は成熟しつつあります。これは気候フィンテックにとっては好都合です」(モーゲンタラー氏)
VCは、特にエネルギーフィンテックに強気だ。それとは別に、先週発表されたモーニングスター(Morningstar)の欧州株式市場レポートによると、エネルギーとフィンテックの企業買収案件は他のセクターよりも高値がついている。エネルギーソフトウェアが注目を浴びていることもあり、エネルギー関連企業の評価額は前四半期に11.1%上昇した。一方、フィンテックは2つの「堅調な」四半期を経て9.4%上昇したと、レポートは指摘している。
そして、参入しているのはニッチなプレイヤーだけではない。
200億ドル(約3兆円)の運用資産を持つアメリカのファンド、ベッセマー(Bessemer)は、最近発表した気候技術投資のロードマップで次のように述べている。
「根本的な問題は、エネルギープロジェクトの資金調達や開発のための既存のツールの多くが、太陽光発電所や風力発電所のような、動的で変動しやすい資産のためではなく、石炭プラントや石油掘削施設のような大規模で予測可能な資産のために構築されていることです」
ベッセマーは、再生可能エネルギープロジェクトの財務評価から電力購入契約の円滑化まで、資金調達ライフサイクル全体に関心を持っており、このことは、今後、消費者にも影響を与えるかもしれない。
「再生可能エネルギー契約、エネルギーインボイス、関税が明確化・簡素化されることによって、消費者は複数の再生可能エネルギー源から最も安いエネルギーを選んで利用できるようになる」と、ベッセマーの投資家、アイア・サリチェヴァ(Aia Sarycheva)は述べた。