「ハロウィン渋谷に来ないで」で懸念される「カリギュラ効果」。防災専門家が語る真のリスク対策とは

渋谷、ハロウィン

大きな話題を呼んだ、渋谷区が渋谷駅前に掲出した広告。

撮影:竹下郁子

今年もハロウィンの季節がやってきました。東京・渋谷区は「渋谷はハロウィーンイベントの会場ではありません」という広告を出し、条例で路上での飲酒を禁止。さらに区長が外国特派員協会で会見を開いて、同様のメッセージを海外メディア(を通じて外国人観光客)にアピールするなど、警戒を強めています。

しかし、こうした対応は「カリギュラ効果」になってしまう可能性もあると、防災・BCP(業務継続計画)の専門家・古本尚樹氏は指摘します。難しいハンドリングが求められる渋谷区は、一体どうすればいいのでしょうか。


コロナ前より多い6万人の人出見込む

渋谷、ハロウィン

2022年の広告。比較すると、渋谷区の警戒の高まりがうかがえる。

撮影:高橋真紀

コロナ禍で抑制されていた人々の行動規範を開放するには、ハロウィンでの仮装は効果的で、観る者にも同様だろう。中でも「ハロウィンの聖地」と化した渋谷の集客力は突出しており、国内だけでなく、海外からの観光客の参加も予想される。

渋谷区によると、2019年のピーク時には約4万人だった人手は、新型コロナが2類から5類へ移行したこともあり、今年(2023年)はさらに増えて6万人超を見込む。

記憶に新しいのは、2022年に韓国ソウルの繁華街・ 梨泰院(イテウォン)のハロウィンイベントで起きた雑踏事故だ。159人が死亡し、日本人も犠牲になった。坂道の中ほどで人が折り重なるように倒れ、約18平方メートルのスペースに300人以上が重なり、死傷者が集中。いわゆる「群衆雪崩」により、立ったまま意識を失い死亡したり、あるいは長時間にわたり圧迫され、呼吸や血液の循環不全を起こす人がいた可能性が高いという。

渋谷、ハロウィン

2022年の渋谷のハロウィン。

撮影:Business Insider Japan編集部

イベントで平時とは違う大人数が集まった場合、多数の傷病者が発生し、一気に災害と化すリスクが高まるケースもある。こうした状況は「マスギャザリング」と呼ばれ、災害の一種と考えることが重要だ。

日本でも花火大会などマスギャザリングでの事故はたびたび発生している。2001年の兵庫県・明石市の花火大会では歩道橋の「群衆雪崩」で11人が死亡し、247人が負傷する事故が発生した。死因は胸腹部圧挫傷・窒息などで、死亡した11人は児童9人と70代の女性2人という、いわゆる「災害弱者層」であった。

渋谷、ハロウィン

同上。

撮影:Business Insider Japan編集部

その他にも2013年福知山花火大会露店爆発事故では、3人が死亡、55人が重軽傷を負った。花火大会で臨時営業していた屋台から、発電機にガソリンを給油するためにガソリン携行缶の蓋を開けたところ、大量のガソリンが噴出して爆発したのだ。この事故については著者も調査・分析を行っていて、現地にはたびたび足を運んだ。

参考記事:バーガーキング、ハロウィンの渋谷店は「臨時休業」と発表。渋谷区に連帯するポスターも

カリギュラ効果の心配も、注意喚起は必須

渋谷、ハロウィン

渋谷区は10月27日から31日の夕方6時から翌朝5時まで、エリアを区切って路上での飲酒を禁止する。

撮影:竹下郁子

国内外でこうした事例がある中でも、渋谷ハロウィンの群衆は密度が高く、事故の危険性も高いと言えるだろう。過去にも群衆が暴徒化して、自動車や付近の店舗の破壊する行為、痴漢、大量のゴミ放置、店舗のトイレを着替えに利用するなどの例もあった。地域の商店街等では当日は営業休止にする店もあり、地域住民にとってはある意味「迷惑イベント」になっている。

渋谷区長らが「渋谷に来ないで」という注意喚起をする中で、今年はどうだろうか。「カリギュラ効果」にならなければと思う。

カリギュラ効果とは、禁止されるほどやってみたくなる心理で、「立ち入り禁止」とされると「入ってみたくなる」心理、学校の校則なら、いろんな禁止事項を破りたくなる心理である。

言葉の由来は、暴君として知られるローマ皇帝カリグラをモデルにした1980年の映画「カリギュラ」だ。過激な内容のため、アメリカの一部地域で公開禁止になったことで、かえって世間の話題をひいたことから、マーケティング用語などで「カリギュラ効果」と呼ばれている。

今回も「渋谷に来るな」と文言通り受け取らず、少なからずの人がやって来るだろう。怖いもの見たさに近い感覚だ。指摘されたらされるだけ、行きたくなる心理が掻き立てられる可能性は高い。しかし警告をしなければ「何もしなかった」「注意喚起を怠った」と言われかねず、渋谷区には難しいマネジメントが求められている。

エリア、時間のリスク分散を

渋谷、ハロウィン

撮影:竹下郁子

区としては、まず動線を分けることをおすすめする。ハロウィンの仮装等をしたい者、また見学したい者が動ける・参加できる地域、箇所を分けるべきだろう。ハロウィンに関係しない者の行動を阻害しないことが重要だ。混在すると事故の元になる。

可能ならば近隣の区と協力し、群衆を分散させる取り組みをしてはどうか。「来ないで」と叫ぶのではなく、原宿・恵比寿・目黒など渋谷を中心とした広い範囲で、ハロウィンに人が集まるような仕掛けをつくるのだ。参加者の密集を緩和し、群衆の母体数を減らすことができる、いわばリスクの分散化だ。

また時間帯を分散させる取り組みも必要だ。現状、夜間に集中している人出を、日中にもスライドさせたい。鉄道会社と協力して、終電の時間を早めるのも一案だろう。

加えて参考になるのが、台東区の浅草サンバカーニバルだ。交通規制をかけて車両を通行止めにし、事前に参加者やルートを決めてパレードを開催している。ここまできっちりと規制をせずとも、ルートやルールを決めたハロウィンパレードを、いっそ区が中心となって開催してしまうのもいいだろう。

渋谷区役所にハロウィンなどのマスギャザリングを対象にした、危機管理対策セクションを設けることも推奨したい。これからも区内、東京都で不特定多数が集まるイベント(イベントと称せず、勝手に集まるケースも含め)で効果を発揮するだろう。イベントにおける参加者の安全と、地域住民との軋轢を防ぐ専門の対応部署が日本の首都の行政にあることは、今後日本のリスクマネジメントそのものを進化させるはずだ。

純粋に渋谷でのハロウィンを楽しみにしている、国内外の「ファン」は多い。渋谷だからこそできるイニシアチブと危機管理能力は、区のこれまでの長い歴史で培われてきたはずだ。その経験はだてではないと信じている。

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