「優れたビジネスパーソンになりたい」と考えるコンサルタントであれ、「数千万円稼げる会社に就職したい」と思うビジネススクールの学生であれ、経営コンサルティング業界のさまざまな事柄は、本から学ぶことができる。
コンサルタントとは、経営者が資金面や事業面で賢明な決断を下すようアドバイスすることを専門にしている。たいていは、企業の強みや弱みを即座に判断する才覚のある人たちだ。
高い年俸や名声はさておき、コンサルタントは日々、チームのメンバーと協力し合い、有名クライアント相手に交渉し、複雑な問題を解決している。
そのスキルのほとんどは、ビジネススクールや一流企業での厳しい研修で身に付けたものだが、中には本から学んで身に付けられるものもある。
そこで本稿では、元コンサルタントやMBA保有者、ビジネススクールの教授らが推薦する23冊を紹介しよう。
問題解決や説得の手法を解説したものから、経営スタイルの違いがどんな影響を及ぼすかを学べるもの、押さえておくべきポイントをまとめたものまで、幅広いタイトルが並んだ。
スーザン・ケイン『Quiet』(邦訳:Quiet——内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力)
Crown Publishing Group, Random House, Inc.
本書は、イェール大学経営大学院のゾーイ・チャンス準教授の講義を履修する際の必読書となっている。
「影響力と説得力の習得」に関する講義を行っているチャンスは、Mediumの記事の中で、内向的な人にどう働きかければいいかをひとたび理解すれば、学生たちももっと優れたリーダーになれると書いている。
著者のスーザン・ケインは本書の中で、外向的な人と内向的な人の考え方がどう違うのか、問題解決における両者の長所と短所、内向的な人がいかに素晴らしいリーダーになれるかを解説している。
ジム・コリンズ『Good to Great: Why Some Companies make the Leap and Others Don't』(邦訳:ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則)
HarperBusiness
デイビス・グェンは、イェール大学を卒業後ベイン・アンド・カンパニーで2年間働き、マイ・コンサルティング・オファーというキャリア支援企業を立ち上げた実績も持つ。そんなグェンが、転職の際や組織を率いるうえで壁にぶつかったときに役立った本を何冊か紹介してくれた。
まず取り上げるのは、変化の激しい昨今の職場にぴったりな『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』だ。
本書は、優良企業を超一流企業にするものとは何かという点に迫るほか、昔ながらのビジネスコンセプトと起業家マインドを組み合わせた4つの経営戦略を提示している。グェンの言葉を借りれば「ビジネススクールでよく読まされる1冊」だ。
著者のジム・コリンズは本書の前に、『Built to Last』(邦訳:ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則)を出版している。これは6年間の調査プロジェクトをもとに、永続する企業を築くための青写真を描き出した1冊だ。
イーサン・M・ラジエル『The McKinsey Way』(邦訳:マッキンゼー式世界最強の仕事術)
The McGrawHill Companies, Inc.
マッキンゼーに就職するのは狭き門だ。その採用プロセスに向けた準備の一環として、「マッキンゼー的思考」に関する本を読むのもいいだろう。
著者のラジエルは同社の元アソシエイト。書名に「マッキンゼー式」とあるとおり、マッキンゼーのコンサルタントたちの仕事のしかた(ブレインストーミング、チーム作り、プレッシャーの高い環境でどう仕事をこなしているか)を明かしている。
キンドラ・ホール『Stories that Stick』(邦訳:心に刺さる「物語」の力——ストーリーテリングでビジネスを変える)
HarperCollins Leadership
本書をすすめてくれたのは、カリフォルニア大学バークレー校のハース・スクール・オブ・ビジネスで戦略的イニシアチブのディレクターを務めるモーガン・バーンスタイン。効率よく仕事を進めたい経営コンサルタントのためのベストセラーだ。
コンサルタントとは、物語を語るストーリーテラーでもある。データをまとめ、競合について調べ、企画を提案し、プレゼンテーションを通じてそれぞれのクライアントに向けた絵を描く。
本書は、ビジネスにみられる物語を「バリューストーリー」「ファウンダーストーリー」「パーパスストーリー」「カスタマーストーリー」の4種類に分類したうえで、事例やひな形を示しながらストーリーテリングをビジネスでどう活用すべきかを説いている。
パトリック・レンシオーニ『The Five Dysfunctions of a Team』(邦訳:あなたのチームは、機能してますか?)
