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グーグル(Google)はAIを搭載した重要な広告サービスを普及させるため、同社の営業チームのやり方を変えようとしているという。
複数の情報筋によると、大企業を担当する同社広告営業のスタッフの一部は、小規模でそれほど事情に通じていない広告クライアントへの営業に特化した営業チームに異動しているという。
グーグルの関係者によると、中小企業の広告主はグーグル・カスタマー・ソリューションズ(GCS)チームと連携することで、四半期ごとに25万〜200万ドル(約3750万〜3億円、1ドル=150円換算)をグーグル広告に使っているという。一方、大企業は通常、ラージ・カスタマー・セールス(LCS)と呼ばれるグーグル社内のチームと連携し、四半期ごとに少なくとも400万〜500万ドル(約6億〜7億5000万円)をグーグルに支払っているという。
グーグルが社内のリソースを中規模の広告クライアント向けにシフトさせているのは、大口の広告主がかつてのようにグーグルの大量のリソースを利用する必要がなくなったからだと、グーグルの社員や元社員は明かす。大手広告クライアントの多くは、社内のグーグル専門家のチームを支援したり、実践的なサービスを提供できる代理店の専門家と連携したりしている。
「ロケット成長」は終わった
グーグルはまた、AIなどのテクノロジーを活用して、顧客に提供するサービスの自動化にも力を入れている。
複数の情報筋によると、2023年1月にグーグルが従業員を1万2000人削減して以来、LCSのスタッフ(通常、上級で経験豊富で高給取り)が次々と解雇されたという。営業チームの正式な再編成はまだ社内では発表されていないが、最近の営業の動きはこれらの動きに連動しているという。
グーグルの広告事業を統括する最高ビジネス責任者のフィリップ・シンドラー氏。
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このようなシフトが起こっているのは、グーグルの広告収入の伸びが鈍化しているためだと複数の広告代理店の専門家は指摘する。また、ある検索コンサルタントは、グーグルは 「もっと急激に変化するセグメントに、より多くの資源を投入しようとしている」と話す。
グーグルのある社員は、同社はもはや2年前のような「ロケット成長」は見られないものの、「まだ適切に成長できる余地がある」と語る。
その成長余地のひとつがPerformance Max(パフォーマンス・マックス)だ。Performance Maxは、広告主が検索、YouTube、Googleディスプレイ広告ネットワークなど、Google広告の広告枠すべての中でどの枠に広告費を使うべきかをグーグルのAIを使って決定するツールだ。同サービスは2020年のリリース以来、グーグル内での大きな柱となっている。
グーグル関係者は、Performance Maxは「広告主からさらなる収益」を得るのに適した方法であり、社内ではそれを大きく後押しする力が働いたと述べている。複数の情報筋によると、グーグルでは、このソリューションを特に中小規模の広告主に対して積極的に販売してきたという。同社によると、Performance Maxを利用している広告主は、平均して良い結果が得られているという。
「Performance Max は3年前に提供されて以来、改良を続け、広告主のパフォーマンスを向上させています。この製品とそのおかげで増加したコンバージョンの恩恵を受ける大企業、中堅企業双方のお客様向けサービスを提供するために、私たちはサポートと営業チームに投資を続けています。もちろん、規模の大小を問わず、すべてのお客様を成功に導くために、サポートモデルを改善する方法を常に模索しています」(グーグルの広報担当者)
営業目標を達成し、グーグルのサービスを販売すると、いくつかのチームではポイントシステムを使ってリワードが与えられる。「(Performance Maxは)社内で優先度の高いサービスなので、営業内における比重は間違いなく高い」と、現役のグーグル社員は語る。最近グーグルを退職した元社員は、「すべての社員が何らかのPMax目標というものを持っています」と言う。
広告代理店幹部らの話では、グーグルの営業担当者は中規模の広告主にPerformance Maxを積極的に売り込んでいるという。ある関係者も「それは確かにそうですね」と語る。
「われわれはずっと、グーグルの営業チームと素晴らしい関係を築いてきました。彼らは今まで、何か特定の製品を勧めたりはしてきませんでしたが、Performance Maxに関しては最近力が入っていますね」
販売戦略に懐疑論も
しかし、このサービスに詳しい人物の中には、グーグルのこうした販売戦略に対して懐疑的な人物もいる。
グーグルの元社員はこう語る。
「自動化が問題を解決してくれるから戦略に集中できる、という触れ込みですが、戦略を推進するための根拠を代理店に提供しなければ、あるいはPerformance Maxの自社システムへの組み込み方を社内で情報共有しなければ、それは空約束のようなものです」
また、複数の広告代理店のスタッフは、Performance Maxではどこに広告を掲載し、どこに掲載しないかを決められないため、このツールの利用には慎重になっていると話す。
「私の意見では、Performance Maxはでたらめです」と前述の代理店関係者は語る。この関係者は、同ツールによる結果のレポートは、クリック数や検索などパフォーマンスに関する深い分析データではないため、実際に言われているような結果をもたらしているかどうかについては信用していないという。
「これは、成長を目指すもう一つの例です。グーグルが何の疑問も持たずにただ予算を追求すればよくて、こうしたレポートを誰も見ないというなら、グーグルはわれわれの業績に合わせてただ50万ドル(約7500万円)を請求すればいい。でも彼らがやっていることは、理論的に得られたアトリビューションを行い、直接関係ないことでその成果を主張しているだけです」(前述の代理店関係者)
グーグルはまた、Demand Genと呼ばれるAI搭載製品でソーシャル広告予算を狙っている。 3カ月前に発表されたDemand Genは、広告主の最もパフォーマンスの良い動画広告と画像広告を選び、YouTube、YouTubeショート、Google Discover、Gmailに配信している。
2022年から2023年にかけて広範囲に及んだ広告費凍結の冬は解けつつあるように見えるが、広告主たちはまだ広告費について精査している最中だ。グーグルの最近の動きは、広告主が他のデジタル広告大手に流れるのではなく、グーグルに流れるように最善を尽くすための努力の一つなのだ、と現役社員は述べる。
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