クリストル・ムーアとケニー・シンプソン夫妻は、想定外の出来事のおかげで、最初の家を購入することができた。その後は堅実な投資によって不動産ポートフォリオを拡大している。
Courtesy of Kenny Simpson and Krystle Moore
42歳のケニー・シンプソン(Kenny Simpson)と38歳のクリストル・ムーア(Krystle Moore)夫妻は、不動産業界で2人合わせて35年の経験を積んできた。
現在2歳と4歳の娘と共にカリフォルニア州サンディエゴに住む2人は、4物件47戸を所有しており、その市場価値は合計約1900万ドル(約27億1700万円、1ドル=143円換算)にのぼる。Insiderが書類を確認した。
このポートフォリオは年間36万ドル(約5100万円)以上のキャッシュフローを生み出し、さらに2人が権利の一部を所有する他の不動産投資先からも、年間約2万4000ドル(約340万円)の収入があるという。
夫のシンプソンは現在、自身が経営するザ・シンプソン・チーム(The Simpson Team)で住宅用不動産の融資業に携わり、妻のムーアは商業融資を専門とするパシフィック・ショア・キャピタル(Pacific Shore Capital)を経営している。ウェブサイトによると、両社はそれぞれ10億ドル(約1430億円)以上の融資実績を持つ。
華やかな投資歴を持つ2人だが、もちろん最初から不動産を所有していた訳ではない。2人が不動産投資の世界に足を踏み入れたのは10年前で、しかも最初の物件を手に入れられたのは、ほとんど偶然からだった。
売主のミスで初めての家を手に入れる
4歳と2歳の娘と共に一家はサンディエゴに暮らしている。
Courtesy of Kenny Simpson and Krystle Moore
シンプソンとムーアが出会ったのは2008年末、住宅市場が大暴落しているさなかのことだった。当時、シンプソンは住宅ローンの融資担当者、ムーアは住宅ローンの仲介を担当していた。2人とも、出会う前からいつか不動産投資をやりたいと思っていたという。
それから4年、2人はついに物件の購入申し込みを行った。希望する地域の物件や賃貸に関する情報をくまなく調べた結果、サンディエゴのサウス・ミッション・ヒルズ(South Mission Hills)というエリアの一軒家に狙いを絞った。価格は54万5000ドルで、頭金は3.5%(約1万9000ドル)という条件だった。
だが、同じ物件に興味を持った別の買い手が頭金40%を提示した。売り手は当然そちらを選ぶだろうと思っていたところ、なんと売り手が誤ってシンプソンとムーアの代理人に契約成立の書類を送ってしまったのだ。
「というわけで、たまたま売主のミスがあってその家を手に入れることができたんです」とムーアは当時を振り返る。
その後2年間で、2人は合計30万ドルもの大金をこの家の改築につぎ込んだ。うち6万ドルは自分たちの懐から、残りはローンを組んで支払った。当時は2人ともまだフルタイムとして週80〜100時間働いていたため、リフォームの仕事はもっぱら夜や週末だ。設計は自分たちで行い、施工は業者に依頼した。
2014年、2人はこの家を134万ドルで売却。この販売価格は近隣では最高額となった。物件の頭金を含めると合計8万ドル近くの自己資金をつぎ込んだが、約50万ドルもの売却益を得た。
急速な成長、どう実現したか?
だが、カリフォルニアの不動産価格は高い。売却益だけで新たに集合住宅を購入する余裕はなかった。
そこで2人は、他の投資家と組んで物件を購入することにした。
最初のパートナー数人とは、資金の大半を出してもらう代わりにムーアとシンプソンが予算の管理とリフォームの監督を行うことにした。このような役割分担は、資金のない2人にとっても好都合だった。
だが、これらの集合住宅は賃料が格安だったため、銀行から受けられた融資は購入金額の30%ほどで、残る70%は頭金として用意しなければならなかった。そこでノンバンクから金利8〜8.5%という高利のハードマネーローンを受け、できるだけ早くリフォームし、ローンの借り換えを行った。
「最初の数件は、見栄えがよくなるように簡単なリフォームをして、価値を上げて売却していきました。私はこれを『トレードアップ』と呼んでいます。物件を購入し、リフォームし、家賃を上げて売却し、より高価な物件を購入する。いわゆる『BRRRモデル』ですね」(ムーア)
BRRRモデルとは、Buy(購入)、Rehab(改装)、Rent(賃貸)、Refinance(ローンの借り換え)の頭文字を取った不動産投資手法で、物件を買い増すスピードを早められる方法だ。
自分たちで不動産を購入するのに十分なお金を貯めた後は、頭金を35%程度支払い、より大規模なリフォームを手掛けるようになった。「もっとも、私たちがやるのは単なる小手先のリフォームではありません。物件を空っぽにして、中も外も完全にリフォームするんです」とムーアは語る。
