抗議デモで声を上げるウーバーのドライバー、エスタファニー・サン-ジュストさん。二大配車サービス、ウーバー(Uber)とリフト(Lyft)のドライバーたちは、ロサンゼルス空港近くの公園で抗議デモをおこなった。2019年5月8日、ロサンゼルスで撮影。
AP Photo/Damian Dovarganes
- アメリカでは、収入を増やそうと、ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)のドライバーになる人が増えている。
- しかし、これらの配車サービスと契約する標準的なドライバーが、時給換算でどれだけ稼いでいるかについては、誰もが納得する数字はない。
- 計算方法が調査によって異なる上に、車の維持管理にかかる費用、顧客からのチップといった要素があるため、ドライバーの時間あたりの報酬として提示される金額にはかなりの幅がある。
全米の複数の州や都市で制定されている「給与透明化法(pay-transparency laws)」によって、一部の職種については、報酬の実態が公開される動きがある。そんな中で、報酬額がひときわ見えにくい職種がある。それは、ウーバー(Uber)や(Lyft)といった配車サービスの仕事をするドライバーだ。
こうしたサービスに登録するドライバーが1時間あたりどの程度稼いでいるかについては、ここ数年、複数の調査が行われているが、結論として導き出された額にはかなりの開きがある。具体的には、最低で9ドル(約1345円)ないし12ドル(約1794円)、最高で23ドル(約3438円)ないし28ドル(約4186円)といった額だ。
これらの調査結果は、配車サービス運営企業から提供されている数字とは大きく食い違っている。標準的なドライバーの1時間あたりの報酬額について、ウーバーは35ドル(約5232円)、リフトでは36ドル(約5382円)に達すると主張している。
一方で、Insiderが複数のドライバーに話を聞いたところ、各人の計算による1時間あたりの報酬は、22ドル(約3289円)から40ドル(約5980円)と幅があった。
両者の主張の不一致は、少なくとも2つの要因によるものとして説明できる。第1に、配車サービスで得られる時間単位の報酬の計算方法が、研究者、ドライバー、運営企業によってかなり違っている場合がある。一部の計算式では、ドライバーの手取り額に影響を与える経費や、実動時間以外の拘束時間が完全にはカバーされていない。
第2に、ドライバーの報酬は、運転する頻度や車にかかる費用、乗客のチップ額によって変動する可能性がある。
Insiderの取材に応じたドライバーたちは、1時間あたりの報酬の計算方法はともかくとして、ドライバーが自身の報酬をきちんと評価・追跡する仕組みの確立が大切だ、という点で一致していた。ウーバーやリフトのドライバーという仕事に、自分の時間を割くだけの価値があるか正確に見極めるには、こうした仕組みを作ることが唯一の方法だというのだ。
分母となる「労働時間」の定義によって、ドライバーの1時間あたり報酬は変わる
サウスカロライナ州のパートタイム・ウーバードライバーのジェフ・ホーニグさん。彼はほぼすべての依頼を受け入れているという。
Jeff Hoenig
ウーバーやリフトが主張する1時間あたり35ドルまたは36ドルという金額は、ドライバーが実際に運転している時間(純粋な実働時間)のみを分母としている。これはすなわち、ドライバーが依頼者から依頼を受け、目的地に届けるまでの時間だ。
しかし、以前Insiderが話を聞いた、配車サービスに登録しているドライバーたちは、オンラインになっている時間(サービスアプリを開いている時間)を、時間あたりの報酬を計算する際の分母としていた。客を目的地に送り届けてから次の依頼が入るまでの時間(この時間も、需要が高いエリアに移動したり、給油したりするために使われている可能性がある)を労働時間に加えることで、実際の稼ぎをより正確に反映できるというのが、ドライバー側の主張だ。
ドライバーたちの団体「ドライバーズ・デマンド・ジャスティス(Drivers Demand Justice=正当な扱いを要求するドライバーたち)」が行った調査も、同様のアプローチを採用している。同団体はドライバー労働時間の基準について、「仕事に関わるあらゆる時間」を採用したと述べている。
受ける仕事を厳選しているドライバーにとっては、実動時間とオンライン状態の時間では、1時間あたりの報酬が大きく変わってくる。カリフォルニア州オークランドで、ウーバーやリフトのドライバーの仕事をパートタイムでしているゲイブ・エッツ=ホーキン(Gabe Ets-Hokin)さんもそんな1人だ。過去5年間に関して、オンラインになっている時間で計算した1時間あたりの報酬は、運転している時間で計算した場合よりも15ドル(約2242円)〜20ドル(約2990円)少ないという。
