情報過多の時代に「それでも本を読む」理由。読書の効果をブーストさせる3つの方法

BI2310eyecatch

編集工学研究所

「本を読むとは、むろんどんな本を読むかということに左右はされるけれど、本来はつねに社会変革の風を孕むものだ」
ー松岡正剛

私が就活生だったころ(ざっと10年前くらい)、履歴書の「趣味」欄に読書と書くのは厳禁と教えられた。趣味としてあまりにありふれていて、無個性に見えるというのが理由だった。もちろん、そんなアドバイスは無視した。好きな本を語らずに自分について語るなんて、不可能だもの。

今は、どうなのだろう。いずれ趣味欄に「配信」とか「動画編集」とか書くのは普通すぎるからやめなさい、と言われる時が来るだろうか。逆に「読書が趣味」なんて古風で珍しいね、と言われるようになるのだろうか(もしかして、もうそうなってる?)。

1

有史以来、本は情報の乗り物であり続けた。歴史の転換点にはいつだって本があったし(『歴史を変えた100冊の本』スコット・クリスチャンソン、コリン・ソルター (著), 藤村奈緒美 (訳)/エクスナレッジ)、本は果てしない想像力が詰まった宝箱でもある(『あるかしら書店』ヨシタケシンスケ (著)/ポプラ社)。

撮影:編集工学研究所

読書は抵抗の行為である

米ロサンゼルス・タイムス紙の記者であるデヴィッド・L・ユーリンは、著書『それでも、読書をやめない理由』で、読書を「抵抗行為」と呼ぶ。

「結局のところ、何かと注意が散漫になりがちなこの世界において、読書はひとつの抵抗の行為なのだ」
ーデヴィッド・L・ユーリン『それでも、読書をやめない理由

2

著者自身が、「最近めっきり本が読めなくなった」ことへの危機感から読書を取り戻そうとする奮闘プロセスを記録した『それでも、読書をやめない理由』(デヴィッド・L. ユーリン (著), 井上里 (訳)/柏書房)。デジタル時代に本を読む意味を再考する。

撮影:編集工学研究所


ヤマモト

ヤマモト

この説、どうですか? いわく、読書は抵抗である。


オジマ

オジマ

ますます履歴書の趣味欄には書きづらい(笑)。


ニレ編集長

ニレ編集長

カッコええけどな。でも、抵抗って、何に?


ヤマモト

ヤマモト

スマホ時代の常時接続・情報氾濫・孤独喪失社会への抵抗っていうとこですかね。


オジマ

オジマ

読書って時間をかけて没頭するし、本は手間暇かけて作られた情報だから、読むと呼吸が整うっていうのはホントかも。


ウメコ

ウメコ

一筋縄ではいかない本とか役立つとは限らない本に向き合っていると、複雑なことや分からないことに耐える「ネガティブ・ケイパビリティ」も養われますよね。SNSでは育たない力。


ヤマモト

ヤマモト

とはいえ、時代は変わるものだから。頭ごなしにテクノロジーを否定して懐古趣味っぽくなる読書論も、物足りないです。


ニレ編集長

ニレ編集長

せやな。当たり前って、いくらでも刷新されうるもんな。ほら、ソクラテスも、文字を使うことに反対だったやろ。「文字なんて使ってちゃ、記憶力がなくなってバカになる!」って。


ソクラテスが心配したこと

そうなのである。無知の知を説いた賢人中の賢人ソクラテスは、若者が文字を使うことに断固反対していたらしい(当時は口承文化が主流だった)。

理由は、いくつかあった。まず、書かれた文章は、内容が真実でなくとも真実と誤解されやすい。そして文字への依存は、個人の記憶力を破壊する。自分の中に知識が溜まらず、外部に過剰な情報がある状態をソクラテスは想定したのだ。そうなれば、深い思索は失われて、表面的な理解しかできなくなる。

認知神経科学者のメアリアン・ウルフは、この警句が、デジタル情報社会への移行で「読む力」を手放しつつある私たちにも当てはまると見る。検索機能に依存し、情報過多に溺れて、フェイクニュースに騙され、自立した思考力が低下する。賢人の言葉が、耳に痛い。

「ソクラテスは、私たちが言語の多様な能力を吟味せず、“持てる知力を尽くして”使いこなそうとしていないことに対して戦いを挑んだのだ」
ーメアリアン・ウルフ『プルーストとイカ』(小松淳子 (訳)/インターシフト)

ユーリンもウルフも、読書は忍耐と辛抱を要求するからこそ重要だと考える。ゆっくりじっくり情報と向き合うから、スマホのスクロールや動画の流し見では取りこぼしてしまうような気づきや連想が生まれる。そこに自分の思考が立ち上がり、想像力と共感力が育まれる。

実際、ウルフは著書『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』で、物語を没頭して読む時に、脳内でミラーニューロンが反応することを明らかにした。ミラーニューロンとは、目の前で誰かがアイスクリームを食べるのを見ると、自分自身がアイスを食べる時と同じ脳内領域が活性する作用を言う。誰かの経験が脳内で変換されて、自分自身の体験になる。読書が経験を豊かにするとは、メタファーではなく、脳内で実際に起こっていることなのだ。

rev

文字を読むことと脳の関係性を科学的に探った『プルーストとイカ』(メアリアン・ウルフ(著), 小松淳子 (訳)/インターシフト)と、その知見からデジタル時代の読書を考える『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』(メアリアン・ウルフ(著), 大田直子 (訳)/インターシフト(合同出版))。

撮影:編集工学研究所

もっとカジュアルに読書する

そうは言っても、本を読むには忍耐力が必要すぎて、どうにもこうにも。ついついスマホに手が伸びる。そんな悩みに、読書の哲人たちなら、どう答えてくれるだろうか。

「まず言っておきたいことは、『読書はたいへんな行為だ』とか『崇高な営みだ』などと思いすぎないことです。それよりも、まずは日々の生活でやっていることのように、カジュアルなものだと捉えたほうがいい」
ー松岡正剛『多読術

4

静かでお行儀のいい読書だけではつまらない。読書はもっと雑多でいい。『多読術』(松岡正剛(著)/筑摩書房)には、読み方を多様にするヒントがたっぷり。

撮影:編集工学研究所

日々、服を着たり脱いだり組み合わせたりするように、本をまとって暮らしてみる。もし読むことに時間がかかりすぎるなら、雑誌を読む時の「パッパッと読む」感覚を本にも当てはめてみるといい。内容が理解できなくっても、どんどん読む。「読書」をそんなふうに捉えると、本との付き合いも肩肘張らずにできそうだ。

もっとカジュアルに本との関係性を結ぶには、どんな読書の方法があるだろう。以下では「積む」「ノート化する」「みんなで読む」という3つの具体的なヒントをご紹介したい。先人たちが試行錯誤して編み出した方法を真似て盗むのが、上達への一番の道。ぜひ、気になる方法からお試しあれ。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み