「そうして物件の価値を高めた上でローンの借り換えを行うことで、新しい査定額から価値の上乗せ分の現金を引き出すことができます。その現金で新たな物件を購入して、1年後くらいに最初の物件を売却し、そのお金でまた新たな物件を購入します。この方法なら、1つの建物から2つの物件を購入することができるんです」
シンプソンとムーアはトレードアップをして現金を貯めることを重視していたため、最初の数棟はポートフォリオに保有せずどんどん売却していった。その後、所有する戸数が一定の数に達したところで、夫婦が「有機的」と呼ぶ成長フェーズに入ったという。
「1〜2年に一度なら、自己資金に頼らなくても物件を購入できるようになったんです。所有している物件やそのキャッシュフローから資金を捻出できますからね」
夫婦の現在の平均物件保有期間は2年半程度だ。しかし今後は、もっと長く物件を保有しようと思っているという。
中古物件購入のコツ
Courtesy of Kenny Simpson and Krystle Moore
シンプソンによれば、掘り出し物件を手に入れたいならやはり不動産仲介業者と良好な関係を築くのがベストだという。その上でムーアは、購入を検討する際にはまずその物件の純収益(NOI)を計算する。
つまり、その地域の家賃相場に対してどの程度の賃料を設定できるかを考え、そこから経費として、インフレ上昇を考慮した光熱費や管理費、修繕維持費、そしてエアコン修理などの緊急用の予備費などを差し引くのだ。
こうして計算した結果、1〜2年以内に自己資金に対して最低5%のリターンを得られる場合にのみ投資する。
次に、リフォーム工事をするだけの投資対効果があるかを見極める。キッチンキャビネットやカウンター、フローリング、電気器具を完全に取り替えるリフォーム工事は、アメリカでは通常1戸あたり約3万5000ドル(約500万円)かかると言われる。
そこで、リフォームによって上げることのできた賃料の差分によって、最長でも2年半以内に修繕費用3万5000ドルを完全に回収できる場合にのみ、リフォームをすることにしている。
また、物件の価値を引き出すことにも注力している。洗濯乾燥機や収納の増設、ペットを飼う場合の追加料金、駐車場などによって追加収入を得ることができる。部屋の中に洗濯乾燥機やエアコンなど簡単な設備を追加するだけで、毎月300ドル(約4万円)の家賃収入増が見込める。
他にも、収納を洗面所つきのトイレにしたり、機能していない部屋をガレージやスタジオに変えたりすることで、家賃収入を大幅に増やすこともできる。こうした改修を複数のユニットに施せば、物件の価値は簡単に100万ドル(1億4300万円)以上高まるとシンプソンは語る。
ただし、シンプソンとムーアは物件の60〜65%にしかリフォームを施さない。「次の買い手のために、思うように改修できる余地を残しておくんです」とムーアは説明する。
「正直な話、リフォームによって家賃を一定水準まで引き上げられれば、物件は売却できるんですよ。だったら100%の仕事をする必要はなくて、60〜65%の仕事をしてあとは新しい買い手にやってもらえばいいんです」
夫婦の不動産ポートフォリオは現在、4戸つきのバケーションレンタル、2棟の集合住宅、そして売り出し中のマリファナ製造倉庫から成る。その収益は新たな集合住宅の買い増しに充てられる予定だ。
過去には数億円規模の失敗も…
シンプソンとムーアは、現在所有する物件のほかに、共同投資も行っている。テキサス州とフロリダ州の3つの集合住宅(合計259戸)の一部を所有しており、その加重平均所有率は約2.5%だという。
これらのベンチャー事業に合計約35万ドル(約5000万円)を投資し、年間約2万4000ドル(約340万円)のリターンを見込んでいる。
しかし、常に順風満帆だった訳ではない。建設業やマリファナ関連物件への投資で手痛い失敗も経験した。「手堅い多世帯住宅では飽き足らず、魅力的なものを追い求めようとした結果、数百万ドル規模の損失を出しました」とシンプソンが語ると、ムーアもこう付け加えた
「人に話したくなるような、クールで魅力的な分野への投資を追求することもできますが、自分の専門外の分野だとおそらく非常に危険だと思うんですよね」
2人の長期的な目標は、今後も不動産ポートフォリオを拡大させ続け、コーチングビジネスも広げていくことだが、最終的には投資だけで生活を成り立たせたいと思っている。しかし夫婦としてはまず、短期的な目標である優良なマイホームを購入したいとシンプソンは話す。
「おかしな話ですけど、僕たちはいま賃貸に住んでいるですよ」
ただし夫婦は、キャッシュフローが生活費全体を完全に生み出せるようになるまで、マイホーム購入は控えることに決めた。今後2年間にあと1〜2棟購入すればマイホームを買えるはず、とムーアは見積もっている。
「思うんですよね。ある日目が覚めて、所有している物件のキャッシュフローですべての支払いや生活費をまかなえたらどんなにいいだろうって。そうしたら、物件をさらに買い増す資金を稼ぐために仕事に行くんでしょうね」(シンプソン)
※この記事の初出は2022年9月9日です。