だがこれは、すべてのドライバーに当てはまる話ではない。サウスカロライナ州在住のパートタイム・ウーバードライバー、ジェフ・ホーニグ(Jeff Hoenig)さんは、自分の場合はほぼすべての依頼を受けているので、オンラインになっている時間と実際に運転している時間のどちらで計算しても、時間あたりの報酬額の差はわずかだと語る。
ガソリン代やメンテナンス費用などの出費で、ドライバーの手取りは減る
ドライバーのなかには、ガソリン代を節約するために電気自動車に切り替えた者もいる。
Smith Collection/Gado/Getty Images
Insiderがこれまでに取材した5人のドライバーは、ガソリン代やメンテナンス費用などを含む、車の運転にかかる経費は、1時間換算で4ドル(約598円)~8ドル(約1196円)に相当すると話していた。ウーバーやリフトが主張する1時間あたりの報酬は、これらの経費を計算に入れていない。
こうした経費は、各ドライバーが使用している車のタイプによっても大きく異なる。中には、ガソリンやメンテナンスにかかる費用を節約するために、電気自動車(EV)に切り替えたドライバーもいる。
サンフランシスコ周辺地域でウーバーのドライバーをしているウェスレー・ジョンソンさん(64)の場合は、働く時間は週に約40時間ほどだ。7月にInsiderが話を聞いた際には、EVに切り替えたことで節約できたガソリン代やメンテナンス費用は、1カ月あたり1000ドル(約14万9500円)以上になると話していた。
顧客からのチップが予想外の収入になることも…ただし運次第
コロラド州在住の配車サービスドライバー、アーロン・ラベンダーさん。
Aaron Lavender
ドライバーが日々稼ぐ額は、どれだけチップをもらえるかという「運の要素」によっても大きく左右される。
「まったくチップをもらえない日があるかと思うと、客を乗せるたびにチップをもらえる日もある」と話すのは、テキサス州ダラスで5月に取材したウーバー・ドライバーだ。
「チップをもらえるかどうかは、その時の街の雰囲気による」
コロラド州在住で、ウーバーとリフトに登録し、フルタイムのドライバーとして働くアーロン・ラベンダー(Aaron Lavender)さん(36)は以前の取材で、収入の10~20%をチップが占めていると明かしていた。
一方、オレゴン州ポートランドで、フルタイムの配車サービスドライバーとして働くナサニエル・ハドソン-ハートマン(Nathaniel Hudson-Hartman)さんは、もしチップや、運転回数に応じてもらえる報奨金がなかったとしたら、経費を差し引いた後の手取り額は、この夏の実績で見ると、1時間あたり24ドル(約3588円)から13ドル(約1943円)にまで落ち込むと語った。
パートタイム・ドライバーのほうが効率よく稼げるケースも
記事前半で紹介した、オークランドでパートタイムで働くエッツ-ホーキンさんは、以前の取材で、2022年の1時間あたりの報酬は、経費を差し引いた後でも約40ドル(約5980円)に達していた計算になると語っていた。
ただし、それだけの高い数字を出せるのは、今はパートタイムでしかドライバーの仕事をしていないからだという。具体的には、1週間あたり15~20時間程度だ。しかも、需要のピーク時にしか運転をせず、高い報酬が得られる依頼を選りすぐっているという。その前年、フルタイムでドライバーをしていた時は、経費差し引き後の1時間あたりの稼ぎは25ドル(約3737円)~35ドル(約5232円)だったとのことだ。
「手取りで1時間あたり30ドル(約4485円)~50ドル(約7475円)を稼げるなら、パートタイムの仕事としては非常においしいと思う。しかも、スケジュールに縛られることもなく、乗客と家族以外、誰に対してもほとんど責任を負わなくて済む」とエッツ-ホーキンスさんは語った。「これからも、1時間につき25ドル(約3737円)~30ドル(約4485円)稼げる限りは続けるつもりだ」
最低賃金法の適用で、一部地域ではドライバーの報酬が明確化
このように、ドライバーが得られる報酬はかなり不安定だが、それでも、配車サービスの仕事を試してみようと考えるアメリカ人は多い。2022年には、ウーバーの登録ドライバーの数はこれまでで最多の500万人に達し、新規ドライバーの70%以上が、同プラットフォームに登録した理由にインフレを挙げたと、ウーバーは報告している。
リフトも2022年10月、2022年第3四半期には、実働しているドライバーの数が、過去2年強の期間で最多になったと発表した。
ニューヨーク市、ワシントン州、カリフォルニア州では、配車サービス・ドライバーの最低報酬を定める規則が制定されたことにより、ドライバーが手にする金額に関して、以前より多少は明確な基準が設けられた。だが、他の州や都市がこの例にならうかどうかはわからない。