バンク・オブ・アメリカのプライベート・バンクの最低顧客資産は300万ドルだ。
jacoblund
バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)には300万ドル(約4億5000万円、1ドル=150円換算)以上の投資資産を持つ富裕層を担当する約500人のアドバイザーがいる。こうした誰もが憧れる常連客の相手をする仕事の第一歩は大学卒業直後に始まる。
5730億ドル(約86兆円)の顧客資産を預かる同行のプライベートバンク部門では、今夏、47人のアナリストを採用した。前年比で75%の増加だ。その大部分は、同行でインターンをしていた新卒者だ。研修プログラムは入社直後の7月から2年間かけて行われ、ケーススタディで終了する。新卒者たちはこのプログラム終了時に正社員となり、さらに3年間の研修を受けてアドバイザーの肩書を得る。
バンク・オブ・アメリカのジェニファー・ローリン・ミラー(Jennifer Loughlin Miller)氏によると、彼らの最大の悩みの種は、働きながらエステート・プランニングの勉強をすることでも、要求の多い顧客に対応することでもない。リモートラーニングやインターンシップに精通している彼らの悩みは、大学の社会的側面を経験していないことだという。
「数年前から『大学にいるのと、入社して企業で実際に経験は積むことはこれほど異なっているのか』というフィードバックがあります」とプライベートバンク部門の人材開発を監督しているミラー氏は話す。
バンク・オブ・アメリカではZ世代の研修生に対応するために内容の改善を行った。一部のアナリストから、同僚が近くにいないことについて不満の声が上がったため、最低もう1人の研修生ととも配属することにした。また、プログラムはニューヨーク市での数週間に及ぶオリエンテーションから始まるが、それに「卒業」イベントが加えられたとミラー氏は話す。研修生たちは8月にボストンへ3日間旅行して修了を祝う。旅行には、ジョン・F・ケネディ大統領図書館でのレセプションや、ボストン港でのダックボートツアーも含まれている。
アナリストたちは4つの部門をローテーションしてから正社員になる。4回目のローテーションでは、慈善事業からカスタム融資に至るまで、25の専門分野から1つを選ぶことができる。
「この2年間の充実した経験は、正社員としての立場に飛び込む前に、この種の探求的発見の段階を経験するよい機会になっています」(ミラー氏)
アナリストは5週間の研修後に顧客に対応する仕事を始める
プライベートバンク部門の研修は5週間のオリエンテーションから始まる。初週はバンク・オブ・アメリカの全新入社員とともに、同行の歴史と組織を学ぶ。第2週はウェルス・マネジメントの基礎に当てられる。残りの3週間はプライベートバンクの運営に焦点を絞り、経営幹部らもやってきてアナリストと面談する。
アナリストからのフィードバックに対応して、研修では将来のチームメイトとどのように協力して働くかに多くの時間が費やされるようになった。彼ら彼女らは同僚やプログラムチームのメンバーと組になり、例えば、架空の顧客に助言を行うためにトラスト・オフィサーとどのようなパートナーシップを組むのがベストかなどについてブレインストーミングを行う。
オリエンテーション後は、ローテーションが始まる。各ローテーションは6カ月間で、最後に1週間のリーダーシップサミットが行われる。サミットでは、信託財産や不動産、融資、オルタナティブ投資、スペシャルティ資産などについて、実際の顧客に基づいたケーススタディを行う。
最初のローテーションの前に、資本市場のファンダメンタルズについて学び、帳簿の作成についてアドバイザーと話し合う。また、プレゼンテーションや即座に質問に答えることについての指導も受ける。各サミットの終了時に、研修生には詳細な教訓が記された「学習ノート」が与えられ、部署内の「相棒」が割り当てられる。
最初のローテーションの間、彼らは最高位のプライベートバンク・アドバイザーに付く。最初から顧客対応を行い、研修生たちはリニューアルされたばかりのプライベートバンクのアプリの使用方法や送金など、顧客の手続きをサポートする。また見込み客の調査や、スペシャルティ融資や住宅ローンなど、銀行の他の商品を利用する可能性のある顧客の特定も行う。
このローテーションの間、研修生はバンク・オブ・アメリカの「クレジット・カレッジ」で初級講座を受講する(宿題や試験はない)。ローテーションを通じて、毎週プログラム自体やメンターからアドバイスが受けられる。
「主な狙いはコーチングとフィードバックです。合格か不合格かはあまり問題ではありません」(ミラー氏)
さらに2回のローテーションを経て、アナリストは最後的な専門分野を選ぶ
次のローテーションは上級トラスト・オフィサーとともに、エステート・プランニングの支援や信託財産の作成や管理を行う。第3のローテーションでは、研修生はポートフォリオ・マネージャーに付き、その指導の下でポートフォリオを組み立てる。仕事の内容は日々のコンプライアンス業務から顧客とのミーティングのためのプレゼンテーション資料の準備、投資の調査にまで及ぶ。
最後となる第4ローテーションでは、アナリストらはウェルス・プランニングやカスタム融資、ストラクチャード・クレジット、慈善事業、チーフ・インベストメント・オフィスなどバンク・オブ・アメリカの25の専門分野から1つを選ぶ。アートサービス(富裕層が所有するアート作品を担保に融資する)も慈善事業や信託ソリューションと並んで近年人気になっているとミラー氏は話す。
プログラムの最後にはアドバイザーが顧客役をする最終ケーススタディがある。アナリストには数週間が与えられて、最近会社を売却した架空の富裕層家族とのミーティングの準備をする。
研修生にはそれぞれ同じ情報が与えられるが、このケースには15通りの異なる結末が考えられるため、アナリストはそれぞれ考え方を変える必要がある。例えば、その架空の家族が成人した自分の子どもたちに財産を渡すことを望んでいない場合や、借金を毛嫌いしていてスペシャルティ融資を利用したがらない場合などだ。このケーススタディは採点の対象にはならない。
研修はアナリストプログラムだけでは終わらない。過去に正社員から要望があり、現在の正社員はより個別化された研修を受ける。彼らは6〜8カ月間の「昇進プログラム」を受けることができる。このプログラムのカリキュラムは、彼らが希望する、ポートフォリオ・マネージャーなどのプライベート・クライアント・チームの職務に基づいている。
バンク・オブ・アメリカは目標とするアドバイザーの数については明言を避けた。
「アドバイザーには、信託の要素、投資や慈善活動の側面もあります。つまり、複数の目的地へ進むことを可能にしているのです」(ミラー氏)