Jossey Bass
先述のグェンが、リーダーシップに関する書籍の中で一番のおすすめと話すのが『あなたのチームは、機能してますか?』。ベイン・アンド・カンパニーで部下を持つとよく出くわす問題が書かれているという。
本書は、大小のチームを築くうえで役立つ実践的な内容だ。最大手企業でさえも悩まされる5つの機能不全を指摘しつつ、これらは多くの場合、特定できるし修正も可能だと述べる。さらに、こうした問題をどう乗り越えればよいかも示している。
セス・ゴーディン『Linchpin』(邦訳:「新しい働き方」ができる人の時代)
Penguin Group
ベストセラー作家であるセス・ゴーディンが、昨今出現しつつある「新しい働き方ができる人」、つまり、マニュアルが存在しないときにどうするかを考えられる人物に注目したのがこの本だ。
本書には、習慣に従うことを拒み、進むべき道を自ら切り開き、成功した人物の実話が描かれている。ハーバード大学がコンサルタント志望者に推薦する図書にも選ばれている本書は、自分の得意分野を見つけ、起業家的な視点で仕事を見ることの大切さを教えてくれる。
サイモン・シネック『Leaders Eat Last』(邦訳:リーダーは最後に食べなさい!——最強チームをつくる絶対法則)
Penguin Random House LLC
ベストセラー作家のサイモン・シネックは、本書の中で「シーダーシップ」と「経営の犠牲」にスポットライトを当てる。
キャリアや職場をテーマにした講演も多いシネックは、世界中を旅してさまざまなチーム文化に接するなかで、職場での信頼はどうやって育まれるのか、従業員との信頼関係を築けないリーダーがいるのはなぜか疑問に思った。
アメリカ海兵隊のとある大将に出会ったことで、シネックは経営における重要な学びをついに理解する。偉大なリーダーは、チームのために自らの安楽を犠牲にするのだ。
ハーバード・ビジネス・レビュー編集部『HBR's 10 Must Reads』(邦訳:ハーバード・ビジネス・レビュー BEST10論文)
Harvard Business School Publishing Corporation
本書は、経営学で最も影響力のある専門家による不朽の論文10本を、ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がまとめたもの。
顧客ニーズを理解する方法、ビジネスにおけるソフト・スキルの重要性、変化を牽引する際の重要な8つのステージ、といったビッグアイデアが紹介されている。
ボブ・ゴフ『Love Does: Discover a Secretly Incredible Life in an Ordinary World』(未訳)
Thomas Nelson, Inc.
著者のボブ・ゴフはニューヨーク・タイムズのベストセラー作家で元弁護士。本書はそんな彼のいわば回顧録で、前述のチャンス准教授は、本書にある2つの章をイェール大学経営大学院での自身のMBAコースで使用している。
第6章「Go Buy Your Books」は、機会を目の前にしたときにそれを掴み取るように学生らに促す内容だ。第10章「The Interview」は、「普通の人」も重要な人物になり得ること、成功とは才能よりも努力と戦略にあることを説く。
本稿で紹介する他の実用書とは違い、本書は前向きな姿勢でいかに困難を乗り越え、予想外の展開に対処するかという、ゴフ自身の足跡を記した一冊だ。
デービッド・マイスターほか『The Trusted Advisor』(邦訳:プロフェッショナル・アドバイザー——信頼を勝ちとる方程式)
Simon & Schuster
「ベイン・アンド・カンパニーでは、パートナーになろうというマネジャー全員にこの本を渡している」と教えてくれたのは先述のグェンだ。
本書は元経営コンサルタントである著者が、コンサルティング、交渉、アドバイスにおける必須ツールを紹介。クライアントと信頼を築くためにソフトスキルを磨くことの大切さを説いている。
マーク・ゴールストン『Just Listen』(邦訳:最強交渉人が使っている一瞬で心を動かす技術)
American Management Association
効果的な対人スキルを体得するのは難しい。著者のゴールストンは、人とつながるという行為は、相手がクライアントであれ友人であれ配偶者であれ、芸術だと考えている。
ゴールストンは、精神科医、ビジネス・コンサルタント、コーチとしての経験をもとに、本書の中で説得、交渉、セールスのテクニックを明かしている。
「古典ともいえるデール・カーネギーの『人を動かす』が好きな人にとって、本書は現代版『人を動かす』になるだろう」とグェンは述べている。
ブレネー・ブラウン『Rising Strong』(邦訳:立て直す力)
Random House
ニューヨーク・タイムズのベストセラー作家でありソーシャル・ワーカーでもあるブレネー・ブラウンは、恥や弱さの研究にキャリアを捧げてきた。本書では、グラウンデッド・セオリー研究を活用し、失敗や不快感を切り抜ける方法をアドバイスしている。
ビジネスでも人生でも、私たちはよく知らないものから距離を置きがちだが、辛いときに足場を固め直すことで人は成長するのだと、ブラウンは説いている。
先述のバーンスタインは、成功したいとか、「行動を促すような感動的な物語を観客に向けて話したい」というビジネススクールの学生に本書を勧めているという。
渡辺健介『Problem Solving 101』(邦題:世界一やさしい問題解決の授業)
Penguin Books Ltd.
