Samantha Lee/Insider
10月上旬、ショーン・レイはサンディエゴでのイネーブルメントプロフェッショナルの会議に、マーケティングスタートアップSendoso(センドーソー)の代表として出席していた。彼はそこで、グローバル全社集会がもうすぐ始まるという通知を受け取った。
「直前のカレンダー招集はいつも何か重大なことで、以前なら、買収されるとか買収するとか、資金調達をするとか、ワクワクするような話でした。でも今じゃ、社員が何人かレイオフされるという話ばかりです」
案の定、レイがミーティングに参加すると、Sendosoの幹部から人員を削減するという発表があり、個別に声がかかる代わりに、対象となる社員は今から5~10分以内にコンピューターが遮断され、個人メールにメッセージが届くとのことだった。
これは社員にとっては不幸なデジャブだった。Sendosoは、企業が取引先にマーケティングギフトを贈るサービスを運営しており、ソフトバンク(SoftBank)をはじめ名だたる投資家からの出資を受けているスタートアップだ。同社は2022年6月に初めてレイオフを実施し、過去16カ月の間に追加で2回の人員削減を行った。
その数分後、レイは自分が失職したことをメールで知った。
経済の低迷が広がるなか、ベンチャーキャピタル(VC)の資金が凍結されたことにより、過去1年半で複数回にわたりレイオフを実施したスタートアップは、Sendosoに限らない。
クランチベース(Crunchbase)によると、2020年、2021年、2022年初頭の熱狂的な資金調達ブームの後、2023年第1四半期のVC投資額は前年同期比53%減となった。追加資金を確保できなくなったスタートアップは、コスト削減のために社内に目を向ける必要が生じた。たいていの企業にとって最大の支出は社員の給与であるため、多くがレイオフに踏み切っているのだ。
今年だけで24万人
2022年、メタ(Meta)、X(旧ツイッター)、セールスフォース(Salesforce)といったビッグテックを皮切りに、レイオフの波がテック業界を席巻した。Sendoso、GV(グーグル・ベンチャーズ)が支援する生殖スタートアップのTMRW、セキュリティソフトプロバイダーのOneTrust(ワントラスト)など、多くのスタートアップでもレイオフが実施されたと報じられた。
レイオフ追跡サイトのLayoffs.fyiによると、2023年に入ってからこれまでにテック企業からレイオフされた社員は24万4000人以上にのぼる。これは、2022年通年でレイオフされたテックワーカーが約16万5000人だったのと比較すると大幅な増加だ。
そして現在、多くの企業が再び大量に人員を削減しており、一部のスタートアップは1年あまりの間に2回目、3回目、さらには4回目のレイオフを行っている。
Insiderが取材したスタートアップの社員らは、レイオフの脅威が常にあることが社内の士気に悪影響を与えていると語る。
「次はどうなるのだろうという不安や、自分の能力を常にいろいろな形で示さなくてはいけないんじゃないかという思いがあります。普段の仕事をしながら守りに入っていたし、上司に対して常に自分の価値を示そうとしていました」(レイ)
相次ぐレイオフで社員は常に不安
テック業界に急ブレーキがかかった2022年半ばから1年半近くが経った。だが、スタートアップもビッグテックも、依然として苦境にある。そして多くの場合、2回目、3回目、中には4回目のレイオフを実施したところもある。リンクトイン(LinkedIn)は10月中旬に668人をレイオフし、グーグル(Google)はニュース部門の社員数十人を解雇したばかりだ。フェイスブック(Facebook)は2023年、追加で1万人の人員削減を行った。
多くのスタートアップでも同様に多くの社員が解雇されている。エドテックスタートアップのSchoolMint(スクールミント)は2回目のレイオフで人員の14.5%を削減したばかりだ。オンライン個別指導のユニコーン企業であるPaper(ペイパー)は、シリーズDラウンドで2億7000万ドル(約405億円、1ドル=150円換算)を調達した後、2023年夏と9月に3回目のレイオフを実施した。
2023年夏にSPAC上場を果たした住宅ローン融資スタートアップのBetter(ベター)は9月に追加レイオフを実施し、即配スタートアップのGoPuff(ゴーパフ)とレストランソフトウェア企業のNextbite(ネクストバイト)も複数回のレイオフを行った。
スタートアップが繰り返しレイオフを行えば、残っている社員には、次は自分かもしれないという不安が常につきまとう。どこのスタートアップでも、今も雇用されている社員の多くはそう語る(こうした社員たちは匿名を条件に取材に応じてくれた)。
