マイクロソフトの最高技術責任者、ケビン・スコット。
Microsoft
マイクロソフト(Microsoft)が、産業メタバース構想の一端を担っていたAIベースのドローンシミュレーションソフトウェア「Project AirSim」の開発を中止したことが、Insiderの取材で分かった。
情報筋によると、10月23日、Project AirSimを推進するチームのもとに「チーム情報共有」と題されたカレンダーのインビテーションが届き、この会議でチーム全体の解雇とプロジェクトの中止が告げられた。マイクロソフトは、2023年12月15日に同プロジェクトを中止することを認めた。
マイクロソフトは声明の中で次のように説明している。
「このインキュベーションがお客様にもたらした影響を誇りに思います。当社は、産業メタバースを強化するコンピューティングプラットフォームAzureと、社内の幅広いAIプロジェクトの双方に引き続き投資していきます。この移行についてはお客様と緊密に連携しています」
Project Bonsaiも打ち切り
AirSimに関するニュースが発表されたのは、マイクロソフトが「Project Bonsai」の中止を通知し、10月19日に正式に同プロジェクトへの支援を打ち切った後のことだ。Bonsaiは、産業用の自律システムを構築するためのAI開発プラットフォームだった。どちらのプロジェクトも、マイクロソフトの「産業メタバース」構想の一部と見なされていた。
前述の情報筋によると、マイクロソフトは2018年にAIスタートアップ企業のBonsaiを買収した。マイクロソフト社内では、これはディープマインド(Deepmind)を買収したグーグル(Google)への対抗策だと受け止められていた。Project AirSimはもともと2017年にオープンソースプロジェクトとして立ち上げられたが、のちに産業顧客向けの製品に注力することになった。
Project AirSimとProject Bonsaiは、マイクロソフトの最高技術責任者ケビン・スコット(Kevin Scott)が所掌する取り組みに含まれていた。スコットは、産業顧客がマイクロソフトのクラウドを利用できる新製品を開発するために同社とOpenAI(オープンAI)との提携を取り持った。
サティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOは一時期Bonsaiに執心していたと、プロジェクトに詳しい人物は明かす。ちょうどいま、OpenAIに執心しているようにだ。当時は、マイクロソフトのAI事業の将来の話になると、ナデラは社員集会や公開インタビューの場でBonsaiについて触れていたという。
マイクロソフトは当初、これらのプロジェクトが実を結べば産業用アプリ開発者の支持を得られると見ていた。マイクロソフトのクラウドサービスAzureが、クラウド市場の最大手であるアマゾンのAWSに対抗するためだ。しかし、マイクロソフトとOpenAIの提携が強化されるにつれて、同プロジェクトに対するスコットの関心が薄れたと、前述の情報筋は説明する。
OpenAIへの投資を強化
マイクロソフトは2023年初頭にOpenAIとの提携拡大を発表したが、機を同じくして同社は産業メタバース構想も宣伝するようになった。しかし、この取り組みは長くは続かなかった。ザ・インフォメーション(The Information)の既報のとおり、マイクロソフトは春までにプロジェクトを中止し、同プロジェクトに在籍する100人規模のチームを解雇した。チーム結成からわずか数カ月での措置だった。
前述の情報筋によると、マイクロソフトがProject AirSimを存続させていたのは、このプロジェクトには多数の見込み客がいると見込んでいたからだという。
かつて製品インキュベーションとビジネスAIの責任者を務めていたガーディープ・ポール(Gurdeep Pall)は、一時Project Bonsaiを統括し、最近ではProject AirSimを統括していた。だがポールはこの9月、33年務めたマイクロソフトを退職している。
この一件からも、マイクロソフトがいかにOpenAI戦略にリソースを集中投下しているかがよく分かる。Insiderの既報のとおり、マイクロソフトはAIに投資を集中させるべくSurfaceヘッドホンなどの実験的製品の開発も中止している。