本書は、マッキンゼーのコンサルタントを経て学校教師になった渡辺健介による一冊だ。もとは、暗記重視の日本の教育制度をクリティカル・シンキング重視へと向ける狙いで書かれたものだったが、まもなくして世界的なベストセラーとなった。
本書をすすめるグェンはこう話す。
「著者は、マッキンゼー式のクリエイティブかつ構造的な考え方を子どもたちに教えたいと考えたんです。私も好きな一冊で、自分がメンターをしている人によくプレゼントするんです」
本書を通じて渡辺は、複雑なコンセプトをシンプルに伝えるために、ロジックツリー、マトリックス、イラストを活用している。十代向けの本と見せかけて、実は新人コンサルタントにとっての指南書ともなる内容だ。
アダム・グラント『GIVE and TAKE』(邦訳:GIVE & TAKE——「与える人」こそ成功する時代)
Penguin Random House
著者のアダム・グラントは、組織心理学者であり、ペンシルベニア大学ウォートンスクールの教授でもある。
本書は、「ギバー(他者を手助けしようと努める人)」でいることがいかにキャリアの成功につながるかを、詳細な実例とともに実証している。逆に他者から奪う「テイカー」は、どれほど優秀な人材であっても往々にしてしっぺ返しを食らうことになる。
ゾーイ・チャンスは本書について、「最も成功した人も大きくつまずいた人も『ギバー』が多いのはなぜなのか、授業でディスカッションしている」とMediumに書いている。
ロバート・B・チャルディーニ『Influence』(邦訳:影響力の武器——なぜ、人は動かされるのか)
あらゆるコンサルタントが避けて通れないスキルといえば、説得力だ。
チャンスによると、ベストセラーにもなった本書はビジネススクールの必読書だという。数十年に及ぶ科学的研究や実験に基づき、説得力に関する6つの普遍的な原則を説いている。
例えば「好意」では、私たちは自分が好意を抱く人に同意しがちであり、また自分に同意してくれる人ほど好意を抱きやすい。
本書が説く概念を一度理解してしまえば、より効果的に交渉するための指南書として活用できる。
クリス・ヴォス、タール・ラズ『Never Split the Difference』(邦訳:逆転交渉術——まずは「ノー」を引き出せ)
HarperCollins Books
グェンによれば、本書は難しい交渉をどう進めればよいかを学ぶのに役立つという。
「本書に書かれている内容は、コンサルティングの現場ではよくあることです。利害関係者が複数いる場合、彼らとどう関わるのが最善なのかを考えなければいけません」
かつてFBIで国際人質交渉人をしていた著者のクリス・ヴォスは、交渉を簡略化し、より強力に説得するための9つの基本原則にまとめている。
例えば、本書で最初に登場する重要なアドバイスは、良い聞き手になることだ。話を聞いてもらえるとクライアントに感じさせることが、どんな交渉事においても最初の一歩となる。
その他、クライアントをミラーリングすることや、ノーをうまく言えるようになる方法などが解説されている。
カレン・バーマン、ジョー・ナイト『Financial Intelligence: A Manager's Guide to Knowing What the Numbers Really Mean』(未訳)
Harvard Business School Publishing
本書は、数字の意味、そしてなぜそれが大切なのかを理解するのに役立つ手引書。本稿で取り上げる書籍の中では最も教科書的な内容だ。推薦してくれたグェンはこう話す。
「コンサルタントになるには、数字に苦手意識を持たず、財務諸表が読めないといけません。本書は、会計、そして数字の意味合いを理解するための入門書に最適です」
ベン・ホロウィッツ『The Hard Thing about Hard Things』(邦訳:HARD THINGS——答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか)
HarperCollins Books
成功した企業を経営することがどれほど大変かを熟知する人物といえば、ベン・ホロウィッツをおいて他にない。
ホロウィッツは2007年、経営していたソフトウェア会社オプスウェアを16億ドルで売却し、アンドリーセン・ホロウィッツというベンチャー・キャピタルを共同で創業した。