今年3回のレイオフを実施した、グロースステージのスタートアップで働く社員の一人は、「『まだ知らないだけで、次にレイオフされるのは自分だったらどうしよう』と心配している」と語る。
そのような不安は職場全体に広がることもある。同社員は、「同じようなことを考えている人をたくさん知っている」と話す。
Sendosoを去ったレイは、相次ぐレイオフによって、自身や今も会社に残っている同僚らは「戦略のむち打ち」を受けていたと語る。
「過去1年半から2年くらい間に、直属の上司は多分8回くらい変わりました。大変ですよ。それぞれのレベルで関係を築かなきゃいけないし、上司を信頼したいとも思いますしね。会社は、今走っているものを常に見直しては、やれこのプロジェクトを始めろ、止めろ、続けろ、と言ってきます。もうむちゃくちゃですよ」(レイ)
エドテックユニコーンのPaperのある現役社員によると、同社の社員は3回目のレイオフが行われることを、経営陣から発表される前に内部リークで知ったという。社員たちはパニックになり、上層部に対する不満が波のように広がったという。「また(レイオフが)行われたら、経営陣に対する信頼も信用もなくなりますよ」と、この現社員は話す。
Paperの2回目のレイオフで解雇された元社員は、自分たちは退職金に不満を抱いているという。同じ年に会社が早期希望退職を募っていた時に提示された金額より少なかったからだ。8月にレイオフされた社員らには、勤続2年以上に対し最大で給与6週間分が提示された。だが、以前の希望退職で提示されたのは8週間分だった。
「勤続年数が短いならまだしも、2年以上働いた社員にとっては侮辱に近い」と、この元社員は言う。
InsiderはSendosoとPaperにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
業界での自身の将来を考え直すスタートアップ社員も
さらなるレイオフの可能性に備えているスタートアップの社員らは、この経験をきっかけに、そもそもこの業界に留まるべきか、二の足を踏んでいるという。
Sendosoからレイオフされたレイは、不安定ではあるが引き続きテック業界に留まり別のソフトウェアスタートアップで働きたいのか、それとも給与は低いが職が安定している、より信頼のある企業に行くべきか、じっくり考えていると話す。
「この業界に初めて入った10年前と同じようなことを今も考えています。この業界にいたら、自分と家族と子どもたちのための長期的な生活の糧が得られるのか。分かりません」(レイ)
9月にSchoolMintからレイオフされた元社員も、同様の疑問と格闘している。レイオフされた社員らは別のスタートアップで働いてもかまわないと思っているが、入社を決める前に、その企業と経営陣、投資家についてもっとよく事前調査するだろうと、この元社員は言う。
「スタートアップの多くが自分たちの仲間を雇い、自社の事情を知っている経営陣をすげ替えて分かっていない人に置き換えるとなると、よくないですね」
SchoolMintにコメントを求めたが回答はなかった。
Paperの2回目のレイオフで解雇された元社員の一人は、その後別のテック企業で新しい仕事を見つけたが、もうスタートアップでは働いていないという。
彼ら彼女らは、自分は幸運にもすぐに新しい仕事を見つけられたが、求職中の他の人に対しては、今ならVCが支援する企業に入るのは慎重になったほうがいいと語る。
複数回のレイオフなどの厳しいビジネス上の決定を行いつつも社員の士気を維持したいスタートアップにとって、重要なのはコミュニケーションである。そう説明するのは、スタートアップ人材派遣会社シュー・タレント(Xu Talent)の創業者兼CEOで、VCであるクライナー・パーキンス(Kleiner Perkins)の元人材パートナーであるジャッキー・シュー(Jackie Xu)だ。
「コミュニケーションがあまり得意ではないファウンダーであっても、この市場においては透明性を高める方法や社員を教育する方法を、いち早く把握する必要があります」(シュー)
厳しい時期には特に、スタートアップのリーダーらが間違いに対する責任をとり、また何度もレイオフするなどの厳しい決断を下す理由をきちんと説明することが不可欠だと、シューは付け加える。
「透明性をあまり高めたがらず、情報を公開しすぎることはよくないと考えるファウンダーもいます。でも2回目のレイオフを行うなら、透明性は重要です。自分たちが十分に深く切り込んだ決断を下せなかったことや、特定の結果を期待していたことを認める。こうしたことは、自分たちの弱さを見せ、思慮深さを示すことにつながりますから。ファウンダーや経営陣は、社員をサポートするためにできる限りのことをする責任があります」