本書でホロウィッツはVCの共同創業者としての経験に触れ、ビジネススクールでは学ばなかった、起業時に遭遇した問題を赤裸々に明かしている。
また、グロース・マインドセットの保ち方や、継続的な成長を確立する方法、どうしたら競合他社をしのぐことができるかについての気付きも記している。
ダン・ローム『The Back of the Napkin』(邦訳:描いて売り込め!——超ビジュアルシンキング)
Penguin Group
ハーバード大学の職業開発センターが推薦する本書は、コンサルタントが「ビジュアルシンキング」の力を活用してクライアントの問題に対処するうえで役に立つ。
視覚科学分野で20年以上の経験を持つ著者のダン・ロームは本書の中で、PowerPointのプレゼンよりも紙に絵を描く方がはるかにうまくアイデアを伝えられるとして、次のように述べている。
「自分がある事柄をどれだけ知っているかを証明するなら、簡単な絵に描いてみせることだ。これ以上に説得力のある方法はない。見えないソリューションを明らかにするのにも、最強の方法はペンを使って問題の断片を描き出すことだ」
ピーター・ブロック『Flawless Consulting: A Guide to Getting Your Expertise Used』(未訳)
Pfeiffer
本書はコンサルタントの必読書として知られている。これまで3度の改訂を重ねており、その時代に応じてコンサルタントが仕事で直面するであろう課題に沿った内容となっている。
全18章にわたる本書は、難しいクライアントの扱い方、国際コンサルティングにおける課題の取り組み方、バーチャル・オフィスでの働き方などを説いている。
ハーバード大学の職業開発センターはこの本を推薦する理由として、本書が信頼関係の維持を重視していること、コンサルティングのプロセスを簡潔にまとめている点を挙げている。
ダフ・マクドナルド『The Firm』(邦訳:マッキンゼー——世界の経済・政治・軍事を動かす巨大コンサルティング・ファームの秘密)
Simon & Schuster, Inc.
世界でも指折りの影響力を持ちながら、その実態はベールに包まれた謎多きコンサルティング会社、マッキンゼー。本書の著者ダフ・マクドナルドは、そのマッキンゼーの文化を熟知する数少ないビジネス・ジャーナリストのひとりだ。
本書は、マッキンゼーの起源や、どのようにしてビジネス界での評価を確立したかを解説している。また、マッキンゼーが手掛けた伝説的な企業改革や、エンロン事件などマッキンゼーが関わった騒動、2009年に経営破綻するまでクライアントだったゼネラルモーターズとのことについても触れている。
バーバラ・ミント『The Pyramid Principle』(邦訳:考える技術・書く技術——問題解決力を伸ばすピラミッド原則)
Minto International, Inc.
バーバラ・ミントはマッキンゼーの元コンサルタント。本書はミントが同社在職中に執筆したものだ。
コンサルタントは本書を読むことで、クライアントへのアドバイスをどう構成するか、理論と根拠をどう活用すればよいか、アイデアをどうやって簡潔に伝えるか、などを理解するのに役立つ。ミントは自身の研究や実体験をもとに、情報はピラミッド構造にまとめると時間の節約になると述べている。
コンサル業界専門の就職支援会社マネジメント・コンサルテッドによると、本書は現在も、マッキンゼー、EY、ブーズ・アレン・ハミルトンなどで必読書となっている。
カル・ハリソン『The Consultant with Pink Hair』(未訳)
Rockbench Publishing Corporation
本書をすすめてくれたのは、アクセンチュアの元戦略コンサルタントのアレックス・ナス。現在はナウ・オア・ネバー・ベンチャーというコンサルティング会社の共同創業者を務めるナスは、本書を評して「コンサルタントの生活を面白おかしく垣間見させてくれる」と述べている。
本書は、ある経営コンサルティング会社のパートナーを務める2人が、難しいクライアントの案件をこなす様を描いている。フィクションでありながら、深夜に及ぶ残業、クライアントのマネジメント、競合他社とのコンペの様子など、コンサルタントの日常が克明に描かれているとナスは言う。
※この記事は2021年1月7日初出の記事